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東京マラソン応援ツアーで気がついたこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:山本さおり(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「東京タワーもスカイツリーも覚えてない」
それが、昨日、東京マラソンを完走した夫の感想だった。
 
昨日、降りしきる雨の中開催された東京マラソン2019。
私の夫は応募から6年越し、今回も第2次応募で何とか抽選を引き当てた。
抽選が当たった時は、「大変なことが起こった!」というので、何かの詐欺にでもあって巨額の損失でもあったのかのような顔つきだったが、良い知らせで少しほっとした。
夫の喜びは、それもそのはず。抽選倍率は12倍を超えていたらしい。
 
それだけ念願だった東京マラソンで走るということは、さぞかし楽しいことだろう。
 
前日までの彼は、大好きな晩酌を止め、外食も「風邪がうつったら嫌だから」と家の中でおとなしく筋トレをするストイックぶりを発揮していた。前日には、ユニフォームにゼッケンをつけ、アームウォーマーやらキャップやらを並べて、楽しそうに準備をしている。
 
私もこの機会に、人生で初めてマラソンの応援に行くことになった。しかし、毎年東京マラソンの日は、朝起きたらテレビの放送も終わっているというぐうたらぶりだったので、どんな所で観たらいいのか、はたまたどんなコースを走っているのかも全くわからない。
そんな残念なぐうたら嫁の私に、この場所は比較的空いているから観やすいと教えてくれたり、ゼッケンの引き換えのときに貰ってきたからと応援マップまで渡してくれた。
追いかけて応援するコースまで一緒に考えてくれた。
これだけ楽しみにしている様子を見て、私も一生懸命応援しよう! と心に決めた。
 
しかし、私は、彼が東京マラソンにおいて、何を楽しみにしているのかを全く考えていなかった。そして、私は大きな勘違いをしていた。東京マラソンは、東京の景色の中を走ることが醍醐味なのだと思い込んでいた。中にはそういうランナーもいるだろう。しかし、彼は違った。
彼の楽しみは、「自己記録の更新」だったのだ。とにかく走ることが唯一絶対の楽しみだったのである。
 
思い込みは怖い。私は自分が思い込みをしているとも気がつかずにこう質問した。
「走りながら観る東京の街はどうだった?」
「どこの景色が一番覚えている?」
 
しかし、走っている側はひとつも景色を覚えていないらしいのだ。
答えが、「覚えているのは浅草の雷門くらい」
そして「東京タワーもスカイツリーも覚えてない」と話していた。
 
浅草の雷門。東京マラソンのコースの中でも最も東京らしい景色だったと思うのだが、それは、コースの直線上にあったから見たくらいとのこと。
 
思わず「えーっ!?」と声を上げてしまった。
 
本当に前を走るランナーの背中と道路の白線をひたすらに追いかけていたようで、テレビの東京マラソンダイジェスト版を観ても、「こんなところにスカイツリーがあったのか」と言っていた。
 
ランナーは「走る」ということに集中していて、まるで瞑想をしているかのように、頭を空っぽにしているようだ。確かに余計なことを考えて、脳にエネルギーを取られてしまっては、とてもじゃないが42.195kmは完走できそうにない。実際、何も考えずに走るのは、効果的らしい。
 
しかし、実は、頭を空っぽにしているのはランナーだけではない。応援する側も瞑想状態で追っかけている状況である。
例えば、私もランナーの集団の中から彼を見つけるのに精一杯だった。最初の応援場所では、ついうっかりコスプレのタイガーマスクに気を取られている間に、彼が通り過ぎてしまい、あっと思った時には、後ろ姿しか見えなかった。
次こそは絶対夫に声援を飛ばそうと反省し、次の応援場所へ向かうため、必死に地下鉄を乗り継いだ。そこからは、次の駅の場所がどんな地域なのかも知らず、ただただ東京マラソンのコースを追っていた。そして、周りの景色はよく覚えていない。
 
私は元がぐうたらなので、単に情報収集不足であるのは否めない。しかし、ランナーの彼を探すのに集中していたし、次の応援に間に合うように急いで地下鉄の乗換案内を調べ、どこが一番コースに近い出口なのかを確認して、最短距離で移動していたので、応援ツアーが終わった後は、肉体的には疲れても、とても頭がスッキリした。
肉体的に疲れたことは、42.195kmを自己ベストで完走した夫にはとても言えないが。
 
今回の東京マラソン観戦では、いくつかのことに気づかされた。自分の楽しみが人の楽しみと同じではないということ。そして、いつでも必死に動くことで、頭を空っぽにすることができ、それが思考にも感情にもスッキリ感をもたらすということ。
私がランナーとして、マラソン大会に参加することは遠い先のゴールを目指すように現実感がないが、応援する者として、来年の東京マラソンも観られるように、まずはコースの下調べから、ぐうたらからの第一歩を踏み出したいと思う。
 
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2019-03-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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