メディアグランプリ

努力して得たものと元々あるもの


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記事:tomop(ともぴー)(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「来月、辞めることになりました」
 
「え……?」
 
2年目女子から出た言葉を聞いて、私は言葉を失った。
 
上司と私だけでやっていた業務がとても忙しく、営業だけやっていた2年目女子にも手伝ってもらうことになり、数ヶ月が過ぎたところだった。
 
私が行なっていた業務の一部を彼女に引き継ぎ、物流拠点変更に伴うシステム変更、サイトリニューアルと期限が決まっているこの大きな業務の一部を彼女にも担当してもらっていた。
 
まだ2年目なのに、それに私たちの業務の締切はいったいどうなるの……。
 
心の中でそうつぶやきながら、もしかして、一緒にやっていたこの仕事が嫌いで辞めるのでは……。
 
などとグルグルと私の頭の中で、言葉が回った。
 
「なんで?」
 
やっと言葉を発して聞いたところ、
 
「別の会社に転職することにしたんです」
 
「そ、そうなんだ」
 
「SEとかいいかなと思って。まだ求職中ですが」
「通販の仕事をするようになって、興味が湧いてきたんです。営業以外のことがしたくて……」
 
どうやら、通販の仕事がイヤだったわけではなかったらしい。
 
ちなみに、この日私は講座に行くことにしていて、業務時間終了後から始まった打合せがやっと終わったところでこの話を聞かされ、とにかく私は急いで講座に行きたかった。
 
この時には根掘り葉掘り聞く気持ちも起きず、さらりと会話が終わった。
 
後で聞いたところによると、皆、私の反応がどうなのか、心配していたらしい。
 
そうなのだ。私は彼女にとても期待をしていた。
 
私のやっていた業務を引き継いだ後も、彼女はとてもすんなりと業務をこなしていて、文章を書いても直すところがほとんどなく、メルマガを書いてもそんな感じだった。
 
そして、マーケティングのペルソナ像を作って顧客を想定してみましょうと言って会議に臨んだ時には、ほんの少ししか説明していなかったのに、彼女は完璧に資料を作成していた。
 
サイトリニューアルでは、要件をまとめ、議事録も作成し、会議終了直後にチャットツールでシェアし、全員がすぐに確認できていた。
 
リニューアル後のあいさつ文も彼女が作った。
 
とにかく、優秀なのだ。
 
同じ部の他の女性からも、彼女はとにかく勘所がいい、何とかして辞めさせるのを止められないか、上司は何で辞めることを許したのかわからない、等々意見が飛び交った。
 
グループ会社で打ち合わせ終了後、いち早く同じ仕事をしているチームで送別会を行なった。
 
上司にはひっくり返せるものならひっくり返そうと思いますと決意を話し、送別会に参加した。
 
そこで、彼女から辞める理由を根ほり葉ほり聞き出した。
 
「健康食品が好きじゃなかったんです……」
 
これまた言葉を返せなかった。
 
扱っている商品をあまり好きではなかったらしい。
私は健康食品自体が大好きだ。
 
妊娠後期から風邪をひいて、喘息の診断がくだされないのに、喘息の薬が効くから喘息なんでしょうという大学病院を受診した際に聞いたことが信じられず、それからいろいろな自然療法をやったり、健康食品も摂ったりしていた。
 
そうしたら、体質が変わったらしく、咳も出なくなった。
さらに、毎朝くしゃみと鼻水が出て鼻をかんでいたこともすっかりしなくなり、要するにアレルギー体質だった私は、すっかりと健康になったのだった。
 
そんな経験から私は今の職場に勤める前から健康食品は大好きだった。
 
食べ物で健康になれるなんて……。
 
扱う商品を好きか、好きじゃないか、大きな理由だ。
 
そして、私は今の業務を10年間行なっている。
これまでいろいろな業種の会社を渡り歩き、金利計算みたいなExcelの計算式をビッチリ入れたような仕事もしたし、Web制作の仕事もしたり、簡単なプログラムの手伝いもしたり、レストランや店舗を短い文章で紹介するような仕事もしてきた。
 
要するに今の仕事は、これまでやってきた仕事や経験してきた点の一つひとつがつながって線になっているようなものだ。
 
これまでの点と点をつなぎ合わせたような仕事でもあるけど、さらにこの仕事をするようになってから得たものもたくさんある。
 
それもわからない中でセミナーに出たり、何とか理解しようとして、本もたくさん読んだし、資格もとったりそのための勉強もしてきた。
 
実のことを言うと、英語も勉強しているので、外資系企業に転職しようと考えたこともあった。
でも、転職エージェンシーから来た仕事の内容は、食品素材の営業で、それもできると思ったものの、今の仕事で得た知識や経験を捨てることができなかった。
 
まだまだ、ここの職場で私は学ぶことがある。そして、知識や経験、技術も生かせる。
 
そう考えたのだ。
 
2年目女子に、彼女自身がとても優秀であることも説明したし、勘所もいいし、才能もあると説明したが、彼女の決意は固かった。
 
努力して得たものはなかなか捨てられない。
 
でも、元々できたことは、そこにそんなに価値を見いだせない。
 
そんなことを思いながら、彼女が次の会社で活躍することを願い、今の業務が無事に終わった後のお疲れ様会にも招待するからねと伝えて、彼女の最終日を迎えた。
 
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2019-02-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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