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メディアグランプリ

新入社員の無知に呆れる前に。「魚は切り身で泳いでいる」と思っている子供たちをバカにできない私なりの理由


 
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:江戸しおり(ライティング・ゼミGW特講コース)
 
「今時の若い子は」
「ゆとり世代は」
 
なんて言われ続けてきた私も、もう四捨五入すれば30歳だ。説教とも見下しともとれる大人たちの言葉も、最近はめっきり聞かなくなってしまった。
 
むしろ嫌なことに、今度は自分の方が言う側の立場に近づいているらしい。
 
 
 
「最近の子供は、魚は切り身で泳いでいると思っている」
 
そう聞いたのはいつのことだったか。
 
にわかには信じられなかったし、思わずこの国の行く末を憂いてしまった。と同時に、物を知らなさすぎる子供たちに呆れたし、親たちの知能レベルやしつけにまで大きな疑問を感じた。
 
私は水揚げ量日本一を誇る漁師町の生まれだ。自宅の目の前に漁港があって、道端には輸送途中にトラックからこぼれた魚がたくさん落ちている。食卓に上る前の魚がどんな形をしているのか小さな頃から知っていたし、当たり前すぎて、深く考えたことすらなかった。
 
けれども今私は、「魚は切り身で泳いでいる」と思っている子供たちをバカにしたことをひどく反省しているのだ。
 
 
 
私は結婚を機に北陸のある街に引っ越した。そこは山に囲まれた豪雪地帯で、周囲に海はない。代わりに田んぼや畑ばかりが広がっている。夫の実家は代々農家をしてきたお家で、今は定年退職して専業農家になったお義父さんが中心となって農業をしている。週末や農繁期には家族総出で農作業することもあり、私も都合がつけば度々手伝いに行っている。
 
先日、いよいよ今シーズンの米作りが始まった。初めての田植えはどのようなものだろうか。ウキウキしていた私が案内されたのは農作業小屋。田んぼに行くと思っていた私は拍子抜けした。
 
「何をすればいいんですか?」
「種がちゃんと出ているか、土が足りているかを見てね」
 
種? 土? 田植えをするんじゃないの?
私の頭の中はハテナでいっぱいになった。
 
緑色の苗みたいなやつをひたすら田んぼに植えていく、あの作業をするのではないのか。
 
わけのわからないまま細長い機械の前に連れていかれると、機械のスイッチが入った。
 
お義母さんは積み上げられたトレイをひたすら機械に送り込む作業をしている。中には土が入っているらしい。
お義父さんは水や種の量を調整している。
そうこうしている間に、トレイは私の前にやってきた。言われた通りに覗き込んでいると、土の上に種らしきものがびっしりと敷き詰められている。正解はわからないけれど、多分大丈夫だと思う。
私の斜め前では夫が土を機械に送り込んでいる。この土が、私の前を通ったトレイの上にかぶせられる。
機械から出てきたトレイをお義姉さんがコンテナの中に積み上げていく。
 
私の前を何百というトレイが通り過ぎていく。どうやら種は正常に落ちているようだ。少し余裕が出てきて隣を見ると、土が少なくなっている。
 
「土がなくなりそうだよ」夫に声をかける。
 
今度は自分の前の種が少なくなってきた。
 
「種、追加したほうがいいですか?」尋ねると、お義父さんがそうだと言うように追加の袋を持ってきた。
 
何をしているのかはよくわからないけれど、どうやら私は正しくこの作業の流れに乗れているらしい。
 
種の確認をして、土の残量を確認して、種を補充して…。その作業を幾度となく繰り返していくうちに、その日の作業が終了した。
 
そうして私は、自分の無知を知って愕然としたのだ。
 
私はそれまで、米作りの始まりは田植えだと思っていた。緑の苗が最初から用意されていて、それを田んぼに植えるところから米作りが始まると、本気でそう思っていたのだ。
 
しかし、考えてみたら何もないところから苗ができるわけはなく、必ずそこに種があるはずだ。私がした作業は「播種(はしゅ)」と言い、土に種(種籾)をまいて、そのあと1週間ほど置くと、芽が出てあのイメージ通りの苗になるのだ。
 
さらにその前段階として、種籾を用意し、消毒、浸種(種籾に吸水させる)、催芽(1ミリほど芽を出させる)を経て、やっと播種の作業に入れる。
 
「米作りは田植えから始まる」そう思っていたが、実際には種籾の購入、消毒、浸種、催芽、播種の作業がその前にある。
 
夫の家族はそんなことは考える余地もなく、昔から当たり前のこととして知っていただろう。でも、私は知らなかった。
 
「魚が切り身のまま泳いでいる」
 
そう思っている子供たちと私。そう大差ないじゃないか。
 
大人になると、自分が知っていることが「常識」で、知らないことは「知らないのが当たり前」だと思いがちになってしまう。価値観が固定されてしまうのだ。
 
しかし知識や価値観なんて、生きてきた環境でどうとだって変わる。どのレベルの事柄であれ、「私が知っていることを知らない人はバカだ」なんて思うべきではない。今はそう思っている。
 
GW明け。会社に行くと入社1ヶ月が経った新入社員がいるだろう。彼らとのコミュニケーションだって同じだ。
 
自分にとっては、飲み会で上司にお酌をすること、名刺は下から渡すこと、上座・下座の場所は社会人として当然の知識だ。しかし、新入社員たちにとっては当然のことではない。
 
相手が知らないことに呆れたり、必要以上にカリカリしたりするのはナンセンスだ。
 
新入社員の無知に驚いたら、「米作りは田植えから始まる」と思っていた自分を思い出そう。そうして、どんな相手とも互いに知識を深められる人間でいたいと思う。
 
 
 
 
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2019-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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