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メディアグランプリ

日本のテロワールの夜明けぜよ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:佐藤滋高(ライティング・ゼミGW特講)
 
 
「このワイン、土の味がするね」
ワインはテロワール(土壌)を味わうものなので、土の味がするというのは地球上のすべてのワインに通用する通っぽい褒め言葉になるらしい。なんと便利な言葉だろう。教えてくれたのは、東京の三ツ星レストランのシェフソムリエだ。
いつか雰囲気の良いディナーの席で女性を前にクールにそんなセリフを決めてみたいものだ。ワインも女性も好きだけど、残念ながらどちらも得意ではない。
 
どうやらワイン好きは美味しいワインを飲むと、その育った畑を想像するものらしい。ワイン好きから、フランスを旅行してブドウ畑を巡った自慢話を聞かされた経験のある人もおられるだろう。目の前のこのワインが作られたのは、寒暖の差が厳しい土地なの? 温暖な海沿いの土地なの? 砂地なの? 粘土質なの? なるほど、知識があってそんな味わい方が出来れば、より深くワインという飲み物を楽しめるだろう。
 
しかし、同じ醸造酒である日本酒にはそういった概念がなかった。ワインの作り手の多くはブドウ生産者も兼ねるが、日本酒の作り手はそうではないため、テロワールというのは長く日本になかった概念だ。ここであえて、「なかった概念」と過去形で表現したのは、実は去年から「松の司」の松瀬酒蔵さんが、テロワールシリーズなる日本酒をリリースしているからだ。
 
異なる集落で採れた同じ品種の酒米を混ぜることなく、集落ごとに別々のタンクで同じ仕込みを行い、完成して瓶詰されたそのお酒はテロワールシリーズとしてそれぞれの集落の名前を付けられて売られているのだ。
 
過日、運よくそのお酒を飲む機会を得たのだが、びっくりさせられた。
飲み比べると確かに味が異なる、それはある程度予想していた。
驚いたのは、想像以上に異なるのだ!
 
「日本のテロワールの夜明けぜよ」
思わず鼻息荒く叫ぶ! もちろん心の中で
 
実は、わたしは「政所」という滋賀という僻地のさらなる秘境の地で、最近茶畑を借りてお茶作りをやっている茶農家としての一面も持つ。
目下の課題は日本の多くの茶農家と同じく、茶葉が売れないことである。
そんな、暗澹たる気分の時に出会ったのが「松の司」テロワールシリーズであった。
これは救世主になりうる黒船かもしれない。
 
確かに、緑茶自体は今でも身近な飲み物で、いつでも気軽にペットポトルのお茶を飲むことが出来る。昔よりお茶に対するハードルはむしろ下がっているのは間違いない。
しかし、茶葉から淹れたお茶となると話は別だ。
 
缶コーヒーとドリップしたコーヒーを比べる人がいないように、ペットボトルと茶葉から淹れたお茶もその味の差は比べるべくもない。
茶葉から淹れたお茶はやはり別物だ。
 
そうは言っても、お茶を淹れるのは億劫だ、自分でも思う。
ティファールのスイッチをいれて、茶葉を量って、お湯をさまして、茶葉を蒸らして、急須も洗わないといけない……。
「水出し緑茶」という簡便に美味しく飲む方法もあるが、急須で淹れるより簡便であるという程度の問題だ。
 
味の差は歴然だが、だからと言ってペットポトルのお茶が決してまずい訳ではない。
ペットボトルのメリットの前に、味の良し悪しも霞んでしまう。
やれやれ、ペットポトルを選ぶ理由なら苦もなくどんどん挙げられる。
茶葉が売れないわけだ。
そう遠くないいつか、磯野家のちゃぶ台にグラスとペットポトルが載る場面を目にする日が来るかもしれない。
 
しかし、
テロワールという黒船が日本にも広まれば!
お茶を飲んで産地に思いをはせる、そうやってお茶を楽しむ人が増えれば!
少しは茶葉も売れるようになるかも知れない。
 
私の借りている茶畑のある「政所」というのは、室町時代から代々受け継いできた茶樹が広がる在所で、その生活にはお茶作りが自然な形で内包されている。昔ながらの無農薬・有機肥料で作られるお茶は在所全体でもその生産量はだいたい1㌧くらい。それがどれくらいの量かと言うと、静岡あたりの普通の茶農家さん1軒分くらいの量である。つまり、その生産量は極めて少ない。そして、在所には数十軒の茶農家さんがいるので、当然一軒一軒の畑の規模は驚くほど小さいのだ。
規模の小さな茶畑たちが山あいの狭い土地に連なるその景色は、行ったことはないので想像だけど、まさにワイン銘醸地、ブルゴーニュのブドウ畑を見るようである、はずだ。
 
政所茶に共通する特徴は、さわやかな香りのお茶であることだ。そうであっても、小さな茶畑ごとに日当たりや川からの水蒸気の上がり方など気象条件が異なり、作り手の栽培法のこだわりも多様で、しかも、その茶葉は決して他の茶畑の茶葉とブレンドされる事なく製品になっていく。それゆえ、茶畑ごとにその味わいは微妙に異なるのだ。
まさにテロワールを味わうためにあるような生産地ではないか。
 
ゆっくりテロワールを味わいたいときにペットボトルのワインは飲みたくない。
面倒でもコルクを抜栓して飲みたい。
 
確かに、お茶を淹れるのは面倒だ。
でも、もしあなたがテロワールを味わいたくてなって茶葉からお茶を淹れようとしてくれた時のために、しっかりと「土の味がする」お茶をこれからも作りたいと思う。
 
そしてできれば、飲んで叫んでほしい。
「日本のテロワールの夜明けぜよ」
もちろん心の中で結構です。
 
 
 
 
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-05-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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