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「文字の力」で過去を消せる?~人間が、サーカス小屋のゾウになれない理由


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ヒラタアキ(ライティング・ゼミGW特講コース)
 
最近、自分の過去を振り返り、いろいろと掘り下げては書いてみている。
毎日書き続けていたら、不思議な気持ちになってきた。
 
過去は「無」に等しい。過去の記憶はあるけれど、実体がないのだ。
 
そのとき感じたであろう感情の「影」が残っているだけであり、その影に、いつまでも支配されているのである。
 
影だからこそ、つかみどころがない。
そこを、なんとかして「形」にしてみる。文字にする。
 
そうしてみると不思議なことに、自分自身とは切り離されたものであるという感覚になってきた。
 
今の自分は、あくまでも「今」である。感情とは「過去」であって、今の自分とは別モノだ。
 
例えて言えば、自分のなかに別人格のキャラクターが住みついているようなものであり、それは、私であって私ではない。
 
どこに住みついているかというと、私の感覚としては、「心臓」である。
 
何かあるたびに心臓がドキドキと高鳴る。心臓が、何かを訴えかけてくるのだ。
そのドキドキを、具体的に文字にしてみる。
 
すると、「あぁ、これは『今』の私ではない」ことがわかる。
感情の影は存在し続けているが、「今」の自分からは「過去」が消えてしまう。
 
そう感じた瞬間、今度はなんだか違った形でのモヤモヤが訪れた。
おっと、この気持ちはなんだ?
 
しばらく考えこんでいて、ハッと気づいた。
 
不安や自信のなさは、過去の感情。
「過去」が消えて、「今」が見えてくると、必然的に「実践」しかなくなる。
 
この新たなモヤモヤは、きっと、「実践したくない」という気持ちなのだろう。
「自信がない」というのは、実践しないための言い訳であって、単純に、実践したくないだけであった。
 
ここまで考えて、私は軽く衝撃を受けた。
 
これまでにも、「言い訳だ」と言われたことは、たくさんあった。それを言われるたびに、ひどく傷ついてきた。
 
言い訳なのではなく、本当に不安で仕方ないのだ。何がわかるのだ、と。
 
過去の傷が深い場合には、「言い訳だ」は残酷だ。
自分でも変わりたいのに変われなくて、もがいているものである。
 
だけど、そこをちょっと抜け出し始めると、「え? 本当に言い訳だった?」という衝撃的な事実と出会うことになる。
 
他人から説教されて気づくのではない。自分のなかにフッと、「あれ?」という感覚におちいるときがくるものだ。
 
「過去」が消えたら、「今」しかない。
 
まさに、サーカス小屋のゾウのような心境である。
 
鎖につながれた子どものゾウは、逃げようと何度も何度もチャレンジする。しかし、どうやっても逃げられないことを知ると、いつしかあきらめてしまう。
 
大人になったゾウは、今度は鎖につながれていなくても、もう逃げようとはしない。
何をやっても逃げ出すことができないと学んでしまったからだ。
 
しかし、大人のゾウには力がある。人間なんて踏みつけてしまうくらいの大きな力だ。
その力を自覚したら、大人のゾウはきっと衝撃を受けることだろう。
 
それなのに、ゾウも人間も、自分に力があるなんて信じていない。あるとも思っていない。過去の経験にしばられて生き続けている。
 
「やろうと思えばできる」というのは、それほどまでに信じがたいものであり、そして、感動の真実なのだ。
 
そうか……、できるのか。
 
その感覚にはまだ慣れなくて落ち着かない。
 
仕事やプライベートのことで、問題を整理し、じゃあ自分はどうしたい? と自分自身に問いかけると、いろいろな答えが出てくる。
 
え? それ、やるの? 本当に?
 
違和感を抱いて、逃げたくなる。「自信がない」と言っていたほうが安心である。
 
つらかった過去を話せば、周囲は励ましてくれる。
行動できなくても誰にも責められないし、結果なんて出せなくても関係ない。
 
私は、過去を必要としていたのだ。
 
過去は関係ないことに気づくことができたら、そして、新たな実践ができたら、どれだけの力を発揮できるだろうか。
 
マーケティング業界の権威である、米国のダン・ケネディはこう言っている。
 
「多くの一般の人は自分の仕事が嫌いであるにもかかわらず、毎日、毎月、毎年、仕事に出かけ続ける。人生の中で不当に思えるほど長い時間、自分が退屈で虚(むな)しいと思っていることをやり続けるが、それをやめるだけの気概はない。週末の逃避のために生きている。1週間のうち5日間は監獄の囚人として過ごし、2日は楽しめるかもしれないと願っている。それは、なんとも悲しいことではないか」
 
まさしく、子どものゾウの学びのままに大人になっている、というのが現実なのだろう。
 
「心の中で、“自分は優れている”という気持ちを持つことが必要だ」とは、鋼鉄王と呼ばれたアンドリュー・カーネギーの言葉である。
 
似たような言葉を聞くたびに、それは「ごう慢」なのではないかと思い続けてきた。しかし、それは勘違いだったのだと思う。
 
ただ、自分はもう大人なのだと気づけばいいだけなのだ。
本当の力に気づけていないだけであって、実はとても優れている。
 
気づかなければいけない、自分はもう子どもではないことに。
過去を切り捨て、「甘え」と「言い訳」という雑草を刈り取らなければならないのだ。
 
そのためには、どうしたらいいのか。
 
ゾウにできなくて、人にできることがある。
 
それは、文字にすること。
 
自分のことを文字にしていくと、だんだんと自分に気づくようになっていく。
そして、頭の中から取り除くことができる。
 
「今」を生きるためには、「過去」を文字にしてしまうのが一番いい。
 
文字にする人は、サーカス小屋のゾウにはなれない。
 
 
 
 
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2019-05-22 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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