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メディアグランプリ

うちのねむの木は人語を理解している


 
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:岡田早苗(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
うちのベランダにある大きなひとつの鉢に、仲良く二本のねむの木が生えている。大事にしていたこの二本の木のひとつが、突然ぽろぽろと葉を落とし始めたのは去年の6月のこと。そのときは心配で心配でどうしようかと思ったよ。
 
この二本のねむの木たちは5年前、庭に勝手に生えてきた。当時住んでいた家の近所にはねむの大木があったから、そのタネが飛んできたのかもしれない。そのねむの大木は、毎年夏にはピンク色のふわふわとした綿毛のような花をたくさん咲かせていた。それが風に揺れて、まるで夢の世界の花のようで、とてもきれいだったんだ。
 
小さな庭に幼木が生えていたのを見て、私はすぐに植木鉢に移し替えた。うちは転勤族なので、いつか引っ越さなければならない。だからこの大好きな木を持っていこうと考えたわけ。欲深いことだけれど、放っておいても、次に住む人が雑草と間違えて絶対に抜くと思ったから、小さな木を救う意味もあったんだ。
 
植えたときには5センチくらいだった木が、5年たって1メートルくらいになっていた。引っ越しのたびに業者のお兄さんに折れないよう細心の注意をお願いし、台風のときは支柱をたて、旅行のときは水が枯れないように日陰に置いて、なんとか今に至る。ほんとに大事にしていたよ。けれどその間、花は一度も咲かなかった。そうして5年がたった去年の春に、私はねむの木たちを撫でながら言ってみた。
 
「今年は花を咲かせてくれんかなあ」
 
するとある日のこと、ねむの木の大きい方の一本につぼみがついたんだ。つぼみは次々とたくさんつきだした。そりゃあうれしかったよ。5年待ったんだもん。私のねむの木があのふわふわの花を咲かせてくれるなんて、こんなうれしいことはない。でもね、つぼみがいくつかついた頃に葉を落とし始めたんだよ。繁っていた葉が根元から次々と落ちていくんだよ。ねむの木は落葉樹だけれど、葉を落とすのは11月頃で、初夏に落とすことはありえない。
 
まず病気なんだろうかと思って肥料をやってみたんだけど、落葉は止まらない。私は毎日ねむの木を撫でながら「がんばれ。がんばれ」と言っていた。どうしたらいいのかわからなくて無力感でいっぱいだった。
 
肥料をやってもかわらないってことは、この木が花をつけるだけの体力がないってことなのかもしれない。それでも葉を落としてまで花を咲かせようとしているということなんだよね。無理してるってことなんだよね。それに気づいたときに私は「がんばれ」をやめた。
 
そして木を撫でながら、しみじみと言った。
 
「私はあんたがとても大事なんよ。いつかどこかに定住するときに、あんたを地面に植えてやろうと思ってるよ。こんな植木鉢の中でなく、のびのびと根をのばせるように、本来のねむの木らしい木になるように。だから無理に花を咲かせて枯れたりしないで。つぼみを落としていいよ。私はあんたが生きていることが一番の望みなんだから。花を咲かせてくれなんて言ってごめんね」
 
それから数日は何も変わらなかったのだけど、ある日、そのつぼみがしおれてきね。やがて青いまま全部枯れて落ちたんだ。同時に葉が落ちるのは止まった。これどういうことだと思う? 私の言葉が通じたとしか思えないでしょ。
 
もうね、なんというか、私の胸はいっぱいだったよ。ほんとにこんなことあるの!! って感じだよ。私は安心した。そのあと新しい葉も出てきたよ。この子は生き延びたと思った。
 
それからまた一週間くらいたった頃のこと。同じ鉢に二本のねむの木が、って言ったよね。今度はその小さい方の一本につぼみがついたんだよ。うれしいっていうより、私はまた心配でね。
 
「あんたも無理しなくていいんよ……」
 
以下ほぼ同文で、その子にもお願いしたよ。花を咲かさなくていいから生き延びてって。でもね、その子は葉を落とさなかった。そのままつぼみは膨らんで、あのふわふわのピンク色の花を咲かせたんだなこれが。なんてこと!!
 
もしかすると、最初につぼみをつけた方の木が、少し余った体力を小さい方に分け与えたのかもしれないね。木は根を通してまわりの木を助けるんだって。ほら、切り株から新しい芽が出ているのを見たことあるでしょ。もう葉っぱも幹もないんだから、光合成も、栄養や水の循環もできないはずなのに、ちゃんと芽吹くでしょ。あれはまわりの木がなんらかの方法で根を通して栄養をわけているという説があるんだ。それ、なんかいい話だよね。
 
植物同士は微量の揮発性物質を使ってコミュニケーションをしているそうだ。なら、人間と植物もなんらかの方法で気持ちを伝えあうことはできるのかもしれない。罵倒し続けると植物は枯れるっていうし。でも今の人間はそんな精妙なやりとりの方法がわからなくなって、根こそぎ木を切ったり、除草剤を撒いたり、会話することをやめてしまった。
 
でもね、うちのねむの木たちは鈍感な人間である私の願いをなんとかきいてやろうとしてくれたんだよね。そう思うともう私は涙が出ちゃってね。ありがとうなんてめったに言わないのに、ありがとうって言っちゃったよ。二人して咲かせてくれたんだね、ありがとう、って。
 
そのあと晩秋がきて、いつものように落葉したよ。そして今年、またたくさんの葉が芽吹いてきたんだ。去年花を咲かせたから今年は体力が落ちてんじゃないかと心配したけれど、ちゃんと芽吹いた。花は咲かせなくてもいいよ。一緒に定住する日まで生き延びておくれよ。
 
そう言って毎日水やりをしている。さて今年はどうかな。欲深い私だけれど、もうこれ以上この子たちに何も望まないことにした。ただ生きててくれ、そう思うだけにした。なんだか子育てみたい。期待しすぎて無理をさせるより、ただ生き延びてくれるだけでいいんだよね。本当はね。……なんて、遠くに住んでいる息子と娘をちょっと思ったりしてね。
 
 
 
 
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2019-05-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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