メディアグランプリ

「“おしごと”は今生きるためのお守りだ」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:蘆田真琴(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
ある日のこと、週始めに従妹からのLINEが入った。
 
開いてみると、次々と文とスタンプが流れていく。読んでいくと、同じ趣味を持つ友達とゲームアプリのイベントに行く予定だったが、相手の都合が悪くなったためチケットを余らせてしまうので行かないか、とのことだった。
 
家事や勉強があり“週末は必ず暇”という訳ではない。「暇人だと思われるのもなんだかな?」と思うくらいの妙なプライドもある。
 
しかし残念ながらこの私、昔から好奇心に勝てない性分である。
 
実際、面白いと話題になったアプリゲームをいくつか遊んでみたこともあるし、大規模なイベントがある人気ゲームの存在も知っている。
 
だがイベントとなると、なかなか都合がつかなかったり、情報を逃したりしていて実際に行く機会には恵まれなかった。
 
これは好機である。
 
私は彼女の誘いに乗ってみることにした。
 
イベント当日、私たちは現地集合を約束していた。だが、会場に向かう新幹線の車内で彼女からのLINEを受信した。
 
“もう物販の待機列ができているらしく……”
 
集合時間に設定したのは“物販”と呼ばれるグッズ販売が始まる1時間前。
 
そして現在の時間は、開始3時間前である。SNSのワード検索で現状を知ったのだろう。
 
“いいから君は先に行け! 私も後から追いかける!!”
 
何かの芝居か本で触れたような言葉を彼女に送った。本当なら待っている間、二人で近況や積もる話をしたかったのだけど、なんでも購入者先着でもらえる限定品があるらしく、それを入手したいのだといっていた事を思い出したのだ。
 
それなら急いだ方がいいに決まっている。私自身も予定のルートを変更して、急ぐことにした。
 
会場前に到着すると、既に長蛇の列ができていた。最後尾に行く途中で無事に従妹の姿を発見し、挨拶だけ軽く済ませ列の最後尾に並んだ。
 
その時点で物販開始まで1時間超。湾岸の会場であり、天気も曇り空。風を遮るものはなく、吹きっさらしである。そんな場所にめいめいの思う、お洒落な格好をした女性が長蛇の列を作っている。肩にかけている鞄にはそれぞれ好きなキャラクターのデコレーションが施されているものもあった。
 
「ああこれが“痛バ(痛々しいバッグ)”か〜」
 
通りすがりに何度か見たことはあるが、実物をじっくり見たことはなかったのでとても新鮮だった。缶バッジと言えど、数が集まればそれなりに重いだろう。それを持つ女性たちの体力と、荷重に耐え、なおかつ本来の目的を満たす剛性を持つバッグの存在に私は素直に驚いた。
 
しかし驚いたのはそれだけではなかった。
 
やれ「バッグが重い」「寒い寒い」「まだかまだか」と文句を言いながらも、皆一様に楽しそうなのである。イベントへの期待と高揚感で、もしかしたら寒さを感じていないのかもしれない。
 
翻って私はというと、寒暖差に弱いため機動力と保温性を重視した格好をせざるを得ず、お洒落とは既に縁切り済みである。しかもあまり知らないゲームなので、さしたる高揚感もない状態だ。
 
ひたすら寒さに耐え、時間が経つのを待つのはなかなかの苦行だった。
 
そして長い待機時間が終わり、列が動くと想像以上に周りが騒々しくなった。彼女たちの関心はもはや、寒さへの反応よりも「何をどれだけ買おう!」「今日のイベントはどんな内容なんだろう」「あの歌が聴けるだろうか」という期待感しかないようだった。
 
開始から40分後、従妹に頼まれていた分のお使いを達成し、無事に彼女との合流を果たした。目的の一つである限定品を入手して満足気な彼女の表情を見て、話しを聞いているうちに、周りの空気感もあって、待っていた時間と寒さに関する記憶がいつの間にかチャラになっていた。
 
私にも覚えがある。好きなアーティストのライブや、好きな美術展示に行くとき、または行った後のあの感覚である。それと何も変わらないことにようやく気がついた。
 
こうして、好きなライブや趣味のイベントに出かけたり、それに関係するものを作ったり、現地で目当ての商品を交換したり、普段離れた所に住んでいる同じ趣味の人に会って語り合うことを「推しごと」と言うらしい。
 
今回は“お仕事”は厳しくて辛いこともあるけど“推しごと”は楽しい。その“推しごと”のために「待つ」という辛い“お仕事”を頑張れる。
 
そういうことなのだろう。そして「推し」は日々共にあり“いとしい”と思い、心に置いている存在なのだ。
 
それは大なり小なり、誰もの心にもあるものだと思う。そういったモノコトを持ち、日々を楽しむ生活が続けていけるならそれは幸せなことなのだろう。
 
「そんなものはない」「それどころじゃない」と反論する人もいるだろう。それでも、何か心に留めているお守りのようなものはないだろうか。おそらくそれが今の“推しごと”なのかもしれない。
 
なにも同じ“推しごと”をずっと続けなければならないことはない。もしかしたら違うものに、ある日突然、取って代わられるかもしれない。
 
それゆえ私は、今の“推しごと”を大切に持っていようと思うのだ。
 
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2019-02-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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