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メディアグランプリ

星座をつくりながら


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:河上弥生(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
つぴ、つぴ、つぴー。
 
つぴ、つぴ、つぴー。
 
関東の5月、ツバメの鳴き声が、青空の下、きらめくように響く。あの声を聴くと、その響きがすうっと消えてゆくときに空気の透明感が増すようで、わたしはとても幸せなきもちになる。
 
日が暮れ、仕事を終えて混んだ電車に揺られていると、スマホの着信音がちら、ちら、と四方から聞こえてくる。この頃の着信音は、さりげなくて、夢みるような美しい音が多いなとおもう。
 
電車で乗り合わせたひとの8割くらいは、スマホを見ているみたいだ。わたしも電車のなかでは、スマホをみるか、本を読むかだから、おんなじだ。
 
駅のプラットホーム、あるいは暗い夜道でスマホを見ている人の頭の角度は遠くからでもわかる。すれちがう時に視界に入るそのひとの顔が、青黒い夜の中でふんわりと照らし出され、ホタルのようだ。
 
目的地へのルートをしらべているのかもしれない。好きなサイトのチェックかもしれない。あるいは、誰かに語りかけ、自分に返事してくれる声を待っているのだろうか……。
 
その人は、スマホの向こうの誰かとつながっている。
 
そう思うと、わたしには、そのひととスマホの向こうの誰かとでつくった星座が、よるに柔らかく浮かび上がるのが見えるような気がする。
 
ひとりひとりが、星のようにひかっている。誰かとつながって、星座をつくっている。
 
ひとは命をさずかり、まずは、自分の親きょうだいとの星座をつくることからはじまって、時をかさねながら、友人であったり、恋人であったり、趣味の仲間であったり、さまざまな相手と、いくつもの星座をつくってゆくのではないだろうか。
 
そして、その星座をつくるのは、必ずしも、ヒトとだけ、とはかぎらないとおもう。この世に等しく生をうけた命、ヒト以外の生きものであったり、植物だったりもする。わたしには、同じ時間を生きたことが、もう、特別な運命としかいいようのない猫がいた。なんだか、私に寄り添ってくれているとしか思えないほどの樹があった。
 
この世は、命がつくる星座で満ちている。
 
星は、生まれる。そして、星は、消えることもある。走り回って居場所をかえたり、星どうしがぶつかって、砕け散ることもある。流れて、すうっと、闇に溶けてゆくこともある。
 
だから、星座は、増えたり、減ったりする。カタチがかわらない星座もあれば、どんどんカタチをかえてゆく星座もあるだろう。
 
わたしが、夫と共につくった星座は、壊れた。ひとつの星が、その場で光るのをやめたので、わたしたちの星座は、かたちをかえるしかなかった。
 
身近な光を失ったその前後、わたしは真っ暗で冷えびえとしたところに放り出された気持ちになり、いろんなことに投げやりになっていたり、大切な人たちに対して、心を貫くような残酷な言動をとっていたような気がする。
 
しかし、その後、時間が経って、すこしずつ落ち着いてきたころ、私は気がついた。
 
自分は、それまで、ほかにも、いくつもの星座をつくっていた事に。今までも、いくつもの星が私の側にあって、私と、星座をつくって、それを壊さずにいてくれていた事に。そして、
私や、こどもたちを気づかい、手を差しのべてくれて、それまであった星座をさらにはっきりしたカタチにしてくれたりした星もある事に。
 
さらに、自分は、あれから、新しい星座をいくつもつくってきている事にも気がついた。自分が意を決して新しい世界に踏み出し、あらたに知り合えたひとと。
 
なんだかとってもありがたい。
自分がその一部である星座をひとつ、またひとつ、見つけることによって、自分が、だんだん、明るい光につつまれてきているように感じられた。
真っ暗なお部屋にいる自分の背後で、ちょん、ちょん、と灯りがともる感じ。
 
自分は、優しくて温かい場所に、いたのだった。暗くて、寒いところで、びしょびしょな体を震わせているように感じていたのは、錯覚だった。こころが、ひえて固まっていたので、見える範囲も、感じられる範囲も、針の穴みたいにちっちゃくなっていたんだとおもう。
 
今は、投げやりな気持ちとか、残酷な言葉からかなり離れているような気がする。少なくとも、足元の武器を手に取るように手をのばすことは、もう、ないようにおもう。
 
そしてまた近頃知ったのは、自分でも忘れてしまっていた星座が時間を経てよみがえり、自分をささえてくれる、ということも起こることだ。ほんとうに、うれしい。
 
毎年、私の住む街のK駅横の交番の防犯カメラの上にツバメの巣が作られる。
 
毎年、かならず、かれらはあの場所に巣をつくる。誰かと、固く約束しているかのように。
 
わたしは、毎年、つばめがひゅんひゅん飛んでくるのを見て、ややしばらくして、ひながピャーピャー鳴いているのを聴いて、ほっとする。
 
ひなたちの落としものをうけとめる台も、交番の警官さんがつくりつけている。それが毎回手づくり感満載で、なんだか微笑ましい。
 
毎年、ツバメは、あの場所に巣をつくる。
なにがどうあっても動かない北極星と同じほどに、揺らがない。
 
あのツバメたちと、交番の警官さんと、毎年ながめて微笑んでしまうワタシと、そこにも星座がつくられているのだとおもう。
 
今日も、暮れてゆく窓の外に、街並みが見える。
 
街は、夜も明る過ぎて空の星はあまり見えないけれど、目に見えぬ美しい星座で、満ち満ちている。
 
 
 
 
***
 
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2019-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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