メディアグランプリ

笑顔はイヤな記憶を支配する


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【3月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《火曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:slowman(ライティング・ゼミ土曜コース)
 
 
ネット動画鑑賞三昧な日々を過ごす私が、寝る前に観て目に留まった一つの動画。それは俳優の緒方直人さんの話。緒形拳さんという大物俳優の二世で自らも俳優として一時期はテレビドラマで見かけることが多かったが、最近見かけなくなった理由について語られていた。
私の部屋にはテレビはなく、新聞も取らない生活を始めてから3年以上過ぎているが、既にそれ以前からこの俳優さんをテレビなどで見かけなくなっていたので3年以上前からテレビドラマにはあまり顔出しされていないということになる。時の経つのは早いものだ。
 
そういえば、この動画を観た時に緒形拳さんの訃報が報じられていたのを思い出した。ガンが原因で逝去されたそうだが、眠るようにお亡くなりになったという内容だったと思う。不謹慎ではあるが、ガンで穏やかな死を迎えられたというのが当時の私にはとても大きな驚きで強く記憶に残った。そして「亡くなられたのは確か最近だったよな」とネットで検索してみたらとんでもない、既に10年以上経っているではないか。
「え! そんなに!?」事実と私の時間の感覚の差に驚いて深夜に大声をあげてしまった。しかし、なんでこんなに時間の感覚がズレるのだろう?
 
よく「まるで昨日の出来事のように思い出される」というが、これは自分にとって印象が強い記憶のことを指しているのではないかと思う。例えば私の場合、祖父や祖母が亡くなった当日のことは数十年も経つが今でも思い出すし、自分をフッた彼女がしばらくして結婚したと聞いた時の光景も思い出すし、会社からクビを言い渡された春の日の午前も思い出す……何やら書き出すと悪いことばかり記憶に残ってる感があるが、そもそも脳ミソの機能としてイヤな記憶を残すらしい。決して私の七転八倒の人生を嘆いたからではない……と思いたい……そして確かにそれらはまるで昨日起こった出来事のように思い出せる。緒形拳さんが亡くなられたのがつい最近に感じたのも亡くなられ方の印象が強かったせいだ。
 
記憶には時間の長さという感覚がないことが実感できた。しかしここでさらに記憶について疑う話を思い出した。それは今、頭に浮かぶその当時の記憶されている状況も正確ではないということ。つまり時間も空間も自分の都合の良いように歪曲して記憶してしまうようなのだ。
 
とある勉強会で講師の方が話した例を示そう。あの史上最大規模のテロ事件の「アメリカ同時多発テロ事件」について被害にあった人たちへ事件直後から数年間に渡り毎年インタビューを取った記録があるそうだ。そしてこの内容に驚く。あれだけ強烈な悲惨な出来事だったのにも関わらず、毎年被害者のいう内容が変わってきているというのだ。そして調査している人が「以前伺った内容と今伺った内容は違うのですが、どちらが本当でしょうか?」と尋ねると「答えが以前と違っているのですが、ならば今言っていることが本当です」と答えたそうである。そんな馬鹿な。事件直後に見たり聞いたりしているほうが正しいと思うのが普通ではないのか?
答えている人がおかしいのではなく、いかに記憶があいまいなのかを物語る話。もちろんこの話は私の記憶ではなくて当時の勉強会の音声で記録されている。なので確かだ。
 
どのみち記憶があいまいで時間が経つごとにその状況すら自分勝手に歪曲されていくのなら、楽しい記憶に歪曲したほうが良いのではないかと思っている。だから、最近は嫌なことを思い出したら笑うようにしている。笑うというのは笑顔を作るということ。本当に笑いたいかどうかは関係がない。笑顔を作ることで笑える感情が出てくる。これも脳ミソの機能らしいが今は脇に置いて。
もちろん、他人の死などの不幸なことを思い出して笑うようなことはしない。しかし自分が嫌だったと記憶していることは、その当時の自分が嫌だっただけであって、今なら当時の自分の痛い経験なんてのはお笑い種であることが多い。なぜならその当時の痛い経験はその当時の自分が招いたことだからだ。
 
先述の話を振り返るに、祖父や祖母の死は私の力でどうにもできないことなので辛い記憶として残ってしまうのはいたし方ない。しかし、当時の彼女にフラれただの、会社をクビになっただのは、そもそも私がその原因を作っている。その原因が何か探すのを差し置いて、嫌な記憶がどうのというのはなんだか都合が良すぎやしないかと思うようになった。
 
未だに腹が立つ記憶はたくさんある。しかし冷静に考えた時、自分がその原因であるなら腹も立たなくなる。むしろ内省できる材料だったりするわけで。そして私はその記憶を笑う。笑える程度の話だと思うようにしている。そうしていれば、そのつらい記憶をこれから思い出すことがあったとしても痛い経験というより懐かしい経験に変わっていくのではないかと思っている。
実際、最近私は嫌な記憶が蘇ると笑うことでその当時の記憶と共に生じる辛い感情や悲しい感情から離れることが増えてきた。ささやかだが効果はあったと思う。記憶とはそんなもののようだ。
 
ただし周りに他人がいるときに嫌な記憶は思い出してはいけない。以前電車の中で嫌な記憶を払うために笑顔を作ったら見知らぬ若いお嬢さんと目があった。訝しい目で見られてしまって辛い記憶がより辛いものになった。お試しされる場合にはご注意を。
 
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
http://tenro-in.com/zemi/69163

天狼院書店「東京天狼院」 〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F 東京天狼院への行き方詳細はこちら

天狼院書店「福岡天狼院」 〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階

天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN 〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5

【天狼院書店へのお問い合わせ】

【天狼院公式Facebookページ】 天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


2019-02-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事