メディアグランプリ

旅の途中。


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記事:松尾美紀(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「交通事故に遭ってから、覚えられないことが多くて……」
と初診でいらした患者さんからの言葉を聞き
(高次脳機能障害だ)
と即、判断した。
今まで、歯科医院の受付業務をしていて、患者さんから、このような言葉を聞いたのは初めてであるが、高次脳機能障害となった弟の仕事と生活のサポートをしていることで、身近な障害のひとつとなった。
 
『見えない障害』と称されるように、見た目は普通であることが多い。
 
この患者さんは、短期記憶が抜けることが多いようだ。
初診日にお渡しした診察券は行方不明となった。
毎回、ご家族宛に治療の詳細と、次回の診察予約日を記したお手紙を添えるようにしているので、診察券が行方不明となっても、予約の日には、おひとりで歩いていらっしゃる。
「枕元にコレ(お手紙)とコレ(保険証が入った袋)を息子が置いてくれているから、それを持ってくるんだ」
と2度目の来院時におっしゃっていた。
ここまでになられるのに、どれだけの月日を要したのであろうか?
ご家族の思いを想像する。
 
実は弟のリハビリに、行き詰まりを感じている。
 
きっかけはスタッフと弟のちょっとしたイザコザだった。
弟の仕事としている作業に間違いがあり、それをスタッフが指摘したら
「こんなの本来のオレの仕事じゃないのに!」
と怒りを抑えられなかった弟。
「それならやってもらわなくてもいいです」
とスタッフ。
弟に非があるのは明らかなのに、謝ろうとはせず、ふたりの間には大きな溝ができた。
 
ここまで頑張って、皆でなんとかやってきたのに……。
そんな悔しい思いを抱えながら、日々を送っていた。
今回のことを週一のリハビリでお世話になっている言語聴覚士さんに相談したところ
「脳神経外科の先生から、高次脳機能障害であることを踏まえて、どうリハビリしていくべきか、どう生活していくべきか、本当に歯科医師としての復活はあり得るのかなど、話をしてもらうのはどうだろうか?」
とのご意見をいただいた。
 
プライドが高い弟には、そのプライドより上の人の意見が効くのではとの見立てである。
 
(ワタシは基本、木曜しか動けんのだが……)
と思いつつ、半年に一度、定期検診をしていただいている脳神経外科へ電話を入れると、案の定
「木曜では確約しかねる」
とのお返事。
「緊急オペが入れば、診療予約してあっても、それはチャラになってしまいますよ。先生が診療を担当している金曜じゃないとね」
と……。
 
ふとカレンダーを見ると、お盆休みがある。
ならば金曜日に行ける日が一日だけある。
「この日じゃダメですか?」
とお聞きすると
「お盆ね〜。みなさんお盆狙っていらっしゃるのよね〜。待ってもらわないとになりますが、あと話が長引くと思うので最後の時間に取りましょう」
でなんとか予約できたが、実はワンコの通院予約もその日に入ることになりそうで、非常に悩ましい。
さてどう乗り切る?!
ワンコは主人に任せるか?
それとも弟を主人に任せるか?
主人の考え方はワタシよりはるかにフラットなので、弟のことを主人に任せたいのだが、主人がどう考えるであろうか?
 
とりあえず道すじはつけた。
あとはこの機会をどう利用するかである。
 
弟とスタッフの溝は、ベテランスタッフの配慮があり、謝ることまではいったが、未だにシコリは残っているように見受けられる。
 
なにせ弟は、その後も自分の与えられた仕事をちゃんと出来ておらずなのだから、そうなるのも必然である。
 
高次脳機能障害となった弟と向き合って、2年が経った。
それまで全く知らない障害だった。
しかし、彼がそうなったことで、世の中を、人を見つめる目が少しだけ変わった。
障害を持つ人たちの存在が身近でないと、人は障害を持つ人について意識しないのではないのだろうか?
何が出来て、何を求め、何に困っているのか。
それを察するためには、やはり距離的にも心理的にも近くにいるべきなのだろう。
健常者以上に気を使いなさいということではない。
健常者であっても、得手不得手はあるのだから、それと同じことだと考えてサポートできれば良いのでは……。
 
身内にはなかなか、そこまで出来ないのが、本当のところだけれど、弟のリハビリに行き詰まりを感じたときに、主人からは
「黙って見続けなさい」
との助言をもらった。
彼がどう考えて行動しているのかを、黙ってみつめて探っていけば、リハビリの方向性が少し見えてくるのではというのが、主人の考え方である。
 
この1週間、なるべく黙って見てきたつもりだが、まだまだ見えていないところは多くあるし、未熟なので黙って見ることに徹することは出来なかった。
だが、少しだけ糸口が見えた感もある。
これについては継続して、見ていくこととなるだろう。
 
多方面からの援護射撃を受けて、我々はすすむ。
 
我々はどこへいくのだろうか。
どこを目指しているのだろうか。
そして、いつゴールできるのであろうか。
旅はまだまだ続く。
 
 
 
 
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2019-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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