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メディアグランプリ

沼に沈んで、カッパになって


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:岩田あやか(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
この世には様々な「沼」がある。
といっても、どろ深い大きな池のことではない。
 
特定の趣味にのめり込んで、ズブズブと深みにはまっていく、そしてその世界から抜け出せないところまで落ちていく……あの「沼」のことだ。カメラ界隈には「レンズ沼」、音楽界隈には「イヤホン沼」、二次元界隈ではアニメのタイトルの数だけの沼があるだろう。

そこに愛があるから、息を吸って吐くように「推し」に課金する。通帳の残高の減りが凄まじくとも、なぜか「推しに課金した」という事実が、自分に幸福として還ってくる。まるで、お布施をしているような感覚だ。
 
隠さずに告白したい。
私は「椎名林檎沼」に沈んで、長い。
 
十年以上も前、中学生の頃だ。クラスで流行っていたはずの、嵐のラブソングも、EXILEのダンスミュージックも、途中で飽きてしまって、最後まで聴くことができないような田舎の中学生だった。お昼休みに放送委員が選曲して流してくれるヒットチャートは、だいたい苦手で、ひねくれていた。
 
そんな私が、自宅のリビングでテスト勉強をしていた時のこと。
テレビは点けっぱなしにしたままだった。
 
……沼との出会いは、意図せず突然やってくる。
 
画面が切り替わり、チャンネルは椎名林檎の「迷彩」のPVを映し出した。
番傘から顔を覗かせ、着物に身を纏った椎名林檎が、私を舐めるように睨んだ。蛇に睨まれたように、テレビの前から動けなくなった。あの瞬間の感覚を、自分の肉体が在るうちは忘れることはないだろう。
 
沼に浸かってからの私は、驚くほど活動的になった。
 
まず、放送委員に立候補して、椎名林檎の音楽を校内に響かせることに専念した。クラスメイトからは「なんか、あんまり聞いたことない曲、流すよね」と言われた。それでも流し続けた。
彼女のCDは、すり切れるほど繰り返し聴いた。気分が乗ってくると、勉強机をドラム代わりに叩いてリズムを取り、父親には「近所迷惑で恥ずかしいから、本当にやめなさい」と怒られた。それでも辞めなかった。
 
誘われれば、苦手だったカラオケにも行くようになった。もちろん歌うのは、椎名林檎の曲だ。しかしながら、「この曲いいよね!私も大好き!」という反応を得られたことは、ほとんどなかった。当時はそれがとても寂しかった。
 
そんなわけで、10年以上、沼の中で孤独に過ごしていた。ライブに一緒に行けるような友人も居なかったので、実の母親に同行してもらったほどだ。
 
しかしながら、最近の私は「カッパ」である。
人間を沼に誘い、水中に引きずり込む妖怪。おぼれさせて、尻子玉を抜いて、ふぬけにしてしまう昔話もある。あのカッパだ。
今の私は、椎名林檎沼に数々の友人を沈めてしまう。
 
転機は、彼女のツアーグッズに「夏着物」が加わったことだった。
一式を揃えるとゆうに20万円を超える価格。
 
「欲しい。値段的に出せなくはない、でも、私には出せない」
 
私は、財布の紐を閉じた。猛烈に切なかった。
それは、欲しいものが手に入らなかったことに対してではなく、「林檎さんが、ツアーグッズを通して、表現している世界に入れなかったこと」への切なさだった。
月給1ヶ月分くらいを投じれば、彼女がより良いプロダクトを世に送り出してくれるかもしれない。その機会に加担できなかったこと、それが何より最も悔しいことだった。
この出来事で、自分の財布の上限額ではなく、自分自身の信仰心の限界を知った。
 
それでも「小さくて、つつましくていいから、椎名林檎さんの役に立ちたい」という想いだけは、はっきりと自分の中で再確認することができた。
 
そこで始めたのが「ゆるい椎名林檎しばりカラオケ会」だった。
 
参加者は好きな曲を自由に歌うが、私はその参加者の曲の雰囲気から「この人が好きになりそうな椎名林檎の曲」をチョイスして歌っていくというものだ。170曲以上を超える、椎名林檎の曲というデータベースから直感で選び、歌っていく。後から聴き直して拡散できるように、当日のセットリストはyoutubeのプレイリストに落とし込み、配布するまでの徹底ぶりである。
Facebook上で「お試し」で始めたイベントだったが、思いの外好評で、月に一度の開催が、かれこれ一年も続いている。
イベントでのつながりがきっかけになって、ライブ参戦者も4人育成するに至った。ライブの後には、そんなメンバーで朝まで歌い倒れていた。
 
気づけば、孤独な沼は、賑やかで温かい温泉と化していた。そして私は、沼に彼らを引きずり込んだ「カッパ」という役割を果たしていた。
 
中学生の頃の自分と、カッパの今と、何が違うだろうと振り返る。シンプルに、そこに「布教しよう」という押し付けがましさがあるか否かだと、今ではわかる。
 
「聴き手の文脈に添うように、曲を提案する。そして、そのこと自体が喜びである」という感覚が、今の私にはある。
 
沼に、巻き込もうとしてはならない。カッパは水辺を歩く人を、こっちにおいでと誘うまでもないのだ。カッパたるもの、彼らが好みそうなことを、沼の中で誰よりも楽しくやってしまうことだ。それこそが、誰かを沼に足を滑らせる唯一の秘訣なのかもしれない。
 
 
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2019-02-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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