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メディアグランプリ

幸せを食べる


 
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:村尾悦郎(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「今日も牛丼、明日も牛丼、たぶん明後日も……どうしよう……」
約6年前、東京・神田の駅前で、僕は途方に暮れていた。
 
そのころの僕は、日ごろの飲み歩きがたたって慢性的な金欠に陥っていた。日中は仕事をして、お金もないのに夜は飲みに行き、深夜に酔っぱらってアパートに帰る。今思い返すと「アホか!」と自分をはたきたくなる、そんな生活を送っていた。
 
お金はない。
でも飲みにいきたい。
でも自炊する気はない。
でもなるべく安く、なるべくいっぱい食べたい。
 
この甘えた思考が、ランチの選択肢を狭めに狭め、気づけば昼食は「牛丼か大盛りそばかの二択」という、大変よろしくない生活を送っていた。
 
バランスの悪い食事を続けつつ、深夜まで酒を飲むのだから、当然、体は最悪な状態に陥った。体重は僕の史上最高値86kg(ちなみに身長は158cmだ)を叩き出し、顔には常に油が浮き、揚げたてのメンチカツのようになっていた。
 
もう、ひどかった。
 
体はだるく、重い。少し運動したらすぐに息があがり、変な汗が出てくる。そんな状態だから気持ちもすさんで、投げやりな生活態度は睡眠時間をどんどん削り、ますます体が重くなる、という負の連鎖に陥っていた。
 
食事をしていてもどこか味気ない。「おいしい」とは感じるのだが、刺激が強い食べ物に舌が麻痺し、「虚しいおいしさ」しか感じない。常に満腹に近い状態でないと落ち着かず、食事も「腹が減った」というストレスを解消するために食べているような状態だった。
 
にもかかわらず、僕は「やばいな~なんとかしないとな~」と、思うだけで、事態をあまり重く受け止めていなかった。今、思い返すとこれが一番やばいことだと思う。
 
そんな僕に救いの神が現れる。
奥さんだ。
 
当時、そんなひどい状態の僕と(奇跡的に)付き合いはじめてくれた奥さんとの暮らしにより、僕の体調は劇的に改善した。決まった時間に摂るバランスの良い食事、しっかりした睡眠時間、外食する機会の減少……生活と食事が改善され、から揚げの表面のような顔の油は激減し、体重は(やや)減った。
 
ちなみに、奥さんはこの時期の僕を「ひどかったよね。なんか変な匂いがしてたよ」と振り返る。付き合いはじめの時はそんな風に見られていたとは夢にも思わなかったので、後から言われた時に大変ショックを受けた。……ともかく、奥さんと暮らしはじめたことで、僕の体調には改善の兆しが見られていた。
 
同時に、僕は「食事の喜び」を取り戻していた。しっかりとお腹を空かし、二人で「いただきます」と手を合わせて食べる。奥さんの手料理によって、麻痺した僕の舌がだんだんと浄化され、食材の味も楽しむことができるようになっていった。
 
「ありがたい」
 
その気持ちが自然とわきおこり、さらに料理をおいしく感じさせた。
 
しかし、奥さんには不満があった。
 
その不満とは、僕にではなく、食材に向けられたものだった。僕と奥さんは共に山口県の出身なのだが、僕が「おいしい」と料理を食べていても、
 
「山口の野菜はもっと青くさくておいしいよ」とか、
 
「山口の魚はもっともっと生きが良いのに」
 
と、愚痴をこぼしていた。
 
奥さんに言わせると、東京で手に入る食材は「元気がなくて味気ない」ものが多いそうだ。東京の名誉のためにいっておくが、東京でも素晴らしい食材は手に入る。ただ、そういったものは近所のスーパーで手軽に手に入るものではなかったし、普段使う食材としては僕らには中々手が届く値段ではなかったように思う。
 
そんな奥さんの不満もあり(?)、「子供が生まれたら地元で育てたい!」というお互いの思いもありつつ、僕たち夫婦は2年前、ついに山口にUターンした。
 
自分のふるさとにも関わらず、山口に帰ってからの食事は驚きの連続だった。
 
季節ごとの地元の野菜は、味が本当に濃い。なんなら苦い。
魚は、市内の漁港で採れたものなので本当に生きがいい。歯ごたえが違う。
特産の鶏肉は、その日の朝さばいたものがスーパーに並ぶので、とんでもなくうまい。
 
何を食べてもうまいし、「生き物を食べている」という実感がわいた。東京では到底同じ値段で食べることのできないクオリティの食事が毎日できていると思う。奥さんの言っていたことは本当だった。
 
ある日の食事中、僕が「東京で君が言っていたとおり、本当に野菜の味が濃いね」と話すと、奥さんに「だから言ったでしょ。早く帰ってくればよかったのよ」と、勝ち誇った顔で言われた。すいませんでした。
 
と、これだけでも十分素晴らしい環境なのに、ダメ押しのような魅力がもう一つある。近所の方や知り合い、親戚などからたくさんの食材をいただけるのだ。
 
「フキと竹の子食べんかね?」
 
「魚が釣れすぎたからもらってーや」
 
「猟で採った鹿肉、食べてみてよ!」
 
などなど、ニコニコの笑顔で、好意の塊を手渡される。
 
こんなの反則だ。うまいに決まっている。食べ物をもらった日には、奥さんと一緒に「○○さんにもらったんだよ、ありがたいね~」と、食材をくれた人のことを話しながら食べる。こうした食事の、なんと豊かで素晴らしいことか!
 
今、僕は食事と一緒に、確かな幸せを摂取している。
「牛丼か大盛りそばか」は遥か彼方。「おいしい」だけでなく「ありがたい」も、日々実感しながら過ごしているのだ。
 
しかし、一つ、大きな問題が発生した。
 
……また、体重が戻りつつある……。
 
 
 
 
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2019-05-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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