メディアグランプリ

わらべうたは点滴かもしれない


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:Junko.M(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
まだ2,3か月くらいの子も、生後半年くらいの子もいる。
お母さんの膝の上で、こちらを見ているような、見ていないような感じの顔つきだ。
雨の日の小さな集まりで、赤ちゃんに囲まれているのが少しくすぐったい。
 
「わらべうた、お願いね」と言われたのが一週間前。
前にやったのはいつだったかな、15年くらい前? 大丈夫かな、と思わず遠い目をすると「雨の季節だし、それっぽいものがいいな」と追加のリクエストが入る。
基本的なものしか覚えていないので、後でグーグル先生に相談しようと、打合せを先に進めた。
 
集まりは「おはなし会」というもので、赤ちゃん対象の場合、絵本を読み聞かせるというより、お母さんと一緒に絵本やわらべうたで楽しくコミュニケーションを取ることを重視している。
 
「わらべうた」というのは、身体を使う「かごめかごめ」「はないちもんめ」をはじめ、2人で指を使う「ずいずいずっころばし」などがメジャーどころの、昔から歌い継がれる何らかの遊びが入るものと言えるだろう。
でも今回は、座っている赤ちゃんとおかあさんが一緒に楽しめる手遊びから選ぶことになる。
 
グーグルで“わらべうた”“雨”と検索すると、いくつか動画があがってきた。
その中で、初めてでもやり易そうな「ぽっつんぽつぽつあめがふる」という手遊びがいいかなと、このタイトルの動画だけを何種類か見てみる。
 
わらべうたは楽譜が有るようで無いようなものも多く、手の動きと音程が直に確認できる動画はとてもありがたい。
そう思いつつ見始めた1本目、2本目あたりまでは良かったのだが、その後は戸惑いがどんどん広がっていくハメになってしまった。バリエーションが多いのだ。
 
「楽譜が有るようで無いような」ものなので、個人や地方によるアレンジが派生しやすいのだろう。
迷って「わらべうたやってね」と言った人に相談すると「あー、ぽっつんぽつぽつね、こうよ♪」と歌いだしたのが、さらに違う現代風のメロディで、思いっきり笑ってしまった。
元幼稚園の先生ならではのアレンジだったのかもしれない。
おかげで吹っ切れて、一番最初に見た動画を師匠とすることに決めた。
 
そんな時、新聞で半藤一利さんのエッセイを目にした。
流し読みしていたのだが、森鷗外が五月雨の夜の情景を「傘を打つ点滴も聞こえず」という表現をしたという部分で、つい引っかかってしまった。
点滴といえば栄養分の補給や輸血のための点滴注射のこと。なのに、雨だれのポツンポツンというしたたりに使えるのかいな、と訝しく思った、というところだ。
氏は、お調べになって、明治後期の文学者は「点滴」を、さかんに雨だれや雨のしたたりに使っていて、漱石も荷風もとびっくりされていた。
雨だれのほうが点滴の元の意味で、注射のほうが後からできた意味になるという。
 
雨だれが「点滴」なら、「ぽっつんぽつぽつ」降る雨は、まさしく点滴だ。
字面をよく見ると、点のように滴るということなのだから。
でもやっぱり、当たり前だが、わらべうたに漢語は似合わないなあとあらためて思う。
 
おはなし会は、無事に終えることができた。
雨を題材にした絵本と絵本の間に手遊びを入れると、まだおしゃべりできない赤ちゃんもニコニコしたり、少し声をあげたりしてくれた。
それに何より、お母さん方がひざの上の赤ちゃんの手のひらやおでこに雨をふらせて、一緒に楽しんでくれているのが伝わってきた。
 
赤ちゃんとずっと一緒にいるお母さんは、なかなか息をつくことができない時がある。
私も、夫の帰りが遅くてほとんど母子家庭状態だったので「もし私が一瞬でも気を失ったら、この子はどうなるんだろう」と不安になったりしたことを覚えている。
普段は日常に追われて、疑問を持たずに赤ちゃんと過ごしているのだが、ふと我に返る時に、こういう不安に襲われたりしたものだ。
ほんの一時期のことではあるのだけれど。
 
わらべうたって古い、おばあちゃんが歌いそう、と思う方も多いと思う。
私も、全力でおすすめするというというつもりではないが、こんな簡単にコミュニケーションが取れる方法があるんだよというスタンスでいる。
 
メロディはとり易いし、間違えたって大したことないし、何より赤ちゃんが喜ぶ何かがあるらしい。
ひととき、お母さんも大らかに楽しんでほしいと思っている。
点滴ほどの即効性はないかもしれないが、わらべうたがビタミン剤くらいになれるといいなという気持ちも込めて。
 
どうやら、私にとっても、お母さんと赤ちゃんから元気をもらえるちょっとした点滴になりそうだ。
 
 
 
 
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2019-06-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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