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メディアグランプリ

ショップ店員に「買わないこと」を勧められて


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:川村彩乃(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「お客様はこちらを買うの、やめた方がいいと思います」
 
店員さんに、あなたは買わない方がいいです、と言われた。
生まれて初めての経験だった。
 
私は洋服が好きだ。
新卒で入った会社で営業をしていたとき、稼げば稼ぐほどお給料が増えた。
当時は、ボーナスが出るたびに
ブランドの服を手に入れるのが自分へのご褒美だった。
 
買い物は好きだが、ショップ店員さんが苦手だ。
こっちは、10年以上着続けるような洋服を買うために血眼になって探している。
そんな時に、
「こちらスタッフの中でも、非常に人気でして~」
とか
「こちらの商品、ラスト1点なんですよ~」
とか言って、ぬるっと話しかけられる。
 
話しかけられた途端、
「いえ、結構です」
と丁重にお断りをする。
 
口では丁寧に言ってますが。
心の中では、
ぬああんだってええええええええ!!!!
今来るんじゃねええよおおおおおおお
ってめっちゃ叫んでますから。
思いっきり、ガン飛ばしてますから。心の中では。
 
どの服を買うか、を考えるのにとりわけ時間がかかる。
どんなイメージのものが欲しいのか、
絵を描いたり、雑誌やインスタの画像を漁りまくる。
イメージができたら、実際にお店を回る。
実物で見てみると、お粗末なつくりだったりすることもあるので
ちゃんと買う前にものは見ておく。
そして、試着。
実際に着てみないと、本当の形はわからない。
長い長い時間をかけて、
ようやく探し抜いた1着と出会えるのだった。
 
カードでボーナス払い。
10数万円!
さすがに10万円を超えると、買った後で少し後悔もあったけど、
10年着てしまえば、1年あたりでだいたい1万円。
流行を追って
駅ビルのセレクトショップで毎シーズン新しい服を買って、
飽きてタンスの肥やしになるか、メルカリですぐ手放してしまう未来を考えたら
本当に良いと思ったものを、長く大切にしていたい。
 
実際に着ている服に、8年物のワンピースがある。
10代の時、身の丈に合わない高い買い物をしたと思った。
でも、アラサーになった今でも着ているし、これからも長く着ていたい。
 
そう。服を持つことに対して、ガチなのだ。
真剣に考えている時に
「お似合いですね〜」
とお世辞かどうかも分からないような言葉をかけられると
気持ちも冷めてしまうし、お店から出たくなってしまう。
かつて、その言葉を鵜呑みにして、何度買い物に失敗をしたことか。
 
もちろん、店員さんと話をしないわけではない。
サイズがあるかどうか、など用があればこちらから話かける。
 
過去の失敗が積み重なって、
この人は私がこの服を買えば良いと思っているんじゃないだろうか、
商品が売れることしか考えてないんじゃないか、
と勘ぐってしまうのだった。
 
ある時、服さがしをしていて美術作品のようなお洋服に出会った。
 
チュールをふんだんに使ったドレス。
新進気鋭のデザイナーによるもので、
海外のファッション雑誌にひっぱりだこのブランドだ。
形は、昔話に出てくるヨーロッパの田舎のおばあさんが着ていそうな、
大胆なAラインのシルエット。
 
でも、さすがはブランド品。
試着すると、不思議なことにファンタジー感が無くなり、
ストンと落ち着いた印象に見える。
 
そして、このドレスは肌触りが良いのが素晴らしかった。
質の良いチュールを使っているので、チクチクせず柔らかい。
 
使われている生地の量が多いので
ドレスを着ているというより、
まるでチュールの生地に包まれているような感覚。
その着心地もまた、とても面白かった。
 
その作品が今、目の前にある。
「これは、買わないといけないんじゃないかな」
と心の中の誘惑の声が聞こえてきた。
 
「いやいやいや。スケスケの素材なのに12万円もするし、
第一、こんな服着て仕事なんてしたら、ビリビリに裂けちゃうでしょ」
心の中の、理性が止めようとする。
 
チュールは繊細な素材。
会社で走って、机の角に引っかかったりでもしたら・・・。
 
服を鏡に当てながら、自問自答する。
それを見かねてか、ずっと見守ってくれた店員さんが
こう切り出した。
 
「そんなに迷うなら、やめた方がいいんじゃないですか?」
 
「はい?」
 
思わず聞き返してしまった。
 
無理してでも買わせるように、とゴマをするのがショップ店員さんではないか。
 
でも、確かにこの人は今、
買わない方がいい、と言ったのだ。
 
「決してお手頃な価格のものではないですし、
着ている場面が想像しづらいのなら
無理して買わない方がいいかもしれませんよ」
 
よくよく考えてみれば、
その服はスタイリストのような業界人なら、
知る人ぞ知るブランドのものだった。
日本に出回る数もまだ少ない。
私が買わなくても、他に買いたい人は山ほどいる、
という算段があったのかもしれない。
 
でも、例え本心がそうだったとしても、
その人が率直な意見をしてくれたことが嬉しかった。
本当にその通りだった。
自分が着ている場面がまったく想像できなかった。
まっすぐな意見を言ってくれた。
 
その店員さんはお店の商品が売れることでなくて、
その商品がどうなって行くのか、未来のことまで考えていたんだと思う。
 
私がこのまま衝動買いをして、お粗末な着方をするよりも、
本当にその服を大切に着てあげられる人の元に届いていた方が
この服にとっても、この服を作った人にとっても、
幸せなことなんじゃないだろうか。
 
「そうですよね、やっぱりやめます」
 
きっぱり断れた。
 
「ありがとうございました」
 
いやいや、こちらの方がありがとうだよ。
 
買わない方が良い、と言われて
結局何も買わないで店を出てしまったけれど、
まるで良い買い物をしたような、とても清々しい気分だった。
 
このお店だったら、また行きたいな。
あの店員さんだったら、また会いたいな。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-07-25 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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