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週刊READING LIFE vol.48

小さな車内の国際社会/Uber体験記《 週刊READING LIFE Vol.48「国際社会で働く」》


記事:青木文子(天狼院公認ライター)
 
 

「先週は乗られた方の8割が日本人でない方でしたね」
 
「1日大体30組のお客様がおられますが、そのうちの約20組は外国の方ですよ」
 
10人のうち8人が日本人でない方。
30組のうち20組が外国の方。
 
そう聞くと、あなたはどんな仕事を思い浮かべるだろうか。
空港の仕事?それともどこか海外の接客?
 
これはUberのドライバーの方が私に話してくれた言葉だ。
 
タクシーサービスに似た仕組みで、Uber(ウーバー)という仕組みがある。
 
タクシーに乗るときのことを思い出して欲しい。「空車」と赤いランプサインが灯っているタクシーが走っている。そのタクシーに向かって道端で手を挙げる。気づいてくれたドライバーが道端に車を寄せてドアをあけてくれる。
これがタクシーだ。
 
Uberはタクシーとはすこし違う仕組みになっている。
まず、道端で手を上げて停める、ということがない。すべてUberの専用アプリから車を呼び出す形になっている。
 
3年前の8月の終わり。今年のように暑い夏だった。
私は東京の表参道にいた。昼から東京の代官山で面談の仕事が入っていた。
 
ここから電車にのって代官山かぁ。暑いしタクシーに乗ろうかな。
そんなことを考えながら表参道のアップルストアの前を駅に向かってあるいていた。
 
唐突に思いついた。
 
「せっかく東京にいるのだからUberに乗ってみようかな」
 
日本でもUberが東京を中心にサービスが始まっていることは知っていた。でもUberに乗ったこともなければ、アプリでの呼び方も知らない。そもそも私のスマホにはUberのアプリが入っていない。
 
今世界に拡がっているUberとは、アメリカ合衆国の企業であるウーバー・テクノロジーズが運営する、自動車配車ウェブサイトおよび配車アプリでの配車サービスだ。現在は世界70カ国・地域の450都市以上で展開されているという。
日本では今から5年前、2014年8月にUberのサービスがはじまった。
 
Uberはどうやったら呼べるのだろう?
 
こういったときにネットは便利だ。
検索してみると、まずはUberアプリのダウンロードが必要らしいとわかった。早速アプリを街路樹の木陰に立ったままダウンロードしてみる。
 
アプリを開いてみると、最初の登録画面で、名前と電話番号、クレジットカードの登録を求められる。一瞬、躊躇したが、規約(英語!)を一応確認してポチッと登録。
 
あっけなく登録は完了した。
 
最初の体験というのはどんなことでもドキドキする。Uberアプリの設定はしたものの、ちゃんと呼べるのかな?呼んだら来るのかな? と半信半疑の気持ちだ。
 
アプリを開くと今居る表参道アップルストア前付近が地図に出てくる。地図には近くにいるUberが車のイラストで表示され、リアルタイムでちまちまと動いていくようになっている。その動きが結構コミカルで可愛い。
 
「地図上でピンを配置してください」というボタンを押すと、地図上に黒いまち針のようなピンが表示される。このピンは自由に動かすことができる。迎えに来てほしい場所にそのピンを移動させる。ちょうど表参道のアップルストア前に居たので、そこにピンを移動させてみる。
 
次は行き先だ。行き先も事前入力。面談の予定が入っている代官山の住所をいれる。すると予想乗車時間と、料金見積もりも表示されてくる。
近くに走っているUberのドライバーの方の顔写真と今までのお客様からの評価平均、車種等も表示される。
 
どれどれ?
車種は「レクサスLS 600HL」 おぉ、高級だ~。
 
最後、「アップルストア前にお願いします」という情報を入力してポチッと。
 
「お客様の元へ向かっております」と画面に表示された。
 
最近はUberアプリと同じようなタクシーアプリが出てきているが、使い比べてみての感想はUberアプリが断然こなれていて使いやすい。
 
地図上のUberの表示がちまちまと近づいてくる。そして「待ち時間5分」の表示。待ち時間表示がだんだん短くなって、地図上の車の表示も近づいてくる。そのうちに表示が「まもなく到着します」に変わる。
 
地図をみる。もうそこの信号をすぎたところだ! アップルストア前でスマホを眺めたり道ををきょろきょろみている私の姿はたぶんかなり怪しい。顔を上げて探してみる。多分あの車だ! 来た、来た。なんだか感動!
 
近づいてきたレクサスはUberの表示やタクシーの上についている行灯もなく、いわゆるハイヤー仕様。
 
滑り込むようにレクサスUberは私の目の前に停まった。
ドライバーの方が、降りてきて、名前を確認してくれる。
「青木様でございますね」
はい、そうです、と返事をすると、白手袋も優雅にをしてのドアサービスしてエスコートしてくれる。
 
乗せて頂くと内装は革張り。
「これタクシーというよりも高級ハイヤーだよね。いやこれUberか」とひとりごちてみる。
 
運転席にはipadがある。お聞きしてみると、どの言語のアプリからの呼び出しでもすべて日本語表記で配信されてくるとのこと。
 
「日本に来ている海外の方たちは、それぞれの言語のアプリを使われますからね」
 
ドライバーさんは英語が堪能なんですか? と思わず聞いてみる。
 
「いえ、ハローとかサンキューぐらいしか言えません。いろいろな国の方が乗ってくださいますよ。でも、お客様の行き先や情報は事前にアプリ経由で来ますし、精算もクレジットで自動なので、困りません」
 
今まで一番高額の料金っていくらぐらいでした? と聞いてみる。
 
「私がお乗せしたお客様ではありませんが、海外の方を新宿から京都まで乗せたUberドライバー仲間がいますよ」
 
え?! 新宿から京都まで?
 
「で、新幹線でいけることもご説明したようなのですが、乗せて欲しいということでお乗せしたそうです」
 
で、料金どのくらいだったのですか?
 
「Uberって倍率がかかるのご存知ですか? タクシーのように料金が一律ではないんです。混み合っている時や雨の日や雪の日は、通常の料金に倍率がかかるんですよ。最高4倍まで倍率がかかります」
 
「その京都行の方は倍率がかかった時間帯だったそうで、合計60万円は行ったと聞いています」
 
「ただ、Uberに乗る方は海外の富裕層の方も多くて。東京から群馬まで行ってくれとか、ありますね」
 
私の今日の行き先は代官山。それも先にアプリに入れてあるので、ドライバーの方に詳しく説明する必要もなく、Uberは目的地に向かう。
 
「今まで7年間タクシーの運転手をしていたんです。色々なお客様がいらっしゃるので、1日1回はなにかトラブルや嫌な思いをすることがありました。Uberの運転手になってもう2年過ぎましたが、この2年そんな思いは一度もしていません」
 
「言語が通じなくても、アプリと連動したこちらのipadの仕組みがあれば大丈夫ですしね」
 
「今までのタクシー業界の常識が書き換わっていく気がします」
 
運転手さんにUberの話をあれこれお聞きしている内に、あっという間に代官山到着。クレジットカード決済なので、支払いの手間もなし。
 
「今日は色々お話を聞かせてくださってありがとうございました」とお礼を行って降りる。
Uberの後ろ姿を見送ってしばらくする、スマホからピロリンと音がする。みると、Uberのクレジットの引き落としの領収書がメールで送られてきていた
 
タクシーと変わらない値段で、高級車で、ドアサービス付きで、支払いの手間も省けるとなると、これは人気がでる訳がわかる。また海外の方は自分の国でUberに乗り慣れている方も多く、同じ感覚で日本でUberに乗れると、とても喜ばれるとのこと。
 
Uberの小さな車内に存在するのは国際社会だった。
日々Uberのドライバーとして働く彼らは、紛れもなく国際社会で働く人たちでもあるのだった。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
青木文子(あおきあやこ)(天狼院公認ライター)

愛知県生まれ、岐阜県在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学時代は民俗学を専攻。民俗学の学びの中でフィールドワークの基礎を身に付ける。子どもを二人出産してから司法書士試験に挑戦。法学部出身でなく、下の子が0歳の時から4年の受験勉強を経て2008年司法書士試験合格。
人前で話すこと、伝えることが身上。「人が物語を語ること」の可能性を信じている。貫くテーマは「あなたの物語」。
天狼院書店ライティングゼミの受講をきっかけにライターになる。天狼院メディアグランプリ23nd season総合優勝。雑誌『READING LIFE』公認ライター、天狼院公認ライター。

 
 
 
 

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2019-09-02 | Posted in 週刊READING LIFE vol.48

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