メディアグランプリ

プロの料理人が教えてくれた、料理でいちばん大事なもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:富田洋平(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
 
 
「なんで僕は、料理ができないのだ!」
 
 
どうしても料理が作れるようになりたい。そう思って、料理の練習をした。
クックドゥで料理をしてみたが、タレをかけただけで料理をした気がしない。
クックパッドでレシピをみて、それっぽい料理ができても、おいしいと思えないし見た目もいまいちだった。何かが違った。
 
 
料理ができる人のことが不思議で仕方がなかった。
2時間かけてやっと1品の僕には、キューピーの3分クッキングが、なぜ3分でできるのか理解できなかった。
(後から知ったが、そもそも3分で作っていなかった)
レシピを見て、「なんとなく」で料理が作れる妻を見て、うらやましかった。
例えば、塩少々と書かれているのを見て、料理番組のようにひとつまみすることもなく、なんとなく塩を入れて味がしっかりしているのだ。
塩少々ではなく、mg単位で書いてくれれば、mgが測れる計量器を買ってくるのに……。
 
 
通常ならば、料理の才能がない、とあきらめるのだろうけれど、料理ができないことが悔しくて、むしろ料理熱に火がついていた。燃えていた。
 
 
「自分でなんとかするのは無理だ。誰かに教えてもらおう」
そう思って、都内の料理教室を探した。
1から10まですべてやらせてもらえるマンツーマンの料理教室を探した。
探してみると、プロの料理人だった人が教えてくれる料理教室が見つかった。
評判はわからなかったが、悪くなさそうだったので早速申し込んだ。
 
 
習う料理は、鶏のから揚げと肉じゃが。
初心者用に、と妻がすすめてくれたメニューだった。
 
 
料理教室は、アパートの中の一部屋だった。
「こんにちは。今日予約している富田です」
「はじめまして。Aです。準備できたら教えてください」
そういって、Aさんは僕を部屋に招き入れた。
Aさんの第一印象は、一見優しそうに見えるけれど厳しい人、という感じである。
笑顔だが、黒のコックコートを着こなしているからか、修羅場を越えてきた料理の鉄人に見えるのだ。
 
 
レッスンが始まった。
Aさんは、よくある料理教室とは違い、料理の説明から始めなかった。
 
 
「さっそくですが、富田さんは、どんな肉じゃがを作りたいですか?」
「うーん。どんな、ですか? 考えたことなかったです」
質問に思考が固まった。どんな肉じゃが作りたいかなんて、考えたことなかった。
 
 
「どんな大きさのじゃがいもがいいですか?
どんな歯ごたえがいいですか?
どんな味付けが好きですか?
そういったことを考えて、料理してほしいんです」
返事に困りながら、ふと気づいたのだ。
クックパッドを見て出来上がった料理が、食べたいものに見えなかったから、何か違うと考えていたのだと。
 
 
「肉じゃがを作るにあたって、何がメインだと思いますか?」
これは、まるでコーチングだ。
答えが合っているかどうかは大事でなく、考えることに意味があるのだ。
「うーん。肉じゃがっていうから肉かなぁ。」
 
 
Aさんは首を横に振って説明を続けた。
「肉じゃがのメインはジャガイモです。
ジャガイモが固くなく煮崩れしないように作るのが大事です。
ジャガイモに合わせて、ほかの具材をどう調理するか考えるのです」
肉じゃがは、ただ火を入れてぐつぐつ煮ればいいと思っていたので、とても驚いた。
よくよく考えると、確かに具材によって、火の入り方は違うし、どこまで火を通せばいいのかも違うのだ。
 
 
「肉じゃがを作るとき、水を沸騰させますが、水で料理するのは理にかなってます。
沸騰すれば100度ってわかるし、体も水でできている。
でも、鶏のから揚げで使う油は、見た目で何℃か、非常にわかりにくい。
中華料理は常温から170度の間、もしくは200度以上で料理するけど、から揚げやてんぷらは170~185度の間の小さな間で温度をコントロールしながら料理しないといけません。
170度を切ると、衣がうまく作れないし、185℃を超えると衣が固くなってしまいます。
特にてんぷらは、絶妙な温度加減がとても大事になってきます。
何万回か油で揚げれば油のことはわかりますけどね。
から揚げは100回程度かな」
 
 
料理をするのにどこを注意したらいいのか教えてくれて、関連する料理の考え方まで教えてくれたのは初めてだった。
イメージしやすかった。
 
 
しっかりと説明してくれた後、Aさんはこう言った。
「私が料理の世界に入ってもう35年です。タイ料理の料理長をやってたこともあります。
 
 
プロが初めに料理を教えるとき、考えることは、初心者に料理を失敗させないことです。
はじめから失敗してしまうと、自分は料理ができないのだ、と自分にできない烙印を押してしまうからです」
 
 
僕の頭の中に、散々失敗した料理が浮かんだ。
「できた!」と自信をもって作れたことはゼロだった。
だから、料理ができるとは思えなかったのだ。
 
 
説明が終わって料理を作り始めた。
包丁の持ち方から野菜の切り方まで、ひとつひとつ教えてもらった。
ジャガイモの皮を厚く切ってしまっても、「よくできているじゃないですか」と自信を落とさないようにしてくれた。
そして、メインのジャガイモを煮崩れしないように、から揚げを油から上げるタイミングを間違えないように教えてくれた。
 
 
無事、肉じゃがと鶏のから揚げが出来た。
食べてみたら、とても美味しかった。
Aさんは教えてくれたが、ほとんど手は出さず、ほぼ僕の手で作ったものだった。
35歳になって初めて、料理が出来たのだ。
 
 
「料理は愛情だ」
確かにそうだろう。
誰かを考えながら作る料理は、美味しくなると思う。
一方で、今は「料理は、まず失敗しないことだ」だと思っている。
あれからAさんには散々お世話になって、今ではだし巻き卵も白和えも、カレーも作れる。
 
 
料理がどんどん楽しくなって、スキルも格段にあがった。
けれど、僕は毎回真剣に失敗しないように料理を作っている。
ひとりで新しい料理に挑戦するときでも、あの日のAさんが、僕に失敗させないようそっと見守ってくれているのだ。

 
 
 
 

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2019-08-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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