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メディアグランプリ

「自分にはできないって思ってる……?」苦手意識を持った子に、先生が言わない言葉とは。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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香月祐美(ライティングゼミ・平日コース)
 
 
「なーんだ、もう答え出せるじゃん」
私の目の前には、算数ノートを広げて座っている塾生の小学生。
 
彼女は、私の言葉に
「えーっ。先生、ほんとに?」
と言いたげな表情で私を見つめていた。
 
「だって、今、言ってくれた途中の考え方、全部あってたよ。教えることが何もないもん」
という私の言葉を聞いて、彼女はノートに目を向けた。
 
ノートには、三角定規が二枚重なっている図が描かれている。図で問題になっている角度を見つめる。
でもすぐに、
「えー?」
困った顔で苦笑いしながら、顔を上げ、再び助てと言わんばかりに私を見た。
 
「できるよ。自分の力で最後までできる」
不安そうな顔の彼女の背中を「大丈夫だから」と優しく押すように。
問題を解くために、彼女が図に書き込んだ角度に赤で丸をつけながら、私は言った。
 
彼女の目の前には、図形の角度を求める問題が広げられている。
「この角度は60度で、こっちは45度で……」
と私に説明してくれた角度は、全て問題なかった。
 
あとは、図の中に隠れている三角形を見つけることができれば解けるのだが、惜しくも見えていない様子だった。
 
「できるよ。本当だよ」
という声を残して、私は他の子の様子をのぞきに席を立つ。
 
他の子の様子を見て回っていると、背後から
「あーっ! 分かったー!」
と嬉しそうな声が聞こえてきた。
 
戻ると、さっきとはうってかわって自信満々な顔の彼女が、私の机にノートを広げて待っていた。
「ここの三角形に気付いたら、解けた」
 
「うんうん、よく頑張ったね」
と言いながら、答えに大きく赤丸をつける。ノートを返しながら、ふと気になったことを聞いてみた。
 
「算数苦手だって言ってたよね。心のどこかで、自分にはできないって思ってる?」
 
「……うん」
 
「そっかぁ。難しい問題もあるけど、これまで未解決問題なんてなかったでしょ?」
彼女の顔をのぞき込むように言う。
 
「最後は自分で全部解けているんだよ。今だって、そうでしょう?」
実際、「分からない」と質問しにきた彼女に対して、私は「できる」としか答えていない。
 
「うん、そうだよね」
彼女は恥ずかしそうにうつむきながら言った。
 
苦手だ。できない。
そういう後ろ向きな気持ちは、実はやっかいだ。一度苦手だという気持ちが芽生えると、その後もずっと苦手だと思い続けてしまう。
自分で自分に「できない」と暗示をかけ続けながら取り組んでいるのだ。勉強にも影響してしまう。
 
勉強だけでなく、何をするにしても気持ちの持ち様は大切だ。
 
オリンピック選手が、「自分にはできない」「失敗するかもしれない」と思いながらオリンピックで競技をしたらどうだろうか。
良い記録が出るだろうか。
満足いく競技ができるのだろうか。
 
「自分はできる」と思いながら競技をする選手には、きっと敵わない。
 
勉強も同じだ。
たかが気持ち、されど気持ちだ。
 
算数できないと思いながら問題を解いて、うまくいかないと
「ああ、やっぱり自分には出来ないんだ」
思ってしまう。
そうして、どんどん負のスパイラルにハマってしまう。
 
子ども自身が「できない」と思っているだけでなく、親も「苦手だよね」と子どもに言っている場合がある。
親子で一緒になって「できない」暗示をかけているのだ。
 
この場合は、かなりやっかいだ。
なぜなら、子どもにとって親は身近な存在であり、影響力がとても強いからだ。
そんな人の言葉だから、子どもに簡単に刺さってしまう。
 
親同様、先生の影響力も子どもには大きい。
だから私は、
 
何度間違えようとも、
他の人に比べて習得が遅いと感じたとしても、
 
子どもに
「君は算数ができないよね」
とは絶対に言わない。
「できない」という暗示をかけ続けて伸びるはずがないと思っている。
 
今、できないなら、できる様になればいいだけ。
どうしたら次はできる様になるか、考えて行動すればいいのだ。
 
そのために、問題を解く際に考えたことを、できるだけ本人から説明してもらう。
苦手意識があっても、全部ができないわけではないことが多い。
修正が必要な部分だけ修正すれば、できるようになる。
 
説明を聞いている途中で、考えが間違っているなと思っても、
「できていない」とは言わない。
「間違ってる」という言葉も使わない。
途中で話を遮ることもしない。
 
そうやって接しているうちに、少しずつ変化が見られる様になった。
分からない問題があったら、
「ここまでこうやって考えたんですけど……」
と言いながら、自分から考えたことを説明しはじめるようになった。
 
ある日の夕方。
返信が必要なメールを打ち終え、ノートパソコンを閉じようと、カバーに手をかけた。
すると、指先が紙に触れた感触があり、不思議に思いながらカバーのおもてを見る。そこには、大きな付箋が張り付いていた。
はがしながら、書かれている文字を読む。
 
「夏期講習、算数の問題いっぱい出してください」
 
彼女の姿勢は、自分で苦手だと思っていることに、自ら挑戦しようとする前向きな姿勢へと変わっていた。
 
 
 
 
***
 
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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