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メディアグランプリ

映画『7つの会議』は道徳の教科書だ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:うえたゆみ(ライティング・ゼミ土曜コース)

「今から行くぞ!」

友人のMさんが突然、電話をかけてきた。

「行くって、どこに?」
「映画だよ。こんな映画が日本で許されるとは思っていなかった。日本映画も捨てたもんじゃないな。見なきゃあ、一生後悔するぞ」

Mさんの発言にとても驚いた。
手放しで何かをほめることが、1年に1回もない男だからだ。

Mさんは車と映画をこよなく愛する男だ。車と映画について話し出すと、30分は止まらない。ただし辛口の批評家でもある。特に日本映画については、ボロクソの感想しか聞いたことがない。

サングラスをすると裏家業の人と間違われるくらい迫力があるが、甘党でカワイイもの好きの面白いおじさんである。最近の悩みは子供好きなのに、近寄るとお母さんに警戒されることだ。哀れの一言である。

Mさんの感想はどんなものにでも辛口だが、その批評は信用できる。特に映画については、疑いなんてご飯粒1つ分も感じない。

Mさんは映画館に毎月最低3回は足を運ぶ。Amazonプライムビデオでも、時間があるときは映画を見ている。気に入った作品は、数えきれないほど何度も視聴する。

心から映画を愛しているMさんが、一生後悔するとまでいう作品だ。いっしょに見に行く、という選択肢しか選びようがなかった。

Mさんと映画館前で合流した瞬間、忘れていたことに気づいた。
肝心の映画のタイトルを知らない。

我ながら、まぬけ過ぎる。

いまさら聞くのはとても恥ずかしいが、映画のチケットを買うまでモヤモヤしているのも嫌だ。笑われるのを覚悟で聞いた。

「Mさん、今日は何の映画を見るの?」
「悪い、悪い。タイトルを言うのを忘れていた。今日の映画は『7つの会議』だ」
「この映画は主役の演技がすごいんだ。さすが陰陽師シリーズの野村萬斎だな。脇役の香川照之もいい、及川光博も悪くなかった。よくぞこれだけの出演者を集めたな」

Mさんは役者について熱く語りだしたが、私にはわからなかった。

Mさんには申し訳ないのだが、私は役者の名前をほとんど知らない。映画の内容にしか興味がないので、感動した作品でも出ていた役者は忘れてしまう。登場人物は覚えられても、役者を覚えられない。

Mさんの話を15分聞いても、あらすじはわからなかった。唯一わかったのは、映画マニアのMさんが2回目でも我を忘れて興奮するほど、素晴らしい作品だということだけだ。

話を聞き疲れて私の体力は少々削られてしまったが、作品に対する期待は高まった。内容が全く分からないので、早く見たい気持ちが抑えられない。

座席に座っても、見たい気持ちは高まる一方だった。
スクリーンの真正面で、遠足前夜の子供のように上映開始を待ち望んだ。

上映時間は、アッという間に過ぎ去った。

日常に近い作品なのに、アクション映画よりも興奮した。
場面が30秒ごとに変化していく。

状況の変化が目まぐるしくて、息をつく暇がない。

作品にのめりこみ、感情を揺さぶられ続けた。
気がついたらクライマックスを迎えていた。

クライマックス、ここにたどり着いた瞬間

「すばらしい」

この言葉しか思いつかなかった。

最後の場面で語られたのは
ごくごく一般的な、よく耳にする言葉だ。

道徳の教科書なら、必ず書いてある
2つのテーマについて語られた。

普段、聞いても「そうだよね」としか思わない
常識と言われる考え方だ。

だが作品の中で
人間の喜怒哀楽を見せられ
こころの美しさと醜さに魅せられた

その後に語られてしまうと
真剣に考えるしかなかった。

『正しいとは何だろう?』

答えは出せなかった。

そして同時に気づいた。

この作品は道徳の教科書に記されている
理解は簡単だが、実現するのは難しい
2つのテーマのために2時間5分を費やしたのだ、と。

あまりの見事さに、立ち上がって拍手をしたくなった。
映画館でなく自宅で見ていたら、衝動を抑えられなかっただろう。

ここまで感動した日本映画は“容疑者Xの献身”以来だった。

映画館を出て飲食店に入ってすぐに、スマホで『7つの会議』の公式ページをむさぼるように読んだ。とても家に帰るまで待てなかったのだ。

真正面に座ったMさんの「してやったり」顔にイラっときたが、そんなことはどうでもよかった。

そして苦しみが襲った。
『7つの会議』原作者、池井戸潤の作品が多数ある。

家にはまだ読み込んでいない本が数十冊あるのだ。
それなのに未読の本を増やせというのか、だが買わずにはいられない。

まさか映画を見に行って
本好きの歓喜と苦悩まで、味わうことになるとは思わなかった。

『7つの会議』は素晴らしい作品だった。
1日の予定を変更してまで、見に行った価値は十分にあった。

『7つの会議』の感想を聞かれるたび、
「見に行かないと人生の損失だ」と語ってしまう。

Mさんの作品批評は正しかった。
また誘われたら、ホイホイついて行ってしまうだろう。

だがMさんに、言いたいことがある。
「映画館に誘うのは、せめて前日にしてほしい」

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2019-03-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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