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メディアグランプリ

弟の上司を殴りに行きたい。


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記事:水野雅浩(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「ママ、パパまだ帰ってこないのかなぁ」
 
4歳になったばかりの甥っ子が、今にも閉じそうになるまぶたを小さな指で必死に広げている。時計の針は22時を回っている。「もうすぐ帰ってくるよ。お布団の中で待っていようね」 そう言って私は、ソファーで頑張っている甥っ子にタオルケットをかけた。
 
先月、久しぶりの東京出張で、70代半ばの両親が暮らす実家に立ち寄った時のことである。7つ下の私の弟は37歳になる。彼は職場の動機で伴侶を見つけ、今も夫婦共働きだ。子供を両親に預けバリバリ働いている。
 
二人とも霞が関の中央官庁で働いており、弟は与党の某有名な政治家の秘書をしている。弟の妻はある法案を通すためのプロジェクトの重要なタスクを任されているという。二人は元々優秀な上に、仕事のスキルも経験値も高くなり、上司からも期待されているのであろう。ビジネスパーソンとしても脂がのっている時期だ。
 
弟と同じ年齢の時、私は何をしていただろう?
そうだ、胸を高鳴らせながら海外出店に向けて準備をしていた時期だ。会社は音を立てるようにして成長し、きしみをあげながらも自分も成長している実感があった。まさに、疾走感の中にいた。
 
今の自分がいるのも30代の濃密な時間を全力で駆け抜けてきたからだと思う。あの頃の濃密な時間は血となり肉となり、40半ばになった私のキャリアを支えてくれている。
 
しかし、である。
 
23時になる頃、仕事を終えた義妹が子供を迎えに来た。私を見つけて、「ご無沙汰しています」と二コリと笑うが、さすがに疲れが隠せない。寝落ちしている子供を起こさないようにそっとベビーカーに乗せる。以前会った時よりも、体が少しふっくらしていた。おめでたいことに、第二子をさずかったという。
 
帰り路、万が一のことがあったら心配だ。私は70半ばになる父と一緒に、徒歩5分の所にある弟夫婦が暮らすマンションまでベビーカーを押して彼女を送ることにした。
 
「仕事頑張っているね。随分と忙しそうだけど、もう少し早く帰ることができないの?」と聞くと、「法案を通す準備で忙しくて。上司も、同僚も、部下もみんな頑張っていますからね……」 と彼女が力なく笑う。弟はまだ職場に残って働いているという。
 
私も30代はそうだった。
大きなプロジェクトを成功させるために、上司も私も同僚も、終電で帰宅することのほうが少なかった。21時頃になると、カップラーメンをかっ込み「よし第二ラウンド、頑張ろう」と部下に発破をかけていた。週に2回は会社に寝泊まりしていたし、それが当たり前だった。会社の成長を自分が担っているという自負もあった。
 
しかし、である。
 
私は現在、健康習慣の専門家として、企業、行政、大学、大使館などで働き方改革の一環として、ビジネスパーソンの「健康マネジメント」について講師をする仕事についている。だからこそ、余計に、弟夫婦の健康が気になってしまう。
 
長時間労働を継続すると、無自覚の内に血圧が高くなることが分かっている。血管の内壁に衝撃を強く与える高血圧の状態が続くと、脳疾患、心疾患など命に係わる血管トラブルにつながる。さらには、ストレスは本人も自覚のないうちに蓄積して行くと、取り返しのないメンタルダメージにつながっていく。
 
万が一である。
二人の子供を持つ弟が長時間労働により、働くことができなくなったら。弟の妻がどれほどビジネススキルを持っていたとしても、二人の子供を持ち、どうやって育てていくことができるだろうか。
 
また、万が一、万が一である。
第二子を身ごもった彼女が流産をしてしまったとしたら。もう一度、子供を授かる可能性は年齢的にもぐっと確率が下がることだろう。
 
働き方改革と言われる中で、その声を上げている中央官庁が、この状態だ。真夜中にベビーカーの中で眠る甥っ子の寝息を聞きながら、万が一が起こる前に、弟の上司を殴りに行きたい衝動に駆られる。
 
私は、スタートアップの企業から、一部上場企業まで働きやすい職場作りのコンサルティングをしてきているが、長時間労働や社員が不健康な職場の原因の99%は、上司だ。上司の中でも、上司が、お客様(この場合は、政治家や、国民か)ファーストになり、社員・職員を酷使しているケースが、最もタチが悪い。
 
多くの上司が部下の「健康が大事」と口にする。
しかし、その「大事」の優先順位は何番目だろうか?
仕事の次に、健康が来ていないだろうか?
 
時代は変わった。
部下の健康マネジメントは、コペルニクス的転換が必要である。
健康が一番で、その後に、仕事が来るのである。
 
健康だからこそ、高い集中力をキープできる。
健康だからこそ、風邪も引かず高く安定したパフォーマンスを発揮できる。
健康だからこそ、途中リタイヤせず、長く働くことができるのである。
 
弟夫婦のように、毎晩真夜中にフラフラになりながら帰宅し、倒れこむようにして眠り、朝はだるい体を無理やり起こすように、もたれている胃にコーヒーを流し込み、ゾンビのように出社して行く。健康を犠牲にしながら、働く部下を作りだしているのは、以前の私の様な地動説の上司である。
 
部下を持つあらゆる組織の上司が仕事と健康の優先順位を入れ替え、社員が健康で長く働ける組織を作ってほしいと、甥っ子の寝息を聞きながら、切に願うのである。
 
 
 
 
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2019-08-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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