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挫折は終わりじゃない。夢へのレールは繋がっている


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記事:渡部 園(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
専門学校の入学式は、夢へ向かうための「通過駅」の一つだった。
夢を目的地「終着駅」とするなら、私は駅へ向かう「列車」だった。
新入生の私は、ただ、ぼーっとステージを眺めていた。
いつも乗っている列車の中から、見飽きた景色を眺めているようだった。
今となっては、恥ずかしい話だけれど、眠らないようにするのが精一杯だった。
しかし、ある一言で、私の眠気は覚めた。
 
「夢は形を変えるものです」
 
ふいに鳴った警笛のように、私の耳から離れなかった。
「夢は変えてはいけないものだ」と思ってきた私にとって、衝撃の一言だった。
「専門学校の学費は、安くない。両親、先生や同級生にも夢を語ってきた。
それを途中で諦めるなんて、恥ずかしいし、申し訳ないし……。
絶対に、夢を叶えなければならない」
私は、そう決めて専門学校に進学していた。
 
それまでは、中学生から部活動で始めた競技に夢中だった。
「国体選手になれるのは、県内で毎年3人だけ。私は、高校生になったら3年連続で国体に出場する」
それが、当時の夢だった。
高校一年生の春、国体選手に選ばれた。ようやく、夢へ向かうレールの上を走り出した。
しかし、その年の秋、国体の本戦前に膝を故障して戦えなくなった。
3年かけて、ようやく走り始めたレールの上から、私は降りることを決めた。
顧問や先輩、同級生は、私を引き留めようとしてくれていた。
「他の選手をサポートする道もあるだろうし、国体は来年目指せばいい」
戦えない私に、別の選択肢があることを教えてくれていたのだ。
私は、それを断った。
走れなくなった列車に、別のレールを用意してくれたことは、とてもありがたいと思った。
でも、私は知っていた。
私が目指していた終着駅には、たどり着かないことを。
「そんな選択肢は、要らない。私には必要ない」
と車庫のシャッターを閉じるように、私は断った。部活動も辞めてしまった。
こうして私は、春から秋までの半年間、走り続けたレールを降りた。
 
「気分転換に、水族館行かない? 水族館、好きでしょ」
母は、私に言った。
部活動を辞めた後の数日間、私は部屋に引きこもっていた。
私はまるで、故障して動かなくなった機械のようだった。
その日が、私のあたらしい「出発駅」になった。
「中学生になってからは部活ばっかりで、ずっと水族館に行っていなかったよね」
水族館のなかに入ると、重たかった体も心も軽くなっていった。
水中を飛ぶように泳ぐアシカがとても綺麗だった。海で暮らす彼らのことを知りたいと思った。
イルカショーで楽しそうにジャンプしていたのは、海で漁業用の網にかかって保護されたイルカだった。
イルカやアシカ、海の動物のために、私に何かできることを見つけたいと思った。
あんなに、「もう走れない」と思っていたのが嘘みたいだった。
次から次へ、「走りたいレール」が見えてきた。
「そうだ、私……動物が好きだった」
私は、気付いた。「夢」を見つけた。次の「終着駅」は、見つかった。
「何か、動物に関わる仕事に就きたい。動物の力になりたい。この夢は、叶えるまで諦めない」
高校一年生の冬、私は専門学校に進学すると決めた。
 
「とにかく、どこか就職しなくちゃ。このまま就職先が決まらないと、また迷惑をかけてしまう」
専門学校の卒業を控えた、冬のことだった。
私は焦っていた。
周りには、現場研修で内定を勝ち取ってきたクラスメイトがいた。
隣の席で授業を受けていた友人は、入社試験を何度も受けて内定をもらった。
周囲の同級生は、終着駅を目指して順調に進んでいた。
私は「終着駅」が分からなくなっていた。目印のない、砂漠の中を走っているような感覚だった。
授業を受けて、研修に行って、履歴書を書いた。
それを繰り返せば、繰り返すほど、私は自分が何を目指しているのか分からなくなっていた。
卒業ギリギリに内定を頂いて就職したものの、3か月で仕事を辞めた。
 
私は、「動物に関わる仕事がしたい」というレールの上を走っているつもりだった。
しかし、うまくいかない現実と向き合うことができなくて、私は逃げていた。
学校で担当していた動物を死なせてしまった自分が、嫌になった。
研修や実習での評価も良いとは言えず、本当に現場で働いていけるのか不安だった。
そして、終着駅に早く着かなければいけないと思って、焦っていた。
列車がスピードを出しすぎて、脱線事故を起こしたような状況だった。
 
それからしばらくは、動物と全く関係のない仕事をいくつかやってみた。
イベント会場で誘導のアルバイトをやっていた時のことだ。
突然、責任者の方から呼ばれた。
私が何か失敗をしていて、それを注意されるのではないかと思った。
腹を空かせたネコと鉢合わせしてしまったネズミのように、私は身を縮こまらせた。
その予想は、大きく外れた。
「話し方もきれいだし、この持ち場じゃ勿体ないわ。接客が多い持ち場に変えましょう」
お客様へのアナウンスや、言葉遣いはどこで学んだのか? と聞かれた。
私は、これまで自分が何をやってきたのかを話した。走ってきたレールを振り返るように。
中学・高校時代の部活動が礼儀に厳しくて、その時に言葉遣いが身に着いたこと。
専門学校の授業で、動物の解説をする練習を何度もやってきたこと。
私は、動物の解説をする時間が一番好きだった。
説明用のイラストやシナリオを手作りする時間も好きだった。
何より、解説が終わった後に「面白いね」、「この動物、すごいね」と言ってもらえると、本当に嬉しかった。
専門学校の入学式で聞いた、あの一言を思い出した。
「夢は形を変えるものです」
「夢」を叶える前に諦めたり、立ち止まったりしてきた。
それでも、自分では気付かないうちに、これまでの経験はちゃんと役立っていた。
今まで走ってきたレールは、ちゃんと繋がっていたのだ。
「終着駅」が変わっても、「終着駅」を見失っても。
レールが途切れたように見えることもあるけれど、全てはどこかで繋がっているのだと思った。
 
「私、動物専門のイラストレーターとして活動します」
昨年の春、私は新たな出発の汽笛を鳴らした。
その時のSNSの投稿には、こんなことを書いていた。
「動物のイラストを描くことで、動物や人の力になる」
それは、終着駅というよりも、「目指し続ける方向」に近い。
その方向に、行ってみたい駅があるのだ。大小様々の「停車駅」が。
 
「就職」、「結婚」、「独立」なども、「停車駅」のひとつだと思う。そこが、「終着駅」ではないのだ。
ひょっとしたら、その駅を目指している途中で、進路変更するかもしれない。
そうなったとしても、心配はいらない。
その経験をしたから、得られたものが必ずある。
今まで走ってきたレールの分、学んだこと、分かったこと、出会いなどがある。
それらは必ず繋がっていると、そう信じて、今日も進もう。
 
 
 
 
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2019-05-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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