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メディアグランプリ

名前のつかない関係


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:村山優(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私には、名前のつけられない関係の女の子がいる。
 
 
もう10年目の付き合いである。中学高校と部活が一緒。知り合ってから今まで付き合いのある人ランキングでは10位に入るそこそこ年季が入った関係。
 
でも、友人なんていうにはドロドロしすぎている。
 
私たちは親友ではない。
恋愛相談をよくする。いつか揃って不毛な関係を続けていたときは、「ふたりとも幸せになろうね」といってそれぞれ関係を終わらせた。彼女は「ゆうさんは自信なさすぎてイライラする」とはっきり言ってくれる。
でも、そのくせしてSNSでは話さない。目を背け合っている。
 
私たちは仲間ではない。
たしかに中学も高校も、部活が一緒だった。定期演奏会を作り上げた。
でも、6年経った今、共有する目的はない。かと言って、他の部活の同期のように友人だとか戦友というような関係にもなりきれていない。
 
私たちはライバルではない。
たしかに何かを競い合っている。いつも意識してしまう。
でも、何を……?
 
この名前がつかないつながりに、私は脆さを覚えたり、少々不安になったりしていた。
 
 
先日、先輩1人と同期3人、後輩1人でご飯を食べに行った。
 
近況報告後、当時のことを懐かしみながら思い出す。
 
「お二人よく喧嘩してましたよね」
私と向かいの彼女を見ながら後輩が言い出す。
「そうだねぇ」
 
私たちは傍から見たら親友なんだと思う。当時は、誰よりも一緒にいた。少なくとも高校3年生の4月から6月、家族以上に一緒にいた。部室にこもり、たまの休みも二人でカラオケに行ったりしていた。
それでいて、私たちは仲が悪かった。
 
ふたりとも定期演奏会の企画係のリーダーに立候補していた。
一つ上の先輩は、
「次の定期演奏会を作るのはあなた達の代だから」
と言って、係長を指名していなかった。
もう1人の企画係に選ばせるのは酷だ。でも、同期に多数決を取らせるのもなんか違う(今考えるとこれが一番平和だったのかもしれない)。
経緯は覚えていない……きっと2人とも記憶から葬ったのだけれども、結局周りに助けを求めることもせず、私が何かしらの形で折れて彼女が係長になった。
それが問題なわけではないけれど、このことを始めとして、私たちはどことなく競いあっていた。
もちろん私の苦手なこと、例えばイラストを書くようなことは彼女がやったし、どちらかというと私のほうがマシだったアレンジ作業は私がやった。
でも、ほとんどの部分はふたりとも譲れなかった。
一緒に作っているのに、険悪だった。お互いに気に入らない。正解もないことが多いから論理的に決めることもできないし、ふたりとも意地になっていた。
もう1人のふんわりとした雰囲気の企画係(男子)は、企画を考える側というよりはもはや2人の緩衝材としての役割を担っていた。
「君がいなかったら崩壊していたよね」
横の彼を見ながら彼女は言った。
これは当時からの私たちの口癖。
 
 
これが高校で終わっていたら、「お互い良いものを作りたくて必死になっていたんだよね」という話で済む。
ところが、大学生になって離れても、ただの親友とか友達という感じにならなかった。
彼女はアカペラサークルに入り歌うことを続けて、私はウインドサーフィンという体育会系の部活を始めた。環境も重ならない。
なのに、張り合っている。他の人だったら気にならないのに、彼女だと気になってしまう。ツイートをすべて見てしまう。彼女は彼女で、私のツイートをミュートしている。
 
「2人の関係ってなんなの?」
先輩が言う。
「うーん、仲が悪いわけじゃないけど仲が良くもないんですよ」
「なんなんだろうね」
 
 
ファミレスを出て、
「このあとどうしますか?」
「私は駅で親と待ち合わせてるから」
「俺は近いので歩いて帰ります」
なんて話ながら、うまく別れられない。
彼女に目配せをする。
「私たちはちょっと、まだ話すことがあって……」
「来年、2人で住むかもしれなくて」
 
彼女から、東京でシェアルームをしないかと誘われていた。今日は、その話をする予定だったのだ。不器用なふたりは、同期から2年遅れて同時に社会人になることになっていた。
 
「え、さっきの話聞いてたら一緒に住むなんて心配なんだけど!」
「俺も心配っす」
 
「たしかに絶対喧嘩はしそうだよね」
私も苦笑いしながら答える。
 
数々の喧嘩を思い出す。
牽制しあうLINE。
扇風機のない部室の中で、淀む空気と会話。
 
彼女がふと言った。
「なんていうか……魂の方向が一緒な人なのかもしれないです。
同じ方向だから、ちょっとしたことでも気になるというか」
 
名前が付いた。
思わずニヤけた。
 
私たちは似ているわけではない。好きなものも恋愛観も違う。
ただ、同じ方向を向いている。幸せになろうとするもがき方が、もがくという道筋そのものが一緒なのだ。
 
だからこそ、その道の傍らにあるものが、彼女の持ち物が、気になってしまう。
「それでいいの?」
しかり、
「私もそれが欲しかったのに」
しかり。
 
みんなと別れて、カフェに行く。
ふたりでシーズンのフラペチーノを頼む。
彼女はホイップ増量。
それを見てちょっと不安になりながら、
「生クリーム……もらってくれる?」
と聞く。
「ちょっと期待してた」
彼女は笑う。
 
どれぐらい綺麗にしたいとか、家事の分担とか、帰りの連絡とか……ふたりで本当に一緒に住めるのか、検証していった。なんとなしに心配だったのだ。よく喧嘩してしまうから。
でも、いろいろ考えてみて、2人にそんなに齟齬はなかった。
 
私は彼女の文章に、そこから読み取れる愛される彼女に、嫉妬する。彼女はよく、「でも、ゆうさんは努力できる人だから」「私は勉強で落ちこぼれたから」と言う。
きっと、彼女が隣にいることは私を焦らせる。
きっと、いや絶対、喧嘩もするんだろう。
 
でも、きっとふたりで暮らすちょっとの間は、もっとがんばれる。目の片隅に映る彼女が私を励ますから。
文字通りの意味でも、せきたてられるという意味でも。
 
そして、いつか……そのときはもうふたりともすっかり丸くなっているのかそれともまだ気にしあっているのかわからないけど……、いつか、彼女と一緒に仕事をするのが私の夢だ。
 
 
 
 
***
 
 
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2019-07-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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