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メディアグランプリ

サラリーマンのボクが、仕事で丸坊主になった日


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:やまもととおる(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「発売後2ヵ月は絶対に品切れになることはありません! 皆さんは何をやっていただいても結構です! 日本中を、この商品だらけにして下さい! 万一品切れになったら、私は頭を丸めます!」
 
2004年春の大阪だった。営業部門の管理職・メンバーと、量販店の店頭作りをやって戴くパートナーさん。総勢250人の「決起大会」で、会場中を埋め尽くした人々を前に、私はこう宣言した。
全くシナリオにない発言だったが、「言わねば」という思いと、「大丈夫」と考える裏付けがあった。
 
「言わねば」は、皆が本気で「品切れ」を恐れていたからだ。直前に発売した商品が、トリッキーなネーミングと広告が消費者に受けて品薄になった。ロングセラーは全く望めない一発屋商品だが、お得意先からは抗議の嵐。営業はやりくりで大変な思いをしていた。そこへ「社運を賭けた」商品が登場したのだから、怖くなるのも当然だ。思い切り活動したいが、品切れが怖くて及び腰になる。
「大丈夫」は、普通ならあり得ないほどの数を事前に生産していたからだ。このカテゴリーの商品のコンビニエンスでの1日1店平均の販売本数(日販)は10本以下。昨年失敗した前ブランドは新発売時なのに平均10本も売れなかった。他社の業界最大のヒット商品が発売時に20本という、もの凄い数字をたたき出したことはあるが、「それに近づきたいね」と希望的観測で言い合っているなかで、25本売れても大丈夫な本数を事前に用意していた。社運を賭けていたのだ。
それでも壇上へ上がる直前、営業企画担当者に「本当に品切れはないか」確かめた。「猛暑なら夏場はタイトですが、初夏まではあり得ません。むしろ売れなかった時の在庫残りが心配です」
 
私の発言で、250人の営業部隊は、大歓声に包まれた。続いて壇上に立った近畿の本部長も「私も丸坊主になります!」と宣言。その日から、営業現場での活動はもの凄い勢いとなった。
 
3月16日、発売日にその商品はコンビニエンス最大手チェーンの店頭で、1日40本の日販を叩き出し、発売2日目で「出荷停止」とせざるを得ない空前の大ヒットとなった。
 
そもそも、ここまで社運を賭けることになったのは、何度新商品を出しても、このカテゴリーは大失敗続きで、ヒット商品が1つも出なかったからだ。大きな市場規模を持つこのカテゴリーで、定番ブランドを持つことは、10年来の会社の悲願であった。
一番大変な仕事を任された、若い30歳台前半のブランドマネジャーは、2年前、「商品品質と広告に、徹底的に投資して勝負する」として、ある商品を発売。販売不振のために、数ヵ月で撤退を余儀なくされて、会社に数十億円の損害を与えていた。
さらに昨年は、そのリベンジを誓って3月に新ブランドを発売したが、コンビニエンスで5月の連休も越せずに登録カット。その後彼は「何故失敗したか」を徹底的に自己批判して説明する会議を自ら招集。背水の陣で、冬のボーナスを全額札束にして、初詣の賽銭箱に投げ込んだ、との話も聴こえてきていた。
 
発売日の夜は、出荷停止が避けられない状況の下、会社で徹夜となった。お詫び広告の推敲から、営業最前線への対応連絡。生産・在庫計画の再設計から、朝方までに及ぶお得先との怒号飛び交う商談。翌朝の出荷停止発表後も、2日目で出荷停止となったことがテレビや新聞のニュースで大きく取り上げられて、それがまた消費者の人気を呼び、「商品を供給せよ」とのお得意先のお怒りの火に、油を注ぐ格好となった。
近畿の本部長は電話をくれて、「私が丸坊主になるから、お前は何もしなくていい」と言ってくれたが、2人揃って頭を丸めて、お客様から最も厳しい叱責を受けていた京都や大阪にお詫び行脚と今後の対応説明に伺った。働いている社員の苦労を最も知る労働組合にも一人で説明に行った。
お得意先であれ、社内の仲間であれ、殆どすべての人から厳しい言葉を浴びせられたが、我々が訪問してお詫びに来たことは、一定の評価をしていただけた。
私の当時の上司は、たたき上げの苦労人で厳しい人だったが、「お前が7分刈りで来たら殺してやろうと思ったが、3分刈りなのでまあ許してやる」と冗談を言って、職場を笑いで和ませてくれた。
 
丸坊主は、決してカッコいいものではない。最近でも、有名人がスキャンダルのお詫びとかでその姿になっているのをテレビで見たりするが、潔い姿に見えたケースは殆どない。あの時の自分は、皆にどう見えていたのだろうか。
 
今でもこの時のことを思い出すと、「人の気持ちを、心底震い立たせるものは何か」と考えることがよくある。
言葉で言えば、「背水の陣」とか「乾坤一擲」とか、「不退転の決意を示す」とか「やると決めたことは必ずやる」とか、「真正面から臨んで決して逃げない」とか「全員の気持ちを一つにする」とか、綺麗な言葉になってしまうが、結局は一瞬一瞬を真面目に真剣に生きるかどうか、なのではないか。
丸坊主自体に何も価値がないことは、改めて言うまでもない。
しかし、そこまで言わせた背景にある、「この商品にかける、仲間達の真剣な決意や思い」こそが何よりも大切な宝であり、大ヒットを生む原動力だったのだと思う。
 
それが今、実を結んで、悲願は現実のものとなっている。
もちろん、今でもこの商品は、毎年のようにリニューアルして、競合商品と熾烈な戦いを繰り広げている。
しかし、どこのスーパーやコンビニエンスへ行っても、大抵は並んでいるこの商品を眺めるたびに、またお客様がお買い上げ下さっている場面に出会うたびに、あの時、「日本中を、この商品だらけにして下さい!」と叫んで本当に良かったな、と思う自分がいる。後輩達にも、是非「この商品にかける、真剣な決意や思い」のバトンをしっかりと繫いでもらえたら、と願う自分がいる。
 
 
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2019-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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