メディアグランプリ

娯楽から学ぶもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:西元 はる香(ライティング・ゼミ特講)
 
 
娯楽は役に立たないものだ。日々やるべきことから癒される一瞬のためにあるのであって、それに多くの時間を費やしてはいけない。そう思っていた。
そう思うのも無理はない。「漫画を読むなら勉強しなさい!」だとか、「テレビを消しなさい!」だとか、そういう言葉を何度聞いたか分からない。小さい頃から娯楽は役に立たないことだと、そうすり込まれてきた。
しかし、見てはいけないと思うと余計見たくなるのが人間というものだ。親の目を盗んでは漫画を読み、ゲームをし、それらに夢中になった。それは受験生になっても変わらないままで、勉強のストレスから激しく娯楽を欲した。
 
大学受験が差し迫る2005年の1月、あろうことか私はハリーポッターシリーズを読みはじめてしまった。映画化され話題になったこともあり、以前から読んでみたいと思っていたのだ。しかし、私は今が『その時』ではないと知っていた。本を読んでいる暇はないからだ。今は受験シーズンまっただ中であり、センター試験まであと2週間ほどしかない。周りも本気モードで教室はピリピリしているし、家にいればそれはそれで勉強しなさいと親がうるさい。毎日勉強、毎週テスト。つまり今は勉強以外のことは避けるべきなのだ。
漫画じゃないし、小説ならちょっとくらい読んでいいんじゃないか?
そんな都合の良い言葉が頭の中で行き来する。そして疲れ果てた私の頭は、それを肯定した。よし、1巻の1章だけ。1章だけ読んで、それから勉強しよう、と。
 
ところが、1ページ、また1ページと捲る度に、手が止まらなくなった。目が止まらなくなったといった方が正しいだろうか。そう、ハリーポッターは想像以上に面白かったのだ。1章なんてものはもちろん、あっという間に読み終えてしまった。だから次は1巻だけ読もうと思った。本当にそれでやめようと思ったのだ。なぜなら、私は勉強しなければならなかったからだ。本を読んでいる場合ではない。
しかし、私の足はまたもや図書館に向かい始め、2巻を手に取っていた。2巻を読んだらますます面白くなり、3巻を読んだ。3巻を読んだらさらに面白くなり、4巻を読んだ。するとそこで、当初ハリーとくっつくと思っていたハーマイオニーがロンを意識しはじめやがった。そのせいで私はロンとハーマイオニーの行方、そしてハリーとハーマイオニーの絶妙な友情、それら諸々といった魔法に関係のないことが気になってたまらなくなっていった。人間関係まで気になりはじめるとますますハリーポッターが面白くなってきた。もう完全にドハマりして、勉強どころではなくなっていた。
 
しかし、そんなハリーポッター読書月間はあっけなく終わりを迎える。最新刊まで読んでしまったのだ。このときハリーポッターシリーズはまだ途中までしか出ていなかったので、続きを読むには待つしかない。私はしぶしぶ勉強することにし、その合間にハリーポッターの続きを妄想したり、既刊を読み返したりして乗り切った。
 
そんな感じだったので、勉強には全く自信がなかった。そんなとき、ある大学の入試で小論文があった。ハリーポッターのせいで全然勉強をしていなかった私だが、小論文はすんなりと書けた。ハリーポッターの文体を思い出しながら、リズムに乗るように文章を書いたのだ。その時の小論文のテーマが何だったかさえ思い出せないが、その手ごたえははっきりと覚えている。結果、何校か受験した中で合格したのはその小論文があった大学だけだった。どうやら、本を読み過ぎたおかげで文章能力が上がったらしい。
 
それから十年以上経ち、私は母になった。そして知らず知らずのうちに、現在小1の息子に「ゲームをするなら勉強しなさい!」と言うようになっていたのだ。それは私が言われたくなかった言葉ナンバーワンなのだが、そんなことさえも忘れていた。大学受験の出来事は、記憶の彼方に追いやられていたようだ。
 
そんなある日、息子を連れて行った博物館で石炭の鉱石を展示していた。
「ほら見て、これは石炭の鉱石だよ。石炭って何か知ってる?」
そう問うと、息子は即座に回答した。これには驚いた。私は、小1の息子が石炭なんて言葉を知っているはずがないと思っていたからだ。
「知ってるよ! マインクラフトで石炭鉱石が出てくるの!」
息子は目をキラキラと輝かせながら、何やら興奮しているようだった。マインクラフトとは、息子がハマっているニンテンドースイッチのゲームだ。自分で材料から建物や農場を作るクラフトゲームである。ゲームで出てきたことが、現実の世界にある! もっと石炭について知りたい! そんな顔で息子は石炭を眺めていた。
 
その時、私はかつてのハリーポッター現象を思い出した。ああ、同じだ。自分が好きで見ていたものが、勉強に繋がったのだ。
 
娯楽は役に立たないものだと思っていた。しかし、娯楽は最大の教科書だったのだ。世の中に無駄なものなんてひとつもないと、今はそう思っている。それでもまあ親なので、ゲームはほどほどに、とは言っているけれど。自分の好きなものを通して、もっと好きなものに繋がればこんなにいいことってないな、と思うのだった。
 
 
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2019-02-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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