メディアグランプリ

都会志向の私が「農家の嫁」を全うするためにしているただ一つのこと


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記事:江戸しおり(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
「田舎の農家の長男の嫁とか、大変じゃない?」
 
久しぶりに会った女友達は、私の結婚報告に真っ先にそう言った。
 
「結婚して北陸に住むんだ。彼は公務員で、お姉さんが1人いて、ご実家は農家をしてるんだって」
 
そう話した私の言葉を、彼女は瞬時に「田舎の農家の長男の嫁」というネガティブワードに変換した。
 
私は田舎育ちのせいか、小さい頃から都会への憧れが強かった。だから上京してからは、できる限り絵に描いたような都会生活を送るように心がけていた。社会人になって初めて住んだのは東京タワーのすぐ下だし、休日は白金や麻布や銀座で食事をするようにしていた。そんな都会志向の私が、田舎の農家の嫁としてうまくやっていけるのか不安に思われるのは当然のことだろう。
 
帰宅して一人になると、さっきの友人の言葉がどんどん気になってきて、気づくと「農家の嫁」をGoogle検索していた。出てくるのは「男尊女卑」だとか「田舎は閉鎖的」だとかそんな言葉ばかり。西新宿のタワーマンションの一室から見える夜景と、スマホに表示されるネガティブな文字はあまりにも対照的だった。
 
今、私はあの頃の不安なんてなかったかのように農家の嫁を楽しんでいる。それはなぜか。
 
ただ一つ私が大事にしているのは、「自分がやりたいことだけをやる」ことだ。
 
それまでの私は「農家の嫁恐怖症」と言ってもいい状態で、友人の何気ない一言が鎧のようにまとわりついているようだった。だから何を考えるにも「これだけは絶対にしない!」と、「しない基準」を自分の中にいくつも作り、それが壊されそうになったら瞬時にNOと言えるようにいつも身構えていたのだ。
 
ふと私は、社会人1年目の失敗を思い出した。
 
当時の私は、気合が入りすぎて空回りもいいところの新入社員だった。
お金をもらうからには完璧にやらなければ。
上司の言うことは絶対だ。
常に先輩を立てて行動する。
失敗は許されない……。
そんな「しなければいけない」に支配されていた。
 
だが、当然最初からうまくいくはずもなく、そのやる気の全てが裏目に出て、にっちもさっちもいかなくなってしまった。そういうことが積み重なって、社会人1年目は敗北に終わってしまったのだが、結婚前の私はまさにその時と同じだったのである。
 
嫁として礼儀正しくしなければ。
頼まれたことは断ってはいけない。
絶対にいい関係を築かなくては……。
けれども、そこまで頑張る必要があるのかと、逆に拒否反応みたいなものが芽生えてしまっていた。
 
そして私は自分を許してあげることにした。ゆるめる、と言った方が近いのかもしれないが。「これは絶対したくない」とか「やりたくないことは絶対やらない」のでななく、「やりたいことだけをやる」ことにしたのだ。
 
「里芋の選別、する?」
 
初めて夫から手伝いの打診があったのは、新生活が始まってから1ヶ月ほど経った初冬のことだった。
 
里芋ってどんな風になっているんだろう。見てみたい! やってみたい!
 
断る理由は何一つなかった。
 
里芋はいくつもの芋が繋がった状態で収穫される。それを1つずつに崩して大きさ別に分けるのだ。夫の実家の農作業小屋で、夫とお義父さんとラジオを聞きながらする2時間ほどの作業は、驚くくらい楽しかった。
 
それから私は、里芋の選別が楽しくて仕方がなくて、時間が許せばできるだけお手伝いにいくことにした。
 
そうやって私は日々「やりたいことだけをやる」を生きる基準にしている。そうしていると不思議なことに、「やりたくないこと」なんて何一つ存在しないのだ。田植えの前に播種(種まき)することも、ビニールハウスの組み立てがものすごく複雑な作業であることも、以前の私は知りもしなかった。けれど、実際にやってみるとどれも興味深くて楽しいのだ。できるなら毎日お手伝いしたいのに、仕事の都合で参加できずに「くそー!」と思うことのほうが多いくらいだ。
 
そしてそんな身勝手な私を、夫の家族はいつも丁寧にもてなしてくれる。日に焼けないようにと帽子を貸してくれたり、美味しいご飯をご馳走してくれたり、お菓子を持たせてくれたり……。
 
「やりたくないからやらない!」そんな頑なな私だったら、見知らぬ土地でこんな風に楽しく生きられなかったと思う。
 
まるで北風と太陽みたいだ。
 
北風が風を起こすと、コートが脱げないようにと頑なになる。それを見た北風はいっそう強い風を起こす。コートはいつまで経っても脱げない。コートが脱げてしまったら、人間はひどく嫌な気持ちになるだろう。
 
太陽が照りつけるから、コートを脱ごう。コートを脱がせた太陽も、コートを脱いだ人間も、誰一人不幸を感じていない。
 
新しい環境に身を置くとき。
なんとなく気乗りしないな、と思う出来事が目の前に立ちはだかったとき。
私たちは、自分を守るために頑なになってしまうことがある。
けれど肩の力を抜いて自分を許してあげると、意外と物事はすんなりいくものなのかもしれない。
 
 
 
 
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2019-05-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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