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メディアグランプリ

リクガメマーケティング


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:Suzuki Junichiro(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
リクガメが家の床をゆっくり歩いている。
 
わずか15㎝ほどの身体と、短い手足を交互に一生懸命に動かして、リクガメは前に進んでいた。
 
目の前の光景と、昨日までのありふれた生活とのギャップに、自分自身、とても不思議な気持ちになっていた。
 
私はリクガメを飼うことになった。
 
きっかけは、2週間前の日曜日。妻が「ペットショップに行きたい」となんともなく言いだしたことだった。
 
聞けば、「最近仕事も忙しくてストレスも少なからず溜まっているから、可愛い動物たちを見て癒されたい」とのこと。
 
休日の過ごし方にそもそもあまりこだわりのない自分は、スマホで探した良さげなペットショップに、妻に付いてのこのこと出かけて行った。
 
帰りには、自分自身が、右手にリクガメの入った箱を(できるだけ揺らさないように配慮しながら)ぶら下げていることも知らずに。
 
「私、リクガメライフを送るのが小さいころからの夢だったの」
 
妻はペットショップの爬虫類コーナーで、これまで自分が聞いたこともないようなことを口に出した。
 
「そうだったの!?」
 
確かに、妻が爬虫類好きだということは知っていた。
 
「蛇とかトカゲも全然大丈夫だし、すごくかわいい」と言っていたのは聞いたことがあるし、「へー、そうなんだ。珍しいね」とレスポンスしたことがあるのはなんとなく覚えていた。
 
でも、「リクガメライフを送ってみたい」と彼女が思っていたことはつゆぞ知らなかった。
 
妻の秘された夢を知った喜びにも似た少しばかりの何かと、若干の困惑を感じている自分をよそに、
 
「ねー、飼ってもいいかな?」
 
店員からギリシャリクガメを手に乗せられた妻は無邪気に聞いてきた。
 
「う、うーん……飼いたいならまぁいいんじゃない?」
 
そもそも休日の過ごし方以外にも物事にあまりこだわりのない自分は、ペットを飼うことのある種の責任の重さすら感じることなくそれを承諾した。
 
実際、自分も手に乗せてみたギリシャリクガメは何とも言えずあいくるしく、癒されたのも、決断の理由の1つだった。
 
ギリシャリクガメは地中海沿岸に広く分布して生息しているリクガメの一種だ。
 
ギリシャと名がついているのは、甲羅の模様がギリシャ織に似ていることが由来。ギリシャに固有な種というわけではないらしい。
 
リクガメについての事前知識も何もないままに飼うことになってしまったが、とりあえず店員に勧められて買った飼育用のケージや温熱シートなどを、帰ってからすぐに部屋に設置した。
 
ペットを飼うなんて小学生ぶりの私は、突然、自分の生活に入り込んできた異生物に最初当惑したものの、それを補ってあまりあるリクガメの愛らしさを感じたのだった。
 
名前は、非常にありきたりだが“亀吉”と命名した。
 
リクガメの亀吉を飼い始めてからの生活は、まさしくマーケティングの日々だった。
 
当然のことながら言葉はしゃべれないし、犬などのような感情表現も皆無だ。
 
まずできることと言えば、リクガメの生態についての情報収集から始まり、亀吉の行動をじっと観察することだった。
 
最初の3日間くらいは餌をあげても全く口にせずにとても心配になった。
 
「なぜ食べないのだろう?まだ俺のことを信用してないのかな?それとも餌が悪いのか?」
 
など仮説を様々考えながら、餌を変えてみたりする。それでも食べない。調べてみると、リクガメは結構センシティブな性格で、新しい環境に置かれると、慣れるまでの間しばらく餌を口にしないこともあるということが判明したりする。
 
しかし、そんなふうにセンシティブなわりには好奇心は旺盛で、狭いケージの中にいるのが大不満で、「外に出せ!」と言わんばかりに、ケージのガラスをひっかく。
 
結局、家に家族がいるときは、可能な範囲で、部屋で放し飼いにするようにしたのだが、やはり警戒しているのか、あまり自分のいる近辺には近寄りたがらない。
 
そこで私は戦略目標を「亀吉に自分の手から餌を食べてもらうこと」に定めた。
 
そのためには、彼に自分を信用してもらう必要があるし、害がないことを示さなければならない。
 
リクガメが嫌がるようないきなり上から掴むなどをしないことや、餌をくれる人だと認識させることなど、リクガメの習性について様々な情報収集しながら、実際の亀の行動を観察し、試行錯誤で接してみることにした。
 
そうやって亀吉と向かい合っていてふと気づいたのは、「今自分がやっていることって今話題のマーケティング理論であるOODAループに近くないか?」ということだった。
 
OODAループとは、アメリカの空軍大佐であるジョン・ボイドという人が生み出した戦略についての理論で、今やPDCAに代わる次世代のマーケティング・組織運営のフレームワークとして注目を集めている。
 
一言で言うならば、「観察・情報収集(Observe)」「状況判断・仮説構築(Orient)」「意思決定(Decide)」「実行(Act)」を「ループ(Feedback)」させることで、目標に最速で近づく手法である。
 
私は、「亀に信用される」という戦略目標(というより個人的な感情)のために、観察→仮説の構築→意思決定→実行→フィードバックというOODAループを、(とても小さなレベルだが!)回していたのだ。
 
もちろん、現実のマーケティングはもっと複雑だし難しいだろう。しかし、基本的な思考の使い方はまさにマーケティングの基本のような感じがしたのだ。
 
何より、亀吉を通して、相手のことをじっくりと観察して理解しようとする姿勢は、人間関係や仕事においてとても大切なことだと思い起こさせてくれた。
 
亀吉を飼い始めてから2週間。リクガメマーケティングの成果はどうだったか。
 
正直、未だ私の手から直接餌を食べてくれることはない。
 
しかし、最近では私の足を小さな頭で小突いてきたり、あたかも障害物かのように私の素足の上を乗り越えていったりするようにはなったのだ。
 
飼い主としてはそれでも十分満足である。私のリクガメマーケティングはまだ始まったばかりだ。
 
 
 
 
***
 
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2019-06-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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