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メディアグランプリ

「オレ」さんは端っこにいてもらえますか?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:村尾悦郎(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「村尾くんって、絵が上手なんだね」
 
中学生の時、美術の授業中にふと、先生に言われた。もう少し詳しく言うと、先生は“意外そうに”上手だねと言った。僕も意外だった。それまでも好きでラクガキはしていたが、自分が絵が上手かどうかなんて、あまり考えたこともなかった。「オレ」さんが生まれたのは、その瞬間だった。
 
子供の頃から、僕は「持たざる者」だった。家庭が荒んでいたり、お金がないわけではない。親兄弟とも楽しく暮らして、年に一回ぐらいは家族みんなで旅行に出かける。なんの不満もなく、とても幸せな環境に育ったと思う。でも、かけっこはいつもビリで、勉強も大してできるわけではない。背は低いし、太っていて、佐藤健みたいな顔じゃない……つまり子供の目線で「持たざる者」だったのだ。
 
思春期に入って、このコンプレックスは日増しに大きくなった。スポーツができる奴は好成績をあげて注目を浴び、勉強ができる奴はテストの度にみんなから一目置かれる。かっこいい男の子はかわいい女の子と楽しそうに下校する……すべてがうらやましくて、妬ましかった。
 
みんな、なにかしらの一芸を持っているように思えて、「僕にも他人に自慢できる“何か”がなくてはいけない」と焦った。
 
「君は何ができるんだい?」
 
誰もそんなことを聞きはしないのに、いつも僕はこの質問に苛まれていた。焦って、焦って、焦って、なにかしがみつくものを探していた。心の中では、「自分が何者なのか」定まらず、所在なさげにいつもソワソワしていた。
 
そんな時に、「君は絵が上手なんだね」と言われたのだ。他人にそう言ってもらえたことは、僕が焦って探していた“何か”を埋めるのにピッタリだった。
 
「そうか……オレって、絵がうまいんだ」
 
―その瞬間、僕の心に「オレ」さんが生まれた。「オレ」さんはつまり、僕の中で疑似的に人格を持った「自尊心」だった。
 
僕が他人に自慢できる個性は、「絵を描く」こと。
 
「かけっこはできない、勉強はできない、背は低い、顔はブサイク……でも、オレは絵が描ける!」
 
これが自分だと決めた。そうすると、「オレ」さんは僕の心の中心に深く腰を下ろし、こう言った。
 
「もう『自分は何者か』なんて考えなくていいぞ。安心しろ。お前は絵が描けるすごい奴だ!」
 
僕は歓喜した。もう「何もない自分」でいなくていい、“何か”を探して焦らなくていい。「オレ」さんがいるから大丈夫だ、と。
 
それからというもの、僕は何を決めるときも、心の中心にいる「オレ」さんにお伺いを立てた。
 
「『オレ』さん、この絵、どう描いたらいいかな?」
 
「大丈夫だ! お前はすごい! 自分の好きなようにしたらいい!」
 
「でも、あんまりみんなにウケなさそうだよ?」
 
「他人の目なんか気にしなくていい! お前はすごい! お前の良さが分からない方がダメなんだ!」
 
……こうして、僕は順調に自分をこじらせていった。もともとコンプレックスの裏返しのように生まれた自尊心だ。自分を高めるためではなく、自分を守るためにしか「オレ」さんは機能しなかった。その感覚は肥大に肥大を重ね、ついには「絵を描く自分」という枠を飛び越え、根拠のない「オレは特別なんだ!」という意識に育っていった。
 
そんな調子なので、僕は何に対しても「オレは特別だから」と努力を怠り、評価を受けなかった。就職しても「オレがオレが!」という仕事ぶりと話しぶり。周囲には「アクが強いね」と苦笑されるばかりだった。
 
その頃には、いい加減気づいていた。「オレ」さんが自分の足を引っ張っている。「オレ」さんは「邪魔なプライド」でしかなかった。
 
そんなある日、職場で緊急の仕事を頼まれた。
 
「ごめん、悦郎くん! 今日中に出さないといけない取引先への企画書をお願いしていた奴が急病でさ、まとめてくれないかな?」
 
当然、「オレ」さんは心の真ん中で喚き散らした
 
「ええ? 他人の企画で、しかも尻ぬぐいじゃん! 『特別なオレ』がなんでこんなことしなきゃならないんだよ!」
 
しかし、もう時間がない。仕事をお願いしてきた上司も本当に困っている……僕はついに、心の中で「オレ」さんに言った。
 
「ごめん、ちょっとうるさいから、『オレ』さんは端っこにいてもらえますか?」
 
驚いた顔で「オレ」さんは口をパクパクさせている。かまわない。僕はズリズリと、「オレ」さんを心の隅に追いやった。
 
すぐに仕事に取り掛かった。急病になった同僚のメモ書きと資料を突き合わせ、企画の概要を把握する。次に取引先のことを調べ、提示すべきメリットを中心に企画書の形に目算をつけ、残り時間とすり合わせながら作りはじめる。……リミットにはなんとか間に合った、最後に、「絵を入れて、企画の具体的なイメージを持ってもらおう」とイラストも描いて添えた。心の隅で「オレ」さんは拗ねていたが、気にする余裕もないので放っておいた。
 
「おお~いいじゃん! ホントありがとうね! 悦郎くんのいいところが出てるよ」
 
修正も特になく、上司は僕の作った企画書をそのまま受け取ってくれた。僕は胸がいっぱいになった。邪魔なプライドをどけて、「相手に何をすれば喜んでもらえるか」のみ。ただひたすらそのことだけを考えることで、はじめて自分を評価してもらえた。その時、僕は「仕事」とはどういうものか、そして、ずっと探していた自分を埋める“何か”を掴んだように思えた。
 
「オレは特別なんだ!」
 
それ以降でも、こう叫ぶ「オレ」さんはいまだに心の中にいる。でも今は、いつも端っこの方に座ってもらっている。
 
 
 
 
***
 
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2019-07-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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