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ワーキングマザー史上最大のピンチ


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記事:土屋忍(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
それは、息子が小1の5月のことだった。
小学生になって初めての運動会が終わり、家で息子の帰りを待っていると、学校から電話が。
 
おうちの人が迎えに来るのを待っていると言って、息子がグラウンドに残っているという。
大海原の無人島にポツンとひとり、船が来るのをただひたすら待っている人みたい。そんなことを思いながら、ひとりで帰してくださいと言って、帰宅を促してもらった。
 
思えば、これがすべての始まりだったのかもしれない。
 
翌日は運動会の代休で、夫が仕事お休みして、父子で流れるプールへ。
大満足で帰宅した二人。
 
その次の日。
足が痛くて歩けない、と言う息子。
 
な、なにーーーーーーーー?!
 
私は仕事が繁忙期で、会社を休めない状況だった。
でも前日は夫がお休みとってくれていたので、仕方なく私がお休みをとって息子をかかりつけの小児科へ連れて行った。
 
病児保育に預ける気満々でいた私に、かかりつけ医は真顔でこう言った。
 
「これは、股関節炎の疑いが大きいですね。軽いものなら1週間ほどで治るけど、重篤な場合は数年単位で治療が必要になる。MRIなどで調べる必要があるので、設備が整った大きな病院を紹介しますよ」
 
「先生、今日は病児保育で、明日、その辺の整形外科受診じゃだめですか?」と食い下がると、「病児保育や整形外科で時間つぶしてる場合じゃないよ、お母さん」と叱られ、ようやくことの重大さに気がついた。
 
息子を連れて、タクシーで、紹介された大きな病院へ。
車いすを借りて、小児科と整形外科をはしご。
 
単純性股関節炎で間違いないでしょう、1週間ほどで治ると思いますよ、と先生。
心底ほっとして、息子を連れて帰宅した。
 
それから1週間、夫と交代で仕事を休んで、完治を待った。
私は仕事繁忙期だったけど、上司と同僚に事情を話し、代わりにやってもらったり、納期を遅らせてもらうなど、最大限配慮していただいた。ありがたかった。
 
小学校入学に伴うストレスかもしれない。私と夫が交代で休んで一緒に過ごせば治るかも、とも思っていた。
 
そして、発症から1週間が経った。
 
息子は、落ち込んだりメソメソしたりすることはなくて、すこぶる元気だった。
ただ、足の痛みは治らず、家の中でも、片足ケンケンで移動していた。
元気なのがせめてもの救いだけど、片足ケンケンでは、学校にも学童にも行けない。
1週間、両親が交代で一緒に過ごしても治らないのだから、ストレスとはたぶんきっと関係ないだろう。
 
再び大きな病院を受診。
「そろそろ治るはずなんだけどなぁ。まだ痛い? そうかぁ。どうしてだと思います? お母さん」と先生に聞かれ、いや、知らないよ、ってか、私が聞きたいよ、と思った私。
もう少し様子を見てみましょうか。念のためMRIもとりましょう、ということになり、MRIもとったけど、痛みが続く原因はわからなかった。
 
お休みが続き、私も夫も会社をお休みできる限界を超えつつあった。
 
ええーい、こうなったら・・・・・・。
保育園時代に培った我が家の「子育てセーフティネット」総動員だっ!
 
保育園時代にお世話になりまくっていた施設型の病児保育に電話して
「すみません、股関節炎で足が痛いんですけど、預かってもらえますか?」
「医師の診断書があれば、大丈夫ですよ~」
 
同じく保育園時代にお世話になっていた有償ボランティアのファミリーサポートSさんとRさんに電話。
「あら、大変ね。うちはいいですよ」
お二人とも、快く引き受けてくださった。
 
こうして、夫と私は会社、息子は病児保育とファミリーサポートを渡り歩く日々が始まった。
 
その合間を縫って、インターネットで探しあてた東京都内の小児整形の専門医を受診した。
先生は、レントゲンを見ながら、「炎症の後が見られるので、確かに痛みはあったでしょう。でも、もう炎症はみられないので、このまま治ると思いますよ」と。
 
そう言われて、安堵した反面、最初の病院でも「1週間で」と言われたのに治らなかったし、もしこのまま治らなかったらどうしよう? と考えていた。
それでも「退職」の文字は浮かばず、会社の介護休職制度を調べたりしていた。
 
小児整形専門医の初診から1週間後、再受診。
ようやく完治。学校行ってよし! のお墨付きをいただいた。
 
学校をお休みした日数、じつに19日! いやあ、長かった・・・・・・。
こうして、ワーキングマザー史上最大のピンチは去り、いつもの暮らしが戻ってきた。
 
それにしても、足の痛みはどうしてあんなに続いたんだろう。今となってはわからないけど、
もしかしたら、だいぶ前に収まっていたのかもしれない、とも思う。
 
ファミサポさん家にお迎えに行って、おんぶして帰るとき、私の背中で嬉しそうな息子を見て、「甘えたいみたいよ」とこっそり耳打ちされた。
足が痛いことで、両親が心配してくれる、病児保育やファミサポさん家に送迎してくれる、そんなことが、嬉しかったのかもしれない。
 
運動会の日、グラウンドでひとりポツンとお迎えを待っていた息子は、小学校に入ってからずっと、無人島で船が来るのを待つような気持ちだったのかもしれない。学校が楽しくないとか孤立しているとかではなく、ただひたすら、迎えを待っていた。望んでいた。
そんな気持ちに気づかずに、気づけずに、自力で帰っておいでと手を離してしまったのだとしたら・・・・・・本当に、申し訳ないことをしたな。
 
 
 
 
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2019-06-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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