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メディアグランプリ

婚活戦線(自分だけ)異常あり


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:高橋敬大(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
結婚したい。そう思い出したのはいつ頃だろうか。
「え?女いない時期なんてあるのか?俺なんて何もしなくても向こうから寄ってきたからなあ」なんて会社の飲み会で後輩達に自慢気に語りながら「それでも妻と会った瞬間に、あ、この人だなってビビっときたんだよね。やっぱり妻が最高だね」なんて愛妻自慢を始める予定だった30歳。
 
俺の人生は「モテ」だけで構成されていたと言っても過言ではない。
物心つく前から俺はずっと女社会にいた。歳を取った今でも、「THE女の子」な母と、その母に多大なる影響を受けた歳の離れた二人の姉。そして唯一の男性だった父は女性誌の編集者という、超女性社会家庭の末っ子として生まれた。
待望の男の子として生まれた俺は、歳が離れていたこともあって溺愛された。
 
それが当然だと思っていた少年期を過ぎて思春期に入った頃、俺はとうとう気付いてしまった。
周りに女性はいる。いわゆる一般男子が勘違いするような手紙やメールのやり取りやハートマークもお互いに自然に送り合える関係だ。しかしその女性は決して俺のことを異性として、男性として見ていないのだと。
肉体の成長と思春期が進むにつれ、それまで当然のように居た女性達に距離をとられ、少しづつ孤独になっていった。
 
勘のいい方は気付いてしまったと思うが俺には男の友達はいない。小さい頃から女の子に混じって、同化していながらも名簿ではきっちり分けられるオンナオトコは、彼等が意識することすら出来ない小さな嫉妬心と相まって、いじめの対象になっていく。
 
そんな孤独で辛い青春時代を送りそうな予感漂う危機状態の中、転機が訪れた。
学校イチの不良同級生が俺と親友になったのだ。
もちろんそこには理由がある。彼は意中の子をゲットするためにオンナオトコの俺という手段を使ったのだ。
女性社会で生まれ育った俺のアドバイスは独りよがりの男子学生のそれと比べて何倍もの効果があった。その効果が発揮されると共に彼の俺への態度は尊敬へと変わっていった。
大人たちからも恐れられる学校イチの不良が「モテ」のために俺なんかに頭を下げる。
そこで俺は人生訓を得る。「モテ」が全てだと。
 
そこからの俺は「モテ」に全てを費やしてきた。金も時間も、そう全てをだ。
女性にウケるファッションを着こなし、女性にウケる会話のために女性誌を読み漁り、ドラマを見続ける。家庭環境もプラスに働いた。
 
そして言われるのだ。
「ごめん。友だち以上には思えない」
と。
そう。女には不自由はしていなかったのだ。それが付き合うという関係には行かないだけで。
 
その一方で負け続ける腹いせに見るドラマと女性誌の所為で、俺の中では結婚感と欲求がどんどん固まっていく。
結婚式は表参道のチャペルで彼女のドレスはマーメイド。俺は彼女好みのタキシードを着て手紙を読む手助けをする。共働きをしながら都内でマンションとクルマを買い、二人の子供を私立小学校にいれて雑誌に出てくるようなオシャレでお互いを尊重する夫婦になるのだ。
 
そう思い続けて結婚予定年齢を大幅に過ぎた今日も、新たなる黒星を記録することになった。見せかけだけの楽しさと内容の無い会話が今日は特に堪えた。彼女が自分の中での理想に近い存在だったことと、女性達を誘蛾灯のように惹きつける夜桜のせいもあるのだろうか。
ふと歩いてみようと思った。大きな敗北を受けて花見の定番スポットを背にいつもと同じように帰るのは癪だったのかもしれない。
 
当てもなく川沿いを行くと、過去の敗北の記憶と目の前のカップル達がリンクしていく。
耐えきれなくなって手近の地下のバーに飛び込む。惨めな自分には安酒がぴったりだ。人様の歩く地上ではなく地下でっていうのもまたいい。
「チープで強い酒をくれ。割らなきゃ飲めもしないラムなんかが惨めな俺にはちょうどいいかもな」
つい卑屈な自分が溢れる。
「かしこまりました」
三十路を越えてまだわからない、わかっているはずなのに出来ない。結婚のケの字も見えない。みんなが憧れる幸せが遠い。俺の婚活は異常ありだ。
「〜コをストレートでご用意しました」
思考の海に沈みかけてすぐ声がかかる。待ちわびていた酒を一気に煽ろうとした瞬間に気付いた。香りが違う。目の覚めるようで甘く芳醇な香りの液体をゆっくりと口に含む。うまい。これはラムではない。
「これは……?俺はラムを頼んだ筈では……」
「これはデイプロマティコというれっきとしたラムです。ただこれはお客様が、一般の方がイメージするラムとは少し異なってきます。お客様はラムの一般概念に囚われすぎて本来の良さを見ようとしていないと感じましたので、それとは全く逆のラムをあえて出させて頂きました。そしてこれは安酒ではなく高級なお酒なのですが、お客様の求める反対のものを提供したので料金はサービスしておきます」
「なぜ俺にこんなことを…?」
「あまりにもお客様のラムのイメージが悪いのでちょっとイジワルしてやろうと思いまして」
そう言ってバーテンダーは薄くて微笑む。
「デイプロマティコをはじめ、ラムには、お酒には沢山の銘柄がございます。それを酒の種類だけで判断されてしまうのはいささか勿体無いように感じます。一見苦手と感じても銘柄や飲み方によってイメージが変わってきます。そうやって相性を見極めながら自分だけの銘柄を、幸せになれる時間と相棒を見つけていくお手伝いをするのが私の使命だと思っています」
俺は一般概念でしか物事を捉えてなかったのだ。女性というもの、結婚というものに囚われすぎてその本質を見ていなかったのだ。それでは誰も自分を見てくれないのは当然だ。自分が望む幸せを掴みにいこうとすら、いやそれすら認識していなかった。みんなが思う幸せの幻想を追い求めようとしただけ。
もう一口デイプロマティコを口に含む。少なくとも自分には合っていると感じる。
「少なくとも今日は、少しだけ、幸せの片鱗が見えたみたいです」
 
 
 
 
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2019-04-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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