【生きる意味】人生最後の日、あなたは何を思いたいですか?~人の気持ちがわかるということ
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:ヒラタアキ(ライティング・ゼミGW特講)
「オレは、人の気持ちのわからない人間だった」
頑固一徹だった父が、最期に残した言葉である。
衝撃だった。今までの人生のなかで、こんなにも衝撃的な言葉を他に聞いたことがない。
私の父は、本当に頑固者の亭主関白で、まさしく昭和のオヤジだった。
よく言えば、頑強な信念の持ち主。絶対にブレない。超ポジティブ思考である。
しかし悪く言えば、他人の意見をいっさい寄せつけない。とっつきにくく、情け容赦がない。人情というものを考えてくれない。
だから、好き嫌いは大きく分かれる。ものすごく助けられたと感謝する人もいれば、しんどくなって縁を切ってしまった人も大勢いる。
私の母は、一番の被害者だ。母は、結婚した瞬間から、「この結婚は失敗だった」と思ったらしい。そして、父が亡くなる最後まで、父を愛するということはなかった。
私はといえば、父が大好きであった。
幼い頃は、父が私の生きる防波堤だったように思う。父がいれば安心だった。父が私を守ってくれた。私は、大の父親っ子だった。
そして私自身、父親譲りの性格である。とんでもない頑固者だ。だから共感できるのだろう。
しかし、ひとつ屋根の下で暮らしていれば、どんなに幼くたってわかるものだ。母が父を嫌いなことを。母がツラい思いをしているということを。
ここに、「私は二重人格なのではないか?」との葛藤を生み出した原型がある。
私は父が大好きだ。そして私も、父親譲りの性格だ。
だが母は、父が嫌い。私は、母をなぐさめてあげねばならないと思った。
父と母との間で、しだいに心がぐらぐらと揺れるようになっていったのだ。
思春期の頃には、「父が大好き」という気持ちは、完全にどこかへと消え去っていた。
時は過ぎ、別々に暮らすようになってから久しくなった、ある日。転機が訪れた。歓迎したくもない転機だ。
「ガンの宣告を受けた」
心が頑強なら、体も頑強。病気ひとつしたことのない父だ。一瞬、耳を疑った。
「変な冗談はやめてよ~」「今日はエイプリルフールじゃないでしょ!」
本当に、エイプリルフールではなかった……。
しかし治療は順調で、父は相変わらず元気だった。だから私は油断をしていたのだ。まだまだ大丈夫だと思っていた。いや、そう思いたかったのだと思う。父と最後の時間を過ごすという感覚は持てなかった。
そのことを後悔したときには、もう遅かった。宣告を受けてから2年後、その日は突然やってきた。
そして、父から発せられた最期の言葉。
その瞬間、とんでもないことをしてしまったと思った。
いったい私は、今まで何をしてきたのだ? 何がしたかったのだ?
本当は父が大好きだった。もっと父と一緒に過ごしたかった。母に遠慮なんかせず、もっと甘えればよかった。
とめどなくあふれてくる、悲しみと寂しさと後悔。
それから半年ほどは、まさに「生ける屍」とはこういうことかと実感する日々だった。どうにもこうにも、体が動かない。体は動いても、心が動かない。
しかし、そんな私を救ってくれたのは、父だった。父の最期の言葉が、頭の中でガンガン鳴り響いたのだ。
「オレは、人の気持ちのわからない人間だった」
父はきっと、たくさんの後悔をしたのだろう。そして私も、後悔をしている。
「あぁ、やっぱり私は、父親譲りなのだ」
生きていこうと思った。
有名な「7つの習慣」という本には、「自分の葬式をイメージせよ」と書かれてある。
「すべての行動を測るための尺度として、人生の最後の姿を描き、それを念頭において今日という一日を始めることである」
(「7つの習慣」スティーブン・R・コヴィー著)
私たちにとっての最大で最後の目的地は、「墓場」である。あるいは「葬式」だ。
自分の葬式のとき、集まってきた弔問客にどのような弔辞をもらいたいか? 自分は最期に、何を思いたいか? 人生の目的を考えるなら、それを考えるといいという。
初めて読んだときは難しいと感じたが、父が亡くなってからは、現実として胸にせまってきた。
私は、人生の最期にどのような言葉を残したいのだろう?
父が言いたかったこと、父が教えてくれたことは何だったかと毎日考える。
おっと、毎日というのは言いすぎだ。昨日は忘れていた。いや、しょっちゅう忘れている。けれども思い出さねばならない。最大の目的地は、墓場なのだ。
不思議なことに父が亡くなってから、目標にしたいと思えるような人との出会いが、いくつかできた。
しかも皆、父とは正反対の人なのである。
人の気持ちがわかっていて、やさしく包み込んでくれるような雰囲気。
あれ? 私って、こういう人に魅力を感じたことがあったっけ? ふと思う。
そうか、父は成仏を遂げたのだ。
頑固一徹で、常に上から目線だった父は、最後の最後に自分を解放した。私のためだ。
人が最期に思うこととは、「どれだけ人の気持ちを思いやることができたか」
そのことを、自分と同じ頑固者の娘に、父は教えてくれたのだ。自分の命と引き換えに。
なんと偉大な父親だろう。
私の人生の最期には、「お父さんができなかったことを、いっぱいしてきたよ」と、言えるようになりたい。
「毎日その価値観をしっかりと頭において一日を始めるのだ。そうすれば、様々な出来事や試練に出会ったとき、その価値観に基づき反応を選択することができるようになる」
(「7つの習慣」)
私は、父が大好きである。
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