メディアグランプリ

YOSHIKI疑惑から半年。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:金田一 恵美(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
寝る前から寝違えてるぞ。
晩ご飯を食べていた時に首の痛みを感じはじめて、ちょっとふざけた調子で、そう思った。肩こりが悪化してきてるのかな、寝る前にヨガでもしないとな。よくあることにも思えたので、朝には治まっているだろうと軽く考えていたが、翌朝、かすかな腕の痺れも出てきて、しまいには首の痛みで食べ物を飲み込むことも辛くなってきた。布団に横になるのも辛く、寝返りなどはもってのほかだった。もしかしたら、ただ事ではないかもしれない。週明け、寝不足と痛みでだるい体を引きずるように整形外科へ行った。
 
初めて訪れるクリニックは、お年寄りでいっぱいだった。診察を待つ間、リハビリスペースを眺めていた。作業療法士達は若く、リハビリしている人はほぼお年寄りだ。壁に掛けられた大きいモニターには朝の情報番組がかかっていて、みんなストレッチのような筋トレのようなことをしながら見ている。ちょっと老人ホームに来た気分だな、と思ってしまった。これが現代のローカルのクリニックなのかもしれない。作業療法士の若者にもその日のコンディションがあるだろうが、全体的にあまりやる気を感じなかった。ぼんやりと、リハビリはしたくないなぁと思った。
 
問題の首はというと、CTスキャンやらMRIやら検査をされ、「頸肩腕症候群」と診断された。けいけんわんと読む。先生に口で言われても文字がイメージできず、何度も聞き返した。文字がわかれば意味は簡単。頸(首)と肩と腕が悪いのだ。ずっと同じ姿勢でパソコンやスマホをいじっていることで起こりやすいと言われ、思い当たる節どころか、日頃の生活習慣そのものだなと思った。
 
深刻な病気ではなかったが、診断結果が出る前の不安な一夜を一生、忘れないだろう。
CTの画像を見ながら先生は「もしかしたら椎間板ヘルニアかもしれない」と言った。MRIでわかるからやりましょう、と。次の予約をして、診察は終わった。
「かもしれない」というわずかな可能性でも、その一言が頭から離れなかった。
 
だって、椎間板ヘルニアといえばYOSHIKIじゃないか。
X JAPANのYOSHIKIが、音速の貴公子が、度重なる激しいドラムパフォーマンスによって痛めてしまった、あの首の病気じゃないか。
溢れる才能と情熱がゆえに抱えることとなった、爆弾じゃないか。
私ごときがパソコン仕事とスマホゲームのやりすぎで、同じ爆弾を首に抱えることになると言うのか。
しょぼすぎる上に、痛すぎる。首どころか、人生も、痛すぎる。
中学生の頃、ヴィジュアル系バンドブームにどっぷり浸かっていた私にとってYOSHIKIは神のような存在だ。
でも、同じ爆弾は、いらないんです、神よ……!
祈る気持ちと、最悪の人生のシナリオと、悶々と繰り返しながら、眠れぬ夜を過ごしたのだった。
 
この世の終わりのような気分で向かったMRI検査だったが、同じ日に検査したおばちゃんと少し話をした限り、明らかに私の症状は軽いように思えた。おばちゃんは叩けばどんどん出る埃のように、足も腰もといろいろ悪い箇所を教えてくれた。結構大変そうな症状なのだが、まるで旦那の愚痴でも言うかのようなノリ。検査やリハビリしたってねぇ、とぼやき、しょうがないから来たといった様子だ。検査が終わったら仕事に行くらしい。私ってもしかしたら深刻に捉えすぎてる? よくない可能性ばかりじゃなくいい方にも期待しようじゃないか。
淡い期待は少し当たり、椎間板ヘルニアではなかったわけだが、いつまた痛みが出るかはわからないので、生活習慣や姿勢には気をつけるようにと言われた。
 
「じゃ、今日はこの後リハビリしていって」
やはり、言われてしまったか。痛み止めが効いてるとは言え、それなりに痛い首で一体どんなリハビリをすると言うのか。リハビリスペースに首を引っ張るような怖い機械もあったのを私は見逃さなかった。
怖い! 帰って寝かせてくれ!
心の中の叫びとうらはらに、「あ、はい……」と切れの悪い返事が口から出ていた。検査後は仕事へ行くと言っていたおばちゃんは気付けばいなくなっていた。慣れない整形外科で、私は「仕事」という切り札を使うタイミングを完全に逃した。
不安と恐怖でドキドキしながら、リハビリはスタートした。
作業療法士のお兄ちゃんが何かしら説明をしながら、首や肩を丁寧にマッサージしてくれた。ストレッチのようなことも少しした。あー気持ちいい。
その後、電気の流れるパットを首や肩などに貼り付けられ、機械のマッサージを受けた。あー気持ちいい。
 
「これで今日のリハビリは終了です。」
 
リハビリって何ぞや?
悪くしたところが鈍らないように痛いのを我慢して動かすとか、そういうものを想像していたが、ほとんど横になって気持ちいいなぁと思うだけだった。昔通ってた整骨院と全く一緒。
「リハビリ」という定義になると無料になるのか。
そう、リハビリに通う分には何度来ても無料だというのだ。魅力的な話にも思えたが、結局「空気が合わない」という理由で私は通わなかった。本当はそれだけではない。首の痛みのせいで食事を飲み込むのも痛かったので「喉も痛い」と先生に症状を伝えた時、いい耳鼻咽喉科が同じビルにあるから行ったらいいと言われたのだ。「風邪の相談してるんじゃないよ!」と心の中で突っ込んだ。そして私の心は閉じた。
今後のリハビリスケジュールの話が出たが、「仕事」を盾に受け流した。それ以降、そのクリニックには行っていない。良い整体を見つけ、費用はちょっとかかるがメンテナンスには定期的に行っている。
 
このごくごく私的な出来事を「YOSHIKI疑惑」と呼んでいるのだが、かかりつけ医の存在の大切さを実感した事件だった。
今まで年に1回風邪で内科に行くかどうかというくらい、病院に用事がなかったのでかかりつけと言える病院が近くにない。しかしこの事件から半年ほどの間に、歯医者、内科、皮膚科と立て続けにお世話になることがあり、やはり病院選びに悩まされた。現在2勝2敗といったところだ。
ガタの来ている自分の体を憂うと同時に、自分に合った病院探しはまだしばらく続きそうである。
 
 
 
 
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2019-05-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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