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メディアグランプリ

ひっぱりとサバの缶詰の謎


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記事:生田幸子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「え!?」
それは、何年か前のことだ。私はテレビを見ながら、思わず声を上げてしまった。その番組とは「秘密のケンミンショー」それは、各ご当地の特色を面白く紹介する番組であり、その日の特集は山形県だった。ちなみに私は横浜生まれ横浜育ちのはまっ子である。しかし、両親は生まれも育ちも生粋の山形っ子であり、両親ともども先祖代々山形っ子である。山形には縁深い部分があるので、非常に楽しみに番組を見ていたのだ。しかし、その楽しみにしていた番組で、思いもよらない衝撃を受けた。それは、山形県でも両親が育った村山地方に伝わる郷土料理「ひっぱりうどん」の紹介で起こった。
両親も、そして私も大好物であるこの「ひっぱりうどん」。簡単に紹介するなら「釜揚げうどんのつけ汁を納豆にしたもの」である。茶碗に納豆と細かく刻んだネギ、市販のだし醤油とうどんのゆで汁を加える。食卓には大鍋でゆでたうどんを鍋のままどんと置いて、各々が自分の茶碗にうどんを直接入れて食べる。納豆からこんなにおいしいだしがでるのかと思うくらい、例えようのない、非常にいいつけ汁になっていて、とにかく箸が止まらない。
幼いとき、「ひっぱり」(大抵「うどん」が省略される)は父の好物ということもあり、よく食卓の中心にあることが多かった。特に冬の寒い時期、家族で大鍋を囲んだものだ。私にとって、「ひっぱり」は両親の生まれ育った山形のローカルフード、つまり「郷土料理」の一つだと思っていたのだ。
ところが、である。
「秘密のケンミンショー」で紹介された「ひっぱりうどん」は、私が一度も見たことがない代物だったのだ。
何が違ったのかといえば、つけ汁である。
あろうことか、つけ汁に納豆とサバの缶詰を入れていたのである。
「山形県村山地方のケンミンは、納豆とサバの缶詰をうどんにつけて食べるのが常識」と紹介されたのだ。
ちょっと待て! である。
そんなこと聞いたこともないぞ! である。
てか、そんなん、おいしいそうに見えないぞ! である。
しかし、その反面、私はとてつもない不安に襲われたのだ。
 
そう、私は、「山形県村山地方のケンミン」ではない。前述の通り生まれも育ちもはまっ子である。あくまでも「山形県村山地方のケンミン」は私の両親である。(元が付くが)
しかし、私の家にサバの缶詰のストックがあった記憶はないし、そもそもでサバの缶詰が食卓に上がった記憶もない。両祖父母の家(山形県村山地方にある)となると記憶があいまいになるが、それでも、祖父母の家に遊びに行ったときに食卓にあがった記憶はない。しかし、もしかしたら、本当はサバの缶詰を入れるのが正しいのではないか……私が「郷土料理」だと思っていたものは、実は、そうではなかったのではないかと、疑念がふつっとわいたのだ。
 
その疑念の話が再び出たのは、それから少しあとのこと。ちょうど、私が横浜の実家に帰ったときだった。偶然にも、ひっぱりとサバの缶詰の話題になったのだ。
「サバの缶詰を入れるってホント? おいしいの?」
疑念の真相を聞いた私に対して、母の回答はそっけなかった。
「知らん。大体、サバの缶詰を入れるって話自体、あの番組で初めて聞いた」
何度も言うが母は、生まれも育ちも山形県村山地方である。その母が、「サバの缶詰をうどんにつけて食べる」ことを、知らないと言い切ったのである。
私は混乱した。全国ネットのこの番組が嘘を言っているとも考えづらい。無論、母の言っていることは、間違いない。
 
サバの缶詰の真相は一体?
そんなとき、ふと頭をよぎった食べ物がある。そう、それはカレーである。
カレーといえばこういうものだという共通のイメージが誰でも出るが、その実、細かい部分はだいぶ異なってくるのがカレーという食べ物だ。
カレーといえば豚肉の人もいれば、牛肉の人もいる、鶏肉の人もいるし、もしかしたら肉を入れない人もいるかもしれない。人参と玉ねぎとじゃがいもを入れる人もいれば、入れない人もいるし、他の野菜を入れる人もいる。隠し味に、チョコを入れる、リンゴと蜂蜜を入れる、スパイスから調合する、市販のルーをつかう……そのどれをとっても「カレー」である。
もしかして、「ひっぱり」にしても同じなのではないか。
同じ地方でも、サバの缶詰を入れる人もいれば入れない人もいるのだ。そして、サバの缶詰を入れようが入れなかろうが、「ひっぱりうどん」は「ひっぱりうどん」なのではないか。
そう、番組でもう一つ重要なことを言っていた。
「ひっぱりうどんとは、鍋からうどんを「ひっぱって」自分の茶碗に入れることが語源である」と。
鍋からうどんを引っ張って食べるのであれば、つけ汁が何であってもいいのではないか。
そう思ったら、ふとあることを思い出した。
「そういや、昔さ、おばあちゃんが卵といたやつをつけ汁にして食べてたね。」
そう母に言ったら
「え!? そんなことあったの?」と驚いていたが、それも「ひっぱりうどん」なのだ。そう、私は思うのだ。
私の故郷は、山形ではない。だから、ひっぱりにサバの缶詰を入れない本当の理由は、私には分からない。それが正しい答えだ。けど、ひっぱりにサバの缶詰を入れなくても、それは私にとって、私の家族にとって「ひっぱり」であることは間違いないのだ。そしてそれが、私にとって故郷の味であることも、これもまた間違いない事実なのである。
 
さて、サバの缶詰を入れたひっぱりうどんの味だが、私はまだ体験していない。
やっぱり、納豆が一番なのである。
 
 
 
 
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2019-05-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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