メディアグランプリ

断捨離の先に見えた優しさ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:茂田博子(ライティング・ゼミ夏休み集中コース)
 
 
「どうしたらいいのだろう」
 
 
私は8畳ほどの部屋の真ん中にうずたかく積もれた洋服の山を前に途方に暮れた。
 
 
しばらく立ちつくしてからようやく覚悟を決めて、のろのろと一枚一枚服を手に取り手放す服、残す服とに分けていった。
 
 
服の一枚一枚とともに過ごした思い出が心の中にあふれてきて、これから手放すという名のもとに捨てようとしている服に申し訳なく思い始めた。
 
 
8年ほど前に断捨離をした。ずっと前から自分の部屋のごちゃごちゃした感じが嫌で先延ばしにしていたのにやっと着手したのだ。
 
 
あの服はもう流行遅れだ。
この服はもうすり減っている。
 
 
「別に汚部屋でもないのに断捨離なんて必要ないじゃない?」友達はそう言った。

 
 
違う。
何かがいっぱいいっぱいで飽和状態なんだ。
何が飽和状態なのかわからないからまず物を整理していくんだ。
でないともう新しいものが入らない。

 
 
服から始まり、本、着物、ひな人形、食器、調理道具。
一つ一つ物を手にとって本当に自分がそれを必要としているか確認していく。
今の私に必要か、必要でないか。
物と向き合って心に確認していく。
何が私の心をもやもやとさせているのだろう。

 
 
着物は重い。日本人だからと着付けを習い、実家から着物を大量にもらってきたけれど、結局着れなくてタンスの中に居座っている。母を口説き落としてもらった着物だから捨てるのは忍びない。でも売るというのもなんとなく罪悪感がある。
好きな食器は理想のライフスタイルを表現していたので、理想を捨てるのには勇気がいった。
本は大切にしろと言われて育ったので、捨てるという感覚を受け入れがたく、それでもえいや、とブックオフに段ボールにまとめて送ったのだが、50冊あまりの本がたったの2000円程度にしかならず、自分が大切にしているものと世間の評価とのギャップに驚いた。

 
 
物というのは心がどのような状態なのかということを外側の世界で表現しているものらしい。
物が多いと自分の周りに壁を作っているということかもしれない。
 
 
物が少ないと自分の周りに壁を作る必要がないのかもしれない。

 
 
テレビも捨てた。
実は海外ドラマが大好きでケーブルテレビを契約していたときには、土日家にこもって延々と海外ドラマを見続けていた。
立派なテレビ中毒だった。
テレビ中毒の私も一緒に捨てた。
心がさっぱりと軽くなった。

 
 

断捨離が進むにつれてなんだか楽しくなってきた。
どこまでさっぱりすることができるのだろう。
どんな発見があるのだろう。

 
 
ベッドも捨てて、本棚を2つ捨てて、部屋の空気がすっきりしたとき、一番手放さなくちゃいけないものがやっと見えてきた。

 
 
私の体の中で育ってきた子宮筋腫。あれをなんとかしなくちゃいけない。もう逃げちゃいけないんだ。部屋の断捨離をやって物の壁を取り除いたら、体の断捨離をすることになってしまった。

 
 
何十年もの長い間放置していた子宮筋腫はこぶし大に大きくなっていて、無視できないくらいのレベルになっていた。

 
 
病気と向かいあうのはつらかった。病院に行くと医者によって子宮筋腫の扱い方が違った。体の大切な一部なのに、物扱いされた。同じ女性の女医さんならこちらの気持ちを分かってくれるかと思いきや、あなたの年齢なら子宮ごと取ってもいいでしょう、と少々乱暴に言われて泣いてしまったこともあった。不妊治療の方が患者からお金を取れるから子宮筋腫は後回しと露骨に扱われたこともあった。

 
 
子宮が女性の象徴であるからなのか、自分が過去女性としてどう生きてきたのか、これからどう生きていくのか、という問いかけられているようだった。

 
 
そんなとき、同じ女性として母がそばに寄り添って話を聞いてくれた。父は多くは語らなったが陰で支え、見守ってくれた。同じ病気をした女友達は手術の裏話や冷蔵庫に入れておくべきヨーグルトなど必要かどうか不明なアドバイスで笑わせてくれた。職場の上司に相談したら長期の休みを許可してくれて、安心して手術をできるように仕事の段取りから病欠の間の人の手配まで考えてくれた。普通の社員より手厚い処置だった。そして全て言ってみなければ知りようもなかったサポートだった。

 
 
結局部屋の断捨離をしてから約10か月後、4回医者を変え、自分が一番納得いく形で手術をすることができた。

 
 
服の山の前で立ち尽くしていただけだったのに、その先の未来が手術で終わるとは全く思いがけなかった。しかも、その過程で周りの人たちのたくさんの優しさにふれることができた。

 
 

結局、私が抱えていたもやもやの原因は物ではなかったのではないかと思う。自分の心のあり方が先にあって、物が多いという状況をひきつけ、病気を見ない振りをするという状況を作りだしていたではないか。でもいったん向き合うことを決心すると物は消え、病気も消え、代わりに周りの人たちにどれだけ大切してもらっているのかを知ることができた。独りよがりだった自分は、もとから独りよがりでいる必要なんて全くなかったのだ。

 
 

もしあなたの心が物でカバーされて本当に見るべきものが見えていないと気づいたら、そのときこそ断捨離をする時期かもしれない。本当に見るべき何かを見ることができたら、人生に新しい風が吹いてくるかもしれない。

 
 
 
 
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2019-08-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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