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メディアグランプリ

Win-Winの関係で結ばれた貧乏歯科医と社長


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:田中義郎(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 

「先生、1つだけお願いがあるのですが」
「何でしょう?」
歯科医の岡崎は丁寧に答えた。
「素晴らしい歯医者さんに巡り合い感謝しているんですが、1つだけ大きな問題があるように思います。先生はどのようにご認識されていますか?」
開院当初から診ている初老の患者からの突然の質問だった。
「何でしょう?」
と、岡崎は繰り返した。
「診察時間のことです」
現在、3人の患者を並行して治療を行っていた。1人の患者が長引けば他の患者に影響する。患者の立場からすれば、当然の指摘だった。
「佐山さん、申し訳ありません。次の治療までには必ず改善します」
「有難うございます。よろしくお願いします」
岡崎は速やかにその日の治療を終え、再度詫びた。
「お言葉に感謝します」
佐山は真摯な医師の態度に軽く頷いて帰っていった。
 
岡崎は歯科医師である。
「腕」には自信があった。ハイレベルな治療キャリアが自信を支えていた。20年間の病院勤務で相当腕を上げた。独立したいという強い衝動に駆られ、3年前から周到な準備を進めてきた。
歯科医院はコンビニの数を上回り、今や淘汰されていく運命にある。
地方都市であるが〇〇駅前で、マンションも数多く並ぶ好立地に物件を見つけた。が、例にもれず、すでに二軒の歯科医院が進出していた。
しかし、岡崎には勝算があった。自分の腕と腕に見合うハイレベルな機器と豪華な施設、それに、歯科衛生士や受付に接客技術を学ばせれば、競合を圧倒できると考えていた。実家の不動産を担保に借り入れた潤沢な資金もあった。
 
「患者様とWin-Winの関係で結ぶ歯科医院が3月25日に誕生します」
開院3日前、チラシを半径500メートルのエリアを目途に戸別配布した。
この岡崎の英断が功を奏し、予想をはるかに上回る来院があった。リピートの患者にも満足していた。
 
治療時間の短縮は、並行して治療する患者を3人から2人にすれば、ある程度解決することができる。次の予約から実行すると決めた。しかし、もう1つ解決しなければならないことがあった。開院当初に考えるべきことだった。スタートダッシュで心が緩み先送りされていた。
 
当初に考えるべきこと。それは「Win-Winの関係」だった。
岡崎は、どうすれば患者も医師も同時に満足する関係を創り上げることができるのか。チラシに記した「うたい文句」が何も分かっていなかった。
例えば、完璧な治療を施せば患者に喜んでもらえる。その患者が自分のファンになり固定化すればWin-Winの関係ができ上る。しかし、完璧な治療でも患者が当然のことと受け止めていれば(Win-Winの関係は)成立しない。
 
喫緊課題を解決すべく休診日に時間を割いた。ネットに頼るだけでなく、書店にも足を運んだ。しかし、納得できる答えは得られなかった。門外漢の弱さを改めて痛感した。
患者である佐山との約束で、次回治療時間短縮の話をしなければならない。もしこのときWin-Winの関係について質問が出たら、どのように答えるべきか。何も分からず不安が続いていた。
 
考え抜いた挙句、彼は奇襲攻撃に出ることにした。
佐山の年齢や身なりや言葉遣いなど、キャリアをしっかり積んだ社会人だという強い印象が、奇襲攻撃に踏み切らせた。
彼のカルテに記されている携帯電話に連絡を入れた。
電話に出た佐山は驚いた様子だったが、事情を話し快諾を得た。
 
午後4時、予定通り来院してくれた佐山に謝辞を述べ、待合に案内した。
「私は20年間、国立〇〇病院の勤務医をしておりました。開業は初めての経験です。ご無礼は承知の上でお願いしました」
岡崎は自己紹介を兼ねて、重ねてお礼を述べた。
「ご指摘いただいた治療時間は、シフトを変えるとある程度短縮できます。併せて、予約にスポットタイムをつくり、急いでおられる患者さんの時間に充てるようにいたします。ご助言有難うございました」
佐山は頷いてから名刺を差し出した。「佐山産業株式会社 代表取締役」と書かれていた。駅前ビルの5階で、医院とは目と鼻の先にあった。
「ところで先生、Win-Winの関係についてですが、私のビジネスでも大きな課題にしています。先生のお考えをお聞きしたいのですが」
岡崎は覚悟して答えた。
「チラシには書きましたが、自分では何も分かっていないのです。医師は良く『専門バカ』と言われますが、私も例にもれず、専門書しか読まない器の小さい人間です」
 
佐山は笑みを浮かべて言った。
「Win-Winの関係は、ビジネスの世界では、ほとんどが誤った認識をしているようです。ほとんどの人が『Win-Win』を『Win-Winの関係』だと勘違いしています。良い表現ではありませんが、お互いに相手の『利』をむさぼり合うのがWin-Winの関係だと。そこに人間関係が入り込む余地はありません。奪い取るものがなくなれば、はい、さようならです。Win-WinではWin-Winの関係の果実を享受できない。これが現実だと認識しています」
 
岡崎は少し考えてから
「関係とは人間関係なんですね。人間関係を継続させるため必要なもの、それは信頼ですね」
「そう、その信頼関係を構築するためには、相手を知る前に自分を正しく知らなければならない。より相手を深く知ろうとすれば、自分を磨かなければならない。また、常に真心で接しなければならない。相手も同様の態度で対応してくれれば、お互いの心が開き、そこに新しい人間関係が生まれてくるはずです。相手の心の中がより鮮明に見てくれば、信頼関係はさらに深まっていきます」
 
何を思ったのか岡崎は佐山の言葉をさえぎり、興奮気味に言った。
「真の信頼関係が構築されてくると、自分の思いや意見を包み隠さず述べ合うようになってきますね。その思いや意見が共鳴し合ったとき、1人のときでは考えられなかった新しい発見があります。今、思い出しました、病院勤務のとき懇意にしていた同僚の医師と常に議論を戦わしていました。その議論から生まれた新しい果実を2人で共有し、いつの間にかそれぞれのやり方で治療に役立てていました。それが大きな自信に繋がりました。その彼との繋がりがWin-Winの関係であったのではないかと気づきました。彼は現在も勤務医ですが、その当時の関係は今も続いています」
 
「なるほど。おっしゃる通りですね」
一息入れ佐山は続けた。「Win-Winの関係は人間関係から生まれる」
岡崎がさえぎった。「人間関係の深まりは、さまざまな議論を誘発する」
佐山が続けた。
「関係が深まれば深まるほど、それぞれの思いや考えは共感を呼び、共鳴し合ったとき」
岡崎が遮り「1人では考えもしなかった新しい成果にたどり着く」と繋いだ。
佐山が締めくくった。
「その成果がそれぞれにリターンされ、同化され、それぞれに甚大が影響をもたらす」
 
2人は顔を見合わせ噴き出した。
「やっとまとまりましたね」
佐山は嬉しそうに言った。
岡崎もにっこり笑って言った。
「私も明日から自信を持って仕事ができます。ずっと、Win-Winの関係に脅えていましたから」
「先生、Win-Winの関係は簡単に途切れることはありません。今後ともよろしくお願いいたします」
「ちょっと待ってください。お願いするのは私の方です。多額の借金を抱える貧乏歯科医ですが、この町で暴れましょう」
佐山は大きく頷いた。
2人はいつの間にかWin-Winの関係に支えられた仲間になっていた。

 
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。

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2019-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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