メディアグランプリ

人はできることよりも、できないことの方が多い。


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記事:唐土大毅(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私は、すぐにできない理由を考えてしまう。
沖縄に行きたい! でもお金がない。憧れのあの子と付き合いたい! でもきっと俺なんて見向きもされないんだろうな。
こんな風に、とにかく自信がない。自分は何をするにしても失敗ばかりだし、思い通りいかない。このまま一生“できない男”として生きるのか、と日々落ち込んでいる。気分転換と言えば、読書と映画鑑賞くらいだ。
 
 
先日、映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』を見た。筋ジストロフィー患者・鹿野靖明さんとそのボランティアの怒涛の日々を約2時間に凝縮したノンフィクションだ。
 
結論を言うと、すごく良かった。鹿野さんと接してみたかった。と、思うほどに良かった。実に良かった。仮にボランティアに参加したとして、逃げずに続けられたかは自信がない。障害者の介護なんてまったく知らないししたこともない。だから、何人かのボランティアと同じように、「鹿野さんわがまま!」と嫌になってしまうかもしれない。逃げ出してしまうかもしれない。それでも、実際に介護したり話したりしたら、自分の中の何かは確実に変わっただろうな、という確信だけはある。
 
初めは、身体を自由に動かせないはずの鹿野さんのスタンスが気になった。前述したが、とにかくわがまま言い放題なのだ。例えば深夜2時頃に、
 
「バナナ食べたい!」
 
と言って、泊まりで介助しているボランティアを近所のコンビニやらスーパーやらに走らせている。新聞を鹿野さんが読める高さで維持したり、体の向きを変えさせたり。ほとんど自分でできることがないにもかかわらず、支えてもらって感謝を言うどころか次々と指令を飛ばしている。
 
でも、これだけ主張できる日本人はそういないと思う。
 
なぜ、これほど主張ができるのか。その理由を話しているシーンが印象的だった。
 
 
「できないことをできる人にやってもらっているだけ」
 
できないことをできる人にやってもらう。この言葉を聞いたとき、障害者も健常者も同じだと気付かされた。
 
鹿野さんはできないことが、普通の人より多い。なぜなら身体のほとんどが動かせないから。そして鹿野さんを知らない初対面の人は、わがままって勘違いしてしまうことが多い。
 
障害を患うと、たしかにできないことがぐっと多くなる。健常者よりも。
 
でも、結局は障害者も健常者もさほど変わらない。ひとりでなんでもできる人を周りに見たことはありますか? 完全自給自足生活。そんなことしている人、多分いない。
 
一人暮らししている人も、スーパーで買うお米を作る人に支えられている。お米を作る人も、畑を耕す機械を作る人に支えられている。その機械をつくる人も、きっと誰かにできないことをできる誰かにしてもらっている。
 
 
みんな、できないことをできる人にやってもらっているだけ。
 
 
この映画を観たあと、自分の中で人に何かを頼むということのハードルが、ぐっと低くなったと思う。
 
例えば、仕事。自分にこなすことのできない量が降ってきたとしても、余力のありそうな人、できそうな人にお願いする。これだけのことが、負担に感じる人はいるだろう。人に迷惑かけたくない、嫌われたくない、のようにネガテイブに考えてしまう。そう思ってしまっていたら、人に何かを頼む、ということは精神的にストレスになるだろう。
でも、人は皆、できないことはできる人にやってもらっているのだ、と知る。それだけで、頼み事はしやすくなる。
「これ、やっておいてもらえますか?」
の一言が言える。これを言えるのと言えないのでは全然違う。
 
この考えは私たちが暮らす、ごく身近なところにも表れている
 
障害者のできないことを少しでも減らすために、バリアフリーはある。どれだけできない人にフォーカスするか。何かができない人のために、何かができる人が動く。だから、点字があるし、スロープが生まれたのだと思う。
障害者だけではない。これは、健常者にも言える。できないことを少しでも減らすために、日々暮らしに新しい何かが加わる。例えば、インターネット。遠くにいる人に向けて手紙を書いて送らずとも、すぐにメッセージを送ることができる。例えば、SNS。気軽に発信したいけどできなかった人たちのために、アプリを開発できる人たちが発信の場を提供した。TwitterやInstagramなんかは最たる例だろう。
 
 
それと鹿野さんはこんなことも言っていた。
 
「人はできることよりも、できないことの方が多い」
 
その通りだと私も思う。だから、支えてもらってばかり、とか気にしなくていい。ただ、できないことをしてもらっているだけ。たまたまそれが、あなたのできないことだったから。だから気にしなくていい。
 
 
 
もし、誰かをちょっと助けたいと思ったら、その人のできないことをできるようになればいい。
 
私は、少しでもいいから“できる男”になりたい。そのためにも、人ができないことに目を向けるのが上手な人になろうと思う。そしたらちょっとは見える世界も変わってくるだろうか。
 
 
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2019-02-09 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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