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女性にとっての結婚はアイデンティティの崩壊なのか


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:江戸しおり(ライティング・ゼミGW特講コース)
 
「本名ですか?」
 
これまで数えきれないくらい、その言葉を聞いた。時には「本名教えてください」と言われることすらある。
 
そんな時私は、免許証まで出して自分の名前を相手に見せる。
 
「江戸しおり」という名前は、紛れもなく本名だ。
 
小学校の頃は、
「漢字書けないの?」「江戸時代の本のしおり!」
とからかわれることも多く、自分の名前がコンプレックスでもあった。
 
しかし、高校生以降は名前を褒められることが増えて、いつしか私は、自分の名前に並々ならぬ愛着と誇りを持つようになっていた。そしてそれと比例するように、ある不安が大きくなっていった。
 
「結婚したら名前を変えるのか問題」である。
 
自分の名前に愛着を持っている私にとって、苗字の変更は由々しき事態だ。しかし、そんな私にもついに昨年、その時がやってきてしまった。
 
東京から福井県に引っ越すとか、
仕事のほとんどをリモートですることになるとか、
そんなことよりも、名前を変えることが大きな問題となって私の前に立ちはだかった。
 
当初私たち夫婦は、名前を変えなくて済むように事実婚の検討をしていた。周りにも事実婚の友人がいたため、抵抗はあまりなかった。しかし、現実的に考えると「名前を変えたくない」という理由だけで事実婚をするというのは「なんとなく」気が引けるのだ。苗字が途絶える、という最もらしい理由付けもできそうだったのだが、それは夫のほうも同じで、結局ふりだしに戻ってしまった。
 
そうこうしているうちに、なんだかどうでもよくなってしまった。正しく言うと、どうでもよくなったわけではなく、「諦め」「妥協」という感情に近かったと思うのだが、やっぱり、「名前を変えたくない」というだけの理由で、他の人と違うことをするのが「なんとなく」めんどくさいのだ。
 
紆余曲折を経て、私たちは結局婚姻届を出すことにした。夫は最後までどちらの姓を名乗るか一緒に考えてくれていたが、婚姻届を出すと決めた時点で、私の心の中ではごく自然的に夫の姓を名乗ることに決まっていた。
 
そうして私は、26年間親しんできた名前を失うと同時に、夫の家の「嫁」になることが決定したのだ。
 
「お嫁に行くんだから」
 
「こちらは嫁に出す立場なんだから、結納のことはあちらにお任せすればいいのよ」
 
結婚式でこういうことがやりたいんだけど……
「向こうのご家族はいいっておっしゃってるの? お嫁さんなんだから気を遣わないと」
 
「その呼び方やめて!!!」
 
気づくと私は大泣きしながら怒鳴っていた。名前を失うことはもちろん、周囲に溢れる「嫁」という言葉に心底うんざりしていたのだ。
 
名前一つで自分が「嫁」という立場になってしまった嫌悪感はもちろん、自分の親に対する罪悪感でもいっぱいだった。
 
私が女の子だったばっかりに、私の親まで自分たちの立場をへりくだらなければいけないんだ。
 
それと同時に、大事に育てた一人娘が、「嫁」という立場で扱われることになんの疑問も持たないのだろうか、悔しくないのだろうか、と憤った。
 
これまでは私も夫も、誰かの大切な一人の子供であった。けれども結婚して私が嫁になった瞬間に、私と私の両親の立場が一気に低くなるような気がしたのだ。
 
そうか、女性にとっての結婚は、アイデンティティの崩壊なのか。
 
名前を奪われ、何があっても夫や夫の家族ファースト。
嫁は夫や夫の家族のご機嫌を伺い、嫁の家族もそれにならう。
 
アイデンティティの崩壊。いや、そんな軽い言葉で片付けていいものなのだろうか。
 
これはもはや死と同等なのではないだろうか。
 
そんな絶望が私を襲った。
 
結婚してもうじき1年になる。
今の私はアイデンティティを失ってしまったのか。
江戸しおりは死んでしまったのか。
 
答えはNOだ。
 
東京と福井で二拠点生活をし、仕事に明け暮れる日々。
夫は最大限仕事のサポートをしてくれ、私は自由な毎日を送っている。
夫の家族はとても優しく、毎日でも会いたいくらい好きだ。
私の家族も夫の家族も対等にお付き合いできている。
 
そう、私の生活は結婚前とほぼ変わりなく、私のアイデンティティもほとんど失われることはなかったのだ。むしろ、結婚前よりも幸せが増えたことは言うまでもない。
 
何より私は、今でも名前を聞かれれば「江戸しおり」と答え続けている。
 
夫婦別姓希望者の視点で見ると、ネット上には「夫婦別姓のために事実婚した」という夫婦のエピソードがいくらでも出てくる。しかし、実際は事実婚の選択肢を視野に入れながらも、結局夫婦同姓で婚姻届を出している夫婦が圧倒的に多いだろう。
 
アイデンティティが失われてしまう。
女性ばかり手続きなどの負担を被る。
仕事上不便だ。
 
不満、不安は挙げればきりがない。
 
けれども、さまざまな葛藤を経て結局名前を失ってしまった私が思うことは、「意外と大丈夫だったよ」ということ。もちろん私個人の感想にすぎないし、これからもできる限り夫婦別姓を推進する運動には関わっていきたいと思っている。
 
そして、せめてもの抵抗として、名乗れる限りは現在も旧姓を使ってもいる。
 
結局、自分の心がけ次第なのだと思う。名前を失ってしまったからといって後ろ向きになったり、下を向いたり、「私は嫁だから」と卑下していれば幸せにはなれないし、自分自身も見失ってしまうだろう。けれど、名前が変わったって自分は変わらない、と常に意識していれば、意外と周囲も自分もこれまでと変わらないでいられるものだ。
 
けれど私は、幸せな今に甘んじるつもりもない。
 
いつか夫婦別姓が認められるようになったら、その時に真っ先に名前を元に戻そう。そう心に決めて、私は生きている。
 
 
 
 
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2019-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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