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メディアグランプリ

内なる恋心


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:矢内悠介(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
いつからだろう、彼女を目で追っていることに気づいたのは。
生まれて14年が経ち、それなりにいろいろなことを感じながら生きてきた。しかし、ひとりの女性のことを毎日考えるようになったのは初めてだと思う。
 
小学校から続けているバスケットボール。ずっとサッカーをやっていたのに、スラムダンクというアニメに出会ったせいで、バスケのことしか考えられなくなった。中学校でも、バスケを続けることに決めた。
 
学校には、バスケをするために来ていた。勉強は退屈で仕方なくて、放課後になるまでは、どうしたらもっと速く動けるか、どうしたらもっとボールをうまく操れるかを考えていた。せいぜい楽しかったのは国語と日本史ぐらいである。
 
中学校もあっというまに2年目を迎え、バスケ部に1年生が入ってきたのだが、小学校の頃の後輩とは仲良くしていたものの他の後輩には興味がなかった。要は、自分のことで頭がいっぱいだったのである。
 
3年生がバスケ部を卒業すると、いよいよ自分たちが主役の代となる。益々わたしはバスケに集中するようになった。
 
「先輩、鈴木っていいます。先輩のようなフォワードのスタイル、すごく好きです。一見ムチャに見えるけど、苦しいときの突破口を開いていますよね!」
 
ある日、女バスの後輩に話しかけられた。誰だか知らないけれど、自分のプレイスタイルをしっかり見ててくれている人がいることが、単純にうれしかった。
 
鈴木さんは、女バスの後輩の中で飛び抜けて強い人であることが間もなくわかった。バスケ部で話題になり、チームを盛り上げようとする姿勢も買われ、ベンチ入りをすることになっていた。交代でチャンスが巡ってきたときには、スタメンの中でのプレイも先輩にまったく引けを取らなかった。
 
幼馴染である女バスの毛利さんとは家が近いのでよく一緒に帰っていたのだが、ときどき鈴木さんがついてくるようになり、話すことが増えた。毛利さんと鈴木さんはとてもいい関係を築けているようで、勉強や人間関係の相談をしているうちに、遊ぶようになったようだ。
 
そういえば、鈴木さんに負けずとも劣らずなプレイヤーで、灰原さんという人がいる。灰原さんは鈴木さんとずっと仲良しで、プライベートではしょっちゅう一緒に遊んでいるということだった。髪が茶色っぽくなっていたり、透き通った白い肌が印象的だった。
 
ある試合の帰り、鈴木さんと灰原さんと一緒になったので、しばらく話していた。鈴木さんはわたしが普段どのように過ごしているのかを聞いてくるので、鈴木さんのことも聞いた。どうやら、音楽の趣味が合うようである。ドリブルやシュートのときに意識していることなども聞かれ、逆にこちらが勉強になった。
 
「先輩は彼女とかいるんですか?」
 
あまり口を開かなかった灰原さんが、突然プライベートの奥に押し込むように聞いてきた。いないと答えると、そんな風に見えないと言ってくれるのだが、どうもこういう会話は苦手だった。先輩なのでたてようとしてくれているのだろうか。
 
その日の試合で気づいたことだが、灰原さんは鈴木さんほどの派手さはないものの、全体の歯車を整えるような安定したプレーをしていた。
その後も彼女を見ていると、いかに真剣に練習に取り組んでいるかがすぐにわかるほど、試合の度にうまくなっているのは一目瞭然だった。言葉にあまり出さずとも、内に秘めるものの情熱を感じた。
 
灰原さんと初めて話した日の2ヶ月後ぐらいだったと思うが、下駄箱に手紙が入っていた。鈴木さんからだ。放課後、話があるので体育館に来てほしいということだった。
 
「ずっと好きでした。つきあってください」
 
かなり驚いた。ドラマやアニメでしか観たことのなかったシーンが、自分の目の前に飛び込んできた。しかも、自分が主役のひとりとして立っている。こういう場合は相手のことが嫌でなければつきあうものなのだろうか、それとも相手に恋愛感情がない時点で断るべきなのだろうか、たくさんのことが頭を巡った記憶がある。
 
すぐに答えが出せないこともあり、お断りすることにした。考えさせてほしいと言ったところで、ずっと検討中としてしまうことはわかっていた。しかし、嫌ではないのにつきあわないのはなぜなのだろうという自分の中での葛藤があった。
 
次の日、鈴木さんはいつもの様子でわたしに話しかけてきた。何事もなかったかのように平然と話してくる彼女は、とても強い人だと思った。
 
「先輩、好きな人いるでしょう。そして、その好きな人は灰原さん」
 
さらりと心の奥に突き刺さる言葉を伝えてきた。あのときの、彼女の笑顔の裏にあるとても複雑な感情は、当時のわたしにはとても理解できなかったであろう。
 
わたしが自分で気づいていない感情に、彼女は気づいていた。そのとき、なぜ鈴木さんとつきあうことをためらったのか、初めてわかった。
わたしは、灰原さんに恋していたのである。
 
続けて彼女は言った。
 
「彼女が自分から言うことはないと思うので、先輩から告白してあげてくださいね」
 
 
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2019-02-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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