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メディアグランプリ

あなたと私の物語


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:河上 弥生(ライティング・ゼミ日曜コース)

*このお話はフィクションです。
 
 
私を救ってくれた、あなた。あなたがいなければ、私は今、ここにいません。
 
このおうちの御主人Aさんは、お庭しごとが大好きです。四季折々、どの季節にも、かならず何かしらのお花が咲くように、こころを配ってお庭をつくっています。将棋を指しにくるお友だちや、奥さまを訪ねてくるお友だちに、お庭を披露するのが、Aさんの楽しみなのです。そのときに、いつも、お客さまにきかせるお話があります。
 
それは、なぜ私をこのお庭に連れてきたか、というお話。
 
「このアジサイはね、ほんとなら処分されるところだったんですよ。僕、ときどき、人材センターの仕事をやるんだけれどもね、何年前だったかな、おおきな社宅の庭の手入れを頼まれたの。草むしりね。それと、ツツジやアジサイを引っこ抜いてくれ、って言われたわけ」
 
そう、あの日は、社宅のお庭に、Aさんをふくめ、作業着を着た70代前後の男性が、7,8人来ていました。みんな、早朝にあつまって、かるく打ち合わせをしたあと、持ち場に分かれ、せっせと作業を進めていました。
 
晴れていたので、いつものように、お昼前から、社宅に住む小さなこどもたち、そのお母さんたちがお庭に出てきました。砂場で砂をすくって遊ぶ子、古くてギシギシいうブランコで遊ぶ子もいたし、草むらのバッタを追いかける子もいました。とても小さい子たちにはお母さんたちが付き添っていましたし、もう危なげなく動き回れる子のお母さんたちは、ベンチでよもやま話に花を咲かせていました。
 
こどものなかには、作業着の見慣れぬオジサマたちに興味をもつ子もいました。
あなたも、そのうちのひとり。あの時のあなたは、たぶん、3歳くらい。
 
草むしりをするAさんを、しばらく遠巻きにながめていたあなたは、そのうち、Aさんに近づいて、言いました。
「なにしてるの?」
 
Aさんは、びっくりして、しばらくあなたの顔を見つめました。
 
「草むしりだよ。要らない草を、とるんだよ」
「……」
 
あなたはAさんの邪魔をせず、黙って見ていました。Aさんが、場所を変えると、一緒に場所を変えます。あなたは、さらにひと言、ふた言、Aさんと言葉を交わし、次にAさんが歩き出した時に、Aさんの片手と手をつなぎました。Aさんは、少し驚いたふうでしたが、振りほどいたりせずに、おとなしく、手をつながれていました。
 
Aさんの仲間が、その姿を目ざとく見つけました。
「あれー、Aさん、かわいい子、連れてー、いいねえー」
Aさんは、照れ笑いです。
「孫がいたら、こんな感じなのかねえ」
そのうち、ほかにも、あなたを真似て、気に入ったオジサマと手をつないで歩く子があらわれたりしました。
 
そして、Aさんは、スコップを持って、私のところへ来たのでした。あなたと。
 
白いお餅のような丸顔で、愛嬌のある、たれ目のあなた。淡く太いまゆ毛、おかっぱの髪。右のこめかみから頬にかけて、うす緑色の、葉っぱのカタチのあざがありました。
 
「あぶないから、離れていなさいね。このスコップを使うから」
 
あなたは、素直に、Aさんに言われた辺りまで移動しましたが、なおも、Aさんが私の根っこを掘り出すのをながめていました。
 
私を含め、10株ほどのアジサイ、ツツジなどが掘り出され、一カ所に集められました。むしられた草は、おおきなビニール袋に100袋くらいはあったと思います。
 
あなたは、なぜか私のそばを離れず、しゃがんで私に触っていました。Aさんが、やって来ました。
「どうしたの?」
 
Aさんは、お庭をお客さまに見せながら、かならず言うのです。
「手をつないできた女の子がね、このお花、すき、って言ってね。このアジサイの花を、両手で包むようにしていたんですよ。その子の顔も、丸くて、なんだか、アジサイみたいでね。この株だけもらって帰って植えたんです」
 
私は、Aさんにこまやかにお世話をしてもらい、このお庭で咲いてこられました。
 
そして、なんということでしょう。
ある日、お庭から見える道を歩くあなたを見つけたのです。背が伸びて、手足も伸びて、紺色の制服を着ていました。どうやら、この近くに高校があるようなので、きっと、そこに通っていたのですね。右頬の、うす緑色の葉っぱのカタチで、まちがいない、と思いました。
 
夢のようでした。あんなに小さかったおかっぱ頭のあなたが、すっかり、お姉さんになっている。まんまるだった顔が、すこしスッとして、つややかな髪が風になびいて。
あなたに助けてもらった私は、ここで、咲いていますよ、と、叫べるものなら、叫びたかった。
 
毎年、咲いているあいだ、私は毎日毎日、あなたが通るのを、心待ちにしていました。だいたいは、お友だちと一緒に、笑いながらおしゃべりをしていましたね。でも、ひとりでいる時は、暗い顔をしていたり、涙を浮かべている時もあったのを、私は知っています。
 
また、今年も6月が来て、私は咲いていますが、あなたの姿を見ることがありません。どうしたんだろう、病気でもしているのか、と心配していたのですが、通り過ぎるひとびとを見ているうちに、ようやく気がついたのです。
 
そうだ、あなたを見つけてから、私は何度か、咲いたのだった……。あなたは、あの高校を、卒業したのですね。
 
あなたには、今度こそもう二度と、会えないのかもしれません。
 
どうか、あなたが、幸せでいますように。
 
どうか、あなたが、いつも笑顔でいられますように。
 
またいつの日か、あなたがこの道を通る姿を、見られますように。
願いながら、私は毎年、このお庭で咲いていますよ。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-06-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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