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メディアグランプリ

死に向かうベルトコンベアの上で


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:平野謙治(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「もう無理だ。諦めて電車で帰ろう!」
「いや、絶対に最後までやり切る」
 
20歳の誕生日。僕は幼馴染と二人で、往復250kmのサイクリングに挑んでいた。
どうしてこんなことになったのか……。
 
1ヵ月ほど前のこと。僕は、幼馴染と温泉に来ていた。
露天風呂で半身浴をしながら、だらだらと話していた。
 
「俺たちもあと少しで、20歳になるのか……」
 
この頃の僕には、焦りがあった。
子供の頃に自らとは遠い存在に思えた「成人」に、あと少しで自分がなってしまうことに。そして、子供の頃に思い描いていた20歳の自分より、今の自分がずっと未熟に思えることに対してである。
 
「早いものだね」
 
将来僕は、何をして、どんな大人になっているのだろう。
子供の頃から、そんな疑問を抱き続けていた。答えはいつか、自然に見つかるだろう。そう思っていた。
だけどまだ、何も見えてはこない。気づけば、世間から「大人」とみなされる年齢はすぐそこに迫っている。それなのに、いつまで経ってもはじめて疑問を抱いたあの日と変わらない自分がそこにはいた。
 
唯一変わったのは、漠然とした不安が大きくなっていたことだった。成人するのが、とても怖かった。
何事にも煮え切らず、目指すものもないままに時間だけが過ぎていく。このままではいけないと思いながら、自分の将来を直視できないでいた。
 
「上手く説明できないけど、なんか不安だわ……」
 
顎が水面に着くくらい湯に深く浸かりながら、ポツリと言った。
 
「そうか……
それなら、お前の20歳の誕生日は不安なんか吹き飛ばす一日にしよう」
 
突然の曖昧な投げかけに、はてなマークが消えない僕に対して彼は続けた。
 
「やりたいことがある」
 
そうして提案されたのが、僕らの家から海を目指す、往復250kmのサイクリングだった。
 
「忘れられない一日にしよう」
 
節目の誕生日を控えているのに浮かない顔をしている僕に対する、彼なりの粋な計らいだった。
突然言われて驚きは大きかったが、僕の誕生日のことを考えてくれていて素直に嬉しかったし、同時にワクワクとした。
今まで、やったことのない挑戦。やり遂げた先で、新しい自分と出会えるのではないか。そんな期待感があった。
 
「いいね。行こう!」
 
出発は、20歳の誕生日を迎えた瞬間、深夜0時。
真っ暗な中、自転車を並べ僕らは出発した。
最初はとにかくワクワクが止まらなかった。漕ぎ切った先には、何が待っているのだろう。そんな想いで、ペダルを回した。
 
しかし250kmという距離は、生半可なものではなかった。
夜が明ける頃には、全身に大きな疲労を感じていた。
一生懸命漕いでも、なかなか進まない。30分ごとに海までの距離を確認して、その度にこれしか進んでいないのかと絶望した。
そして何より辛かったのが、僕らが走っていた川沿いの道の景色がまったく変わらなかったことである。この川は、どこまで続いているのだろう。どこまでも続いているのではないか。クタクタの脳みそで、そんなことを思い始めていた。
 
「休憩しよう!」
 
僕は声を上げた。もう何度目の休憩かもわからない。自転車を止めると、僕はコンクリートの上に仰向けになった。
よくよく考えれば、帰り道もある。まだ半分も走っていない。もはや完走は、不可能のように思えた。
 
心が折れた僕は、自転車をおいて電車で帰ることを提案した。ゆっくり休んで、後日取りにくればいいじゃないか、と。
しかし彼は、「完遂する」の一点張りだった。そこには、「お前の20歳の誕生日という節目の一日を、中途半端な思い出にしてはいけないんだ」という、彼なりの熱いメッセージが込められているようにも思えた。
 
その言葉を受け、僕は今にも泣きそうになりながら、出発前の気持ちを懸命に思い出していた。
少しだけだが、力が湧いてきた気がした。
 
「よし行こう」
 
僕らは再出発した。
そこからも何度も諦めそうになった。その度に彼の意志の強さに救われて、再び漕ぎだす。
それを何度か繰り返した先に……
 
「海だ……」
 
自然と出たのは、まるで生まれてはじめて海を見たかのような声だった。
疲れ切った身体に、波の音が響く。
 
僕らは、何も言わずに自転車をおいた。そしてフラフラと、砂浜に向かって歩き出した。
 
何度も諦めそうになりながらも漕ぎ続け、ここが、ようやく辿り着いた目的地。
そこに、何があったのか。
 
「うっ……」
 
熱を持った涙が、頬を伝う。
彼にバレたくなくて、岩場の先まで行く。
 
そう。そこには何もなかったのだ。
ただ、大きな海が広がっているだけだった。
 
最初から、わかっていたじゃないか。
 
20歳になれば、何かが変わると心のどこかで期待していたのかもしれない。
何事にも煮え切らない退屈な日々も、いつまでも自立できないでいる自分も、生活の何もかもが、変わるのではないかと。そんな、淡い希望を抱いていたのかもしれない。
 
だけど、何も変わらなかった。
20歳になったからといって、何かが変わるわけじゃない。急に大人になるわけではない。そこにいるのは、昨日までと何も変わらない自分だ。
 
人間は誰しも、生まれながらにベルトコンベアの上にいる。それは、「死」という終着点に向かうベルトコンベアだ。
長さは人それぞれかもしれないが、同じ速度で誰しもが平等に進み続けている。何かをしようと、何もしなかろうと、関係ない。速さが変わることも、止まることもない。同じ速度を刻み続けている。
 
歳はそうして、勝手に重なっていくものである。
歳を重ねたって、何もしなければ成長なんか出来やしない。
ただベルトコンベアの上で、「死」に近づいていくだけである。
 
時間は何も、解決なんかしやしない。そんなものに期待してはいけない。
むしろ自覚するべきである。ベルトコンベアの上にいる時間が限られているということを。
自ら行動を起こし、変化を起こせなければ、失意のまま人生を終えてしまう。
なりたい自分の姿があるのなら、自ら行動して掴みとるしかない。
 
こぼれ落ちた涙が海に吸い込まれた時、僕の心持ちは確かに変わっていた。
 
復路では、僕が前を走ってペースを作った。往路の体たらくが嘘のようだった。
当然、疲れはあった。だけど僕が辛いときに引っ張ってくれた彼に、背中で感謝を伝えたいと思った。
 
30分ごとに距離を確認することも、もうしない。
ただ前だけを見て、懸命に回す。
未来を変えられるのは、これからの自分だけなのだから。
 
 
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2019-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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