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メディアグランプリ

犬を我が子同然に愛している人にこそ知ってほしい「犬≠人」という事実


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:諏訪恵(ライティング・ゼミ特講)
 
 
私が初めて犬を飼ったのは10歳の時だった。
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルという長い名前の犬種で、垂れた耳とくりくり大きな目が愛らしい女の子。
父からバーディーと名付けられた子犬は、その日から私の心の支えになった。
グループに属すことができず孤立し、授業中「2人ペアを作って」という先生の指示に怯え、聞こえよがしの陰口に疲弊した小・中学生時代。
家では何かの拍子に突然ヒステリックに怒鳴り始める母の顔色を窺ってばかりいた。
しかしどんな時でも、玄関を開けると尻尾どころかお尻をぶんぶん振り回すバーディーが待っていてくれた。
落ち込んでいるときに抱きしめると、顔を舐めてくれた。
夜は毎日同じベッドで眠った。
時には寝相が悪いバーディーに口を塞がれ、息苦しさに飛び起きたこともあったけれど、それすら可愛さ自慢のノロケ話だ。
本当に、バーディーだけが、心の支えだった。
 
そんなバーディーとの別れは突然だった。
 
高校を卒業後、フルタイムで働きながら夜は大学に通っていた私の帰宅時間は遅く、その日も22時を回っていた。
おばあちゃん犬になって激しさは減ったけれど、それでもお尻を振り回して迎えてくれるバーディーの姿がない。
「お母さん、ただいま。バーディー寝てるの?」
靴を脱ぎながら問いかけたその時は、まだいつも通りの自分だったように思う。
「え? 知らない。ああ、冷蔵庫の前で寝てるわ。ほら、そこ」
その返事を聞いたとき、急に胸にモヤモヤとした不安が広がった。
「寝てるっていつから? 様子見てるの?」
私はキッチンへと走った。
呼吸が早くなった。
「バーディー? バーディー? お母さん! バーディー息してない!」
 
本当に、突然だった。
その日の朝、「行ってくるね」とわしゃわしゃ撫でまわしたのが最後になるなんて、想像もしていなかった。
犬の寿命が人より短いことを、わかっているようで本当にはわかっていなかったのだと思う。
あとから母が「そういえば、朝変な吐き方したんだよね」と言った。
「なぜ教えてくれなかったのか」と私は母を恨んだけれど、仮にそれを聞いていたところで、たった数時間で別れの覚悟ができたかといえば、きっとできなかっただろう。
その後同じ犬種を街中で見かけるたびに「もっとできたことがあったはず」「あの子は幸せだったのか」と後悔が溢れて止まらなかった。
 
あの日から4年後、私は再び犬を飼うことになった。
アメリカン・コッカー・スパニエルという名前で少し短くなったけれど、垂れた耳とくりくり大きな目が愛らしい女の子。
ハンディモップみたいにモフモフとしていたから、モップと名付けた。
バーディーを飼い始めたときと、ひとつ変わったことがある。
それは、「犬を飼い始めた日=別れへのカウントダウン」という覚悟だ。
限られた時間の中でこの子を絶対に幸せにする。
この子のためにできることをしたと思えるように生きよう。
二度と、後悔はしない。
そう決めた。
 
後悔しないためにはプロの手を借りようと、ドッグトレーニングを始めた。
社会で生きる以上、マナーを守れなければ制約が増え、つらい思いをするのは犬自身だと考えたからだ。
実際トレーニングを始めてみると、犬を飼うのは初めてではないのに、認識が違うことが多く驚いた。
たとえばリード。
犬が散歩をするときに首輪に繋ぐ綱といえばわかるだろうか。
これまでの私は犬の動きを制限し、周囲に危害を加えないためのものであると考えていた。
事実そういう側面もあるとは思う。
しかし、トレーナーに言われたリードの重要な役割は「犬にとっての命綱」ということだった。
街中には犬に恐怖を感じる人がいるように、犬にとっても危険がある。
「私犬が大好きなの!」と犬の気持ちなどお構いなしに触ろうとする通行人、突然走って追いかけようとする子供、予測不能な動き方をする自転車、突然の騒音など犬が恐怖を感じるものから守り、安全な場所に導くのがリードなのである。
「この人は恐怖から守ってくれる。この人がリードを持っているときは大丈夫」と犬が思えるリードさばきが飼い主には求められる。
トレーナーがリードを持った途端、人(犬?)が変わったようになるなんてことはよくある話だ。
トレーナーは犬という動物をよく知ったうえで、個々の犬をよく観察し、理解しようとする。
この犬はなぜ吠えるのか? どのタイミングで吠えるのか? 怒っているのか? 怯えているのか? 褒められたいのか?
そういった個々の犬の行動原理を理解し、応えようとする。
その気持ちがリードさばきに表れるから、犬は安心できるのだろう。
無駄に吠えることも、やたらと引っ張ることもしない。
トレーニングとは犬ではなく、飼い主が自分の犬を知り、適切な対応をするためのものなのである。
怖がりで神経質な性格のモップは、恐怖の対象を追い払いたい気持ちから通行人や車に向かって吠えたり興奮してしまうことがあったが、トレーニングの結果、リードに繋がっていれば大丈夫という安心感が伝わったのか落ち着いた。
家の中ではフリーになっているが、近隣の工事の音がうるさい時などはリードをつけるとそわそわすることもない。
 
飼い主の中には「繋がれてかわいそう」という人がいるが、それはおそらく「リードは自由を奪うもの」という思い込みがあるのだと思う。
もしくは、可愛いわが子を綱に繋ぐなんて! と擬人化している面もあるかもしれない。
 
しかし今一度考えてほしい。
犬は犬なのである。
こんなにも身近な存在である「犬」という生き物の生態を、私たちはあまりに知らない。
尻尾を振っている犬はすべからく喜んでいると思い込んでいる人がたくさんいる。
実際には気が立っていて興奮状態であったり、怯えて不安だったりするのに、「嬉しいんだね」と迫ってくることさえある。
犬が大好きだと自負している私も、リードのことは一例に過ぎない。
学んではじめて知ったことがたくさんあった。
 
本当の意味で犬という生き物のクオリティ・オブ・ライフを考えるのであれば、まずは「犬は犬である」ということを受け入れ、人の価値観と犬の価値観の違いを認める必要があるのではないだろうか。
飼い主が良かれと思っていることが、実は犬にとってストレスになっていることだってあるのではないだろうか。
犬は「飼い主が喜ぶならば」と享受してしまうけれど、その優しさに甘え過ぎてはいないだろうか。
 
相手と向き合い知ろうとしなければ、相手の「幸せ」が何かはわからない。
犬は犬である。
犬にとっての幸せがある。
限られた時間の中で、ぜひそれを満たしてほしい。
私のような後悔をしないために。
幸せな想い出だけを残せるように。
 
 
 
 
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この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-09-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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