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メディアグランプリ

ミッションを成功に導く子どもの寝顔


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:井村ゆうこ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
6月第3週、水曜夜7時15分。私は5歳の娘と一緒に寝室の布団の上で横になった。寝かしつけの開始である。その時、私の頭の中では大音量でひとつの曲が流れていた。「ねんねんころりよ」で始まる、江戸子守唄でもなく「眠れ良い子よ」で始まる、モーツァルトの子守唄でもない。
流れていたのは「ダッ! ダッ! ダッダッ!」で始まる、映画ミッションインポッシブルの主題歌である。
 
その曲が頭の中で流れ始めたのは、同じ日の朝だ。いつもは7時近くに起きる娘を6時に起こすため、寝室のドアを開けたときから始まった。この日、私はミッションを抱えていた。娘を夜7時半までに寝かしつけるというミッションを。普段、夜9時近くに寝ている娘を7時半までに寝かせるためには作戦が必要だった。秘密諜報組織の不可能作戦部隊が立てるような綿密な作戦が。私は部隊のリーダーであり、唯一の実行部隊なのだ。
 
作戦のキモは「相手を疲れさせること」と「機嫌を損ねないこと」のふたつ。まだまだ遊ぶ体力が残っている子どもが、駄々をこねて泣き出したら、ミッションの遂行なんて木っ端みじんに吹き飛ぶに違いない。
 
まずはいつもより1時間早く起こし、幼稚園へ行くまでの時間も体力を使うよう促す。掃除機をかけて夕飯の下ごしらえをしたいところをぐっと我慢し、娘に最近幼稚園で習っている夏祭りの踊りを披露して欲しいとお願いする。普段はほったらかしの朝の時間帯に、珍しく相手をしてくれる母に気を良くし、何度も踊る娘。母の頭の中では夏祭りの曲ではなく、ミッションインポッシブルの主題歌が流れているとは知らずに。
 
いよいよ作戦本番が始まった夕方5時。幼稚園の延長保育で遊んでいる娘を迎えに行く。いつもより30分早めだ。ちょうど描いていた絵が完成したタイミングだったらしく、すぐに帰る準備をして出てきた。家に戻るとまずはお風呂、そして夕飯の順番だ。お風呂から出て食卓についたのが、午後6時10分。なかなかいい感じだ。ここまでのところ、作戦に狂いなし。嫌いなメニューがあると、箸が進まないのは大人も子どもも一緒だ。抜かりなく、娘が大好きなオムライスにケチャップでハートと名前を書いて出す。機嫌よく食べる娘の横で、いつもより少ない量の夕飯を胃に流し込む。寝かしつけの時、自分が先に寝てしまう「寝落ち」を避けるためだ。満腹感は寝落ちを誘う最も危険な敵である。
 
午後7時、就寝前の絵本タイム。まずは2冊選び、読み終わったところで物足りない場合は、「もう1冊」とリクエストしてくるのが、いつものパターンだ。7時半までに寝かせることを考えると、なるべく2冊で、しかも文字数少なめの本でお願いしたいところだったが、1冊はかこさとしさんの「どろぼうがっこう」だった。許容範囲の文字数ではあったが、気が付かないうちに早口になっていたらしい。娘から「ママ、早すぎ」とクレームが入る。いけないいけない、作戦遂行に焦りは禁物だ。
 
気を取り直して、絵本を読みはじめた直後、「ピンポーン」と玄関のチャイムが鳴る。「パパだ!」とソファーから立ち上がる娘に、「絶対違うよ」と返事をして、インターホンの画面に向かう。やっぱり。いつも配達してくれる宅配便のお兄さんだ。
 
子どもを寝かしつけしているママ達が一番恐れるのは、寝かしつけの最中にパパが帰ってくることだ。やっと眠りに落ちそうになっていた子どもは、パパの登場で覚醒し、寝かしつけは数分後(へたすると、数時間後のことも)に一からやり直しになってしまう。不可能作戦部隊のリーダーである私がそのことを忘れるはずがない。最近ダイエットに目覚めた夫に「絶対やせてきたんじゃない? その調子で、今日も頑張ってジム行ってきたら」と勧め、「そうかな? じゃあ、今日もジムに行ってくるよ」との確約を勝ち取っていたのだ。
 
宅配便のお兄さんの登場で若干狂ったタイムテーブルだったが、なんとか7時15分には寝室に入ることができた。あとは娘が眠るのを待つばかり。数分後、眠ったことを確認し、私の腕をつかんでいる娘の手をそっと離してリビングに戻る。時計は7時28分を指していた。任務完了。
6月第3週、水曜夜7時半。天狼院書店のライティング・ゼミ第2講生中継に間に合った。同じミッションが9月まで、あと6回続く。
 
私はいつか、不可能作戦部隊のリーダーを辞めるときがくるだろう。
娘は成長し、ひとりで寝ることができるようになる。親に絵本を読んでもらわなくても、自分で本を読むようになる。やがて恋をし、夜遅くなるアリバイ工作を友達に頼むかもしれない。ひとり娘を手放す覚悟を決められない親から、こっそりと逃げ出す作戦を立てるかもしれない。作戦を立てる側から、立てられ
る側へと移る日が、必ずや来る。
 
娘の寝顔を見ながら、自分に言い聞かせている。母である私に課された最大のミッションは、娘の成長を邪魔しないことなのだと。人生は予測不可能な出来事の連続だ。親が先回りして取り除いてやれる障害は少ないだろう。そして何より、親自身が、私自身が娘の人生の障害になってはならない。
 
親は子どもの寝顔を見て、自らの親としての行いや在り方を反省するようプログラミングされている。自分の都合で理不尽に怒ってしまった夜や、子どもとの約束を身勝手な理由で破ってしまった夜などに。考えてみれば、子どもは生まれた瞬間からミッションを遂行しているのかもしれない。親に子離れさせるというミッションを。親にとっては時につらい、そのミッションを成功に導くために、きっと子どもは親に無垢な寝顔を見せておくのだ。将来、離れていく子どものたくましい顔の向こうに、子どもの頃の寝顔を思い出し、親は自分を慰め、そして納得させるのだろう。
 
今はまだ、思う存分娘の寝顔を眺めておこうと思う。
 
 
 
 
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2019-06-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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