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メディアグランプリ

人生は、フルマラソンのように


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記事:後藤愛美(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「お父さん、転職して東京の会社で働くらしいで」
 
妹から送られてきたLINEメッセージを見たとき、声が出ないほど驚いた。
 
私の父親は今年で定年。昔から大阪に住み、新卒からずっと、神戸にある会社で働いてきた。この歳でずっと住んできた大阪を離れて、東京に転職とは!! しかも、詳しく聞くと東京は最初の3ヶ月だけで、その後は北九州での勤務だという。もはや理解不能。そんな衝撃的なメッセージを受け取る中で思い出されたのは、今年のお正月にカンボジアで働く私の元を家族が訪ねて来てくれた時のことだった。
 
約1年ぶり、久しぶりに会った家族。蒸し暑い夜、扇風機の回るカンボジア料理屋で、キンキンに冷えたビールを飲みながら、父に、「最近どうなん?」と何気なく話題を振った。
 
「お父さんも実は今年で定年やけど、これからどうしよかなぁと。この歳やと部長という肩書きも降ろされて、ろくに仕事もないし、毎日おもんなくて、会社にいてもつらいわ。だからって転職するほどの専門性もないから行くとこもないし、会社辞めてもやりたいことがあるわけでもない。もうなんか、どうしよかなぁ」
 
「ザ・日本の強いお父さん」というイメージの父が、娘である私たちの前で弱さを見せる、なんてことは、私の記憶の中ではこれまで一度もなかった。そんな父が、今、目の前で弱音を吐いている。
 
しかも、その後母親から聞かされたのは、父親が数ヶ月前に突発性難聴で倒れ、これまで何度か救急車で病院に運ばれていたということ。突発性難聴というのはずっと耳鳴りが続き、吐き気とめまいが頻繁に起き、ひどい場合は立っていられずに倒れてしまうそうだ。明確な原因はなく、基本的にはストレスによって引き起こされる。母は続けた。
 
「お父さん、会社のことでいろいろ大変そうやったからなぁ。それが相当ストレスやったんやと思うねん。あんたには心配かけるからと思って言わんかったけど、今回のカンボジア旅行も一緒に行かれへんのちゃうかって、実は話しとってんで。でもなんとか、ここまでこれてほんまによかったわ〜」
 
突然のことに、なんて言葉をかけたら良いのかわからず、目の前で笑いながらも元気なさそうにビールを飲む父の姿を見て、なんだか胸が苦しくなった。
 
私は新卒で日本のコンサル企業に勤めた後、NGOに転職。昨年日本での勤務を辞め、カンボジアのNGOに転職。こちらにきて、約10ヶ月になる。あまり知り合いもおらず、一人で過ごす時間も多い中で、自分は本当に何がやりたいのか?今後どうしていきたいのか? という問いをこれでもかというほど突きつけられ、正直毎日辛い。でもそれは、30歳の醍醐味。これまでの経験も踏まえて、きっと35歳くらいまでには、なんとなくやりたいことも定まって、面白い仕事にも出会えて、いろいろ楽になるはず。今は苦しみどころかな。そんな風に思っていた私にとって、60歳でも仕事で、人生で、悩み続けている父の姿は衝撃的だった。
 
妹から、父の転職についてのLINEメッセージを受け取ったのは、家族がカンボジアに来た数ヶ月後のこと。病気のこともあるのに、実家から離れて東京で働くなんて、本当に大丈夫だろうか? 父の体調を心配して、そんな風にも思った。
 
でも、ふとカンボジアでの父の悲しそうな顔を思いだし、もしかしたらこっちの方が父にとっては良いのかなぁと、思いなおした。どこにも行けないかも、という話をしていたのに、転職先は技術職での入社、これまでと同じ待遇だという。そんな形で受け入れてくれる場所があってよかったなぁ。何より、60歳という歳で、今のままの環境で続けるのは嫌だと、新しい会社、新しい場所での生活にチャレンジするなんて、すごい決断。それを決めるにあたっても、葛藤や、苦しみ、辛さがあって、簡単に決められたわけではないけれど、でこぼこの道を苦しみながらも歩き続けて、今回前に進むこと決めた父は、とてもかっこいいなと思った。
 
そして昨日。父が今の会社での最終出勤日を終えたと、家族のグループLINEで母から連絡があった。LINEを通じて「お父さんお疲れさま。結局今の会社で何年働いたん?」 と聞くと、「最後の週も3回送別会。これも35年間働いたおかげです」と返事が返ってきた。社会人7年目で、すでに転職を2回している私が、最も長くいた会社でも、4年。もはや約9倍。そんなに長くいた会社に出勤する最後の日、というのはどんな気持ちなんだろうと思うと、なんだか私まで泣きそうになった。
 
今回の父の姿を見ていて一番感じたのは、何歳になっても、人生悩み続けるもんなんだなぁということ。人生はフルマラソンのよう、と言ったりするけど、まさにそうだと思った。今の私の苦しみは60歳まで続くのか……と恐ろしくなる一方で、変にすぐこの苦しみから抜け出さなくてもいいんだな、という風にも思うと、心が楽になった。
 
人間、生きているといろんなことがある。嬉しいことだけではなくて、辛いことや、苦しいこともたくさんある。でもその苦しさの中で、悩みながらも、葛藤しながらも、前に進んで行くことで、人生は豊かになっていく。というか、その悩んでいたプロセス自体が豊かだなぁと思う。そして、そのプロセスは生きている限り、35歳になっても、60歳になっても、きっとずっと続いていくものなんだと思う。そんなことを思わせてくれた父に感謝だし、何より35年間、本当におつかれさまでした、と心から伝えたい。そして私も、自分の人生の旅を、フルマラソンのように、父のように全力で、これからも楽しんでいきたいと思う。
 
 
 
 
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2019-08-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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