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メディアグランプリ

私のスーツは二人羽織


 
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中野彰太(ライティング・ゼミGW特講コース)
 
私の父は、休みの日にいつもスーツを着ていた。
決して趣味がいいとはいえない、太いストライプのダークスーツに派手なネクタイ。
私が物心ついたときから父はそうだった。
 
父は畳屋を営んでいる。
いわゆる「職人」というやつだ。
 
私は幼い頃から、自宅よりも父の営む店で過ごす時間の方が長かった。
ホコリっぽい店の中で、リズムを刻むように大きな針を通す音が響く。
今でもあの鼻の奥を通り抜ける若々しい緑の香りを嗅ぐと、私は幼い頃を思い出す。
 
「お前に店を継がせるつもりはない」
大伯父、伯父から店を継いだ3代目だった父は、いつも私にそう言っていた。
お前には資格がない、と言っていた訳ではない。
20年前から父は、“これからの時代はこの仕事では食っていけない”と感じていたようだ。
「お前は将来、安定した給料がもらえるサラリーマンになれ」
という言葉がまるで口癖のようだった。
 
父の畳屋は、主に社宅や団地などの畳の張り替えの仕事を請け負っていた。
バブル期のことだ。あらゆる会社は社宅たくさん建てた時代だった。
仕事はいくらでも舞い込んでくる。
昼夜を問わず父は働いた。
自宅で食事をとる余裕などない、いつも出前だ。
夜が明けるまで店で仕事をすることもあった。
 
今や店は随分静かだ。
畳を裏返す「バタンッ」という大きな音も聞こえない、煙たいホコリも舞わなくなった。
最近は、ビニール素材の畳が開発され、定期的に入れ替える必要もない。
一軒家ならまだしも、大半のマンションには和室などない。
父が感じていた通り、今や畳の仕事は随分少なくなってしまった。
私はいつからか、父の背が随分小さく感じるようになっていた。
 
父の望み通り、私はサラリーマンになった。
街にある化粧品店を訪れ、
どのように商品をお客さんに販売しようかと提案する仕事だ。
 
人のいないお店に入り一礼するなり、椅子に腰掛ける店主に一言問いかける。
「奥さま、今日のお店の調子はどうですか」
こんな挨拶文句から話は始まる。
 
持っていく提案や商品に、
“こんなのうちのお客さんにはあわない”
“立地が良い店だから言えること”
大半はこんな反応が返ってくる。
 
「そんなことないですよ、一緒に頑張りましょうよ」
これも話を締める常套句になった。
 
時間の流れは残酷だと思う。
“会社は変わった、私たちは見捨てられる”
“おたくの会社は景気よくていいわね”
そんな声を聞くこともしばしばだ。
確かに小売店の商いは年々厳しくなっているのを私は肌で感じている。
しかし、その中でもうまく仕事を続けている店もある。
それは、“変わり続けることができたから”ではないか。
形は変わらずに見えても、流れる波に合わせ、
少しずつ変化させることができた者だけが生き残っているのだ。
 
店や仕事だけではない、人間も同じだと思う。
 
「お前は頑固だ」
社会人になった私は、周りからそう言われるようになった。
自分が“正しい”と思うことを曲げたくないという思いが強く出てしまうのだ。
 
では間違っていると思うことを見逃すのか?
それは自分の意志がない、ということではないか?
 
頑固とは何かと自問するが答えが出なかった。
「そんなことは許せない」
これは、私がよく言っていた言葉だった。
そんな時、父のこんな言葉を思い出した。
 
“そんなんできん”
 
私と父は同じだったのだ。
父は確かに、その時出来ることを全力でやっていた。
しかし、周りからの“こんな風にしてみたら”という問いかけに、
「わかった、考えてみる」
「そうかもな、ありがとう」
そんな言葉が出てきたことはなかった。
 
そう気づいた時、私は“頑固”という言葉の意味に少し近づいた気がした。
「わかった」
「ありがとう」
心からそう人に言えることが“素直さ”なのではないかと思ったのだ。
 
父がなぜ休みの日にスーツを着ているのか。
幼い私は疑問でならなかった。
しかしどうだろうか、
クローゼットに並ぶ多くのスーツは、父の思いを表していたのではないか、
今はそう思うのだ。
父は苦しかったのかもしれない、
YESと言えないことに。
今後厳しくなると感じていながら、
何もできないことに。
だからそんなことに悩まなくてもよいよう、
私をサラリーマンにしたかったのではないか、と。
 
私はスーツが嫌いではない。
少し窮屈に感じる肩が、気持ちを引き締めてくれる。
「頑固」な父が育てた「頑固」な私は変わるために、そして変えるために、
今日も私はスーツに袖を通す。
 
 
 
 
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2019-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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