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週刊READING LIFE vol.58

大人だからって完璧でなくてもいい《週刊READING LIFE Vol.58 「大人」のリアル》


記事:丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 

「きれいなあ~、このお姉ちゃんの手」
 
私が子どもの頃、胸が高鳴るほど楽しみだったことがある。
それは、年に数回母に連れられて、大きな街のデパートへと買い物に行くことだった。
たまに行けるお買い物、当時はそう頻繁にはないことだった。
なので、きれいな洋服を着せてもらって、電車に乗るときから興奮していた。
中でも、電車の中で、たくさんの乗客の中に紛れている、きれいなお姉さんを見るのが好きだった。
 
きれいなお姉さんは、きっと会社勤めの人だったのだろう。
たいていは、落ち着いた色のスーツなんかを着ていた。
特に、そのジャケットの袖口から出ている手を、私はいつもじっと見ていた。
細くて長いスラっとした指。
その真っ白な手は、子どもの目から見ても美しかった。
 
私の大人へのあこがれは、きれいな女性の手だった。
当時の私と言えば、真っ黒に日焼けしたぽちゃぽちゃした手。
そんな手が嫌いで、早く大人になりたいと思っていたものだ。
そう、大人になると、黒くて丸っこい手も白くてスラっとした手になると信じていたからだ。
さらには、身長もスラリと伸びて、あの電車のお姉さんのように、颯爽と街を歩くカッコいい女性になることを想像していたのだ。
 
ところが、私が20歳になり、成人式を迎えた頃になっても、私の手は丸っこいままだった。
おかしいな、身長もスラリとは伸びなかった。
 
短大を卒業し、商社に就職をして、電車に揺られて通勤する日々。
そんな時、ふと自分の手を見て、
 
「なんでだろう……」
 
20歳そこらだった私は、真剣に悩んだものだった。
一体、いつになったらこの手が白くなって、スラっと伸びるんだ?
そう、大人になったからといって、手が劇的に変わることはなかったのだ。
 
食べ物の好き嫌いに関しても同じだった。
子どもの頃から、好き嫌いが多く、食べられないものが多かった。
チーズや牛乳などの乳製品、マヨネーズも食べられなかった。
そんな好き嫌いも、大人になるとなくなると思っていたのだが、食べ物の好みは変わらなかった。
 
子どもの頃に思い描いていたことは、大人になるとそんな食べ物の好き嫌いはなくなり、容姿は大人仕様に入れ替わるものだと信じていたのだ。
 
そんな大きなあこがれや変化を期待していたのには、子ども時代の自分に満足ができず、自信がなかったのかもしれない。
さらには、まだ見ることのない大人の世界、達していない領域に関しては、自然とハードルを高く掲げてしまうのだろう。
まるで桃源郷にでも行けるような気分を持っていたのかもしれない。
 
だから、
 
「早く大人になりたい」
 
「今の子どもの世界から脱出したい」
 
そんなあこがれとも、逃げともとれるような、切なる思いを抱いていたんだろう。
 
また、大人になると小さなことにクヨクヨせず、おおらかになれるとも思っていたし、何でも卒なくこなせるものだとも思っていた。
 
20代の頃、会社員として社会に出た私は、いわゆる大人の世界へとデビューしたのだった。
ところが、仕事も半人前、周りの人間との付き合いにも四苦八苦していた。
毎日、愚痴りたいネタにあふれていて、戸惑うばかりだった。
いわゆる、ストレスを感じるようになった。
週末の休みには、「一人になりたい」とふらりと出かけることで、一週間たまったストレスを解消していた。
大人って、疲れる。
大人って、大変だな。
そんなことを知る時代だった。
 
30代、結婚し、子育ても始まったが、初めての育児に悩み、ママ友との付き合いにも辟易していた。
 
40代、夫婦関係に悩み、人生最大の問題を抱えながらも答えが出せず、悶々としていた。
 
そして、50代の今。
 
やっと、人生の大海原の大波から逃れることは出来たが、それでも、日々様々なことが起こるのは変わらない。
そのたびに、右往左往するし、クヨクヨ落ち込むことはある。
 
そうか、そうなんだよね。
大人になると、悩みがなくなり、何でもできる完璧人間が完成すると想像していた子ども時代。
ところが、実際、大人になった今、日々様々なことが起こる。
それに対して、いつもドキドキしながらも、対応している。
スカッと爽快な答えを見つけ出せる時ばかりでもない。
 
それでも、投げ出すことなく自分なりの答えを出し、淡々と生きること。
それは、地味で孤独な行動の繰り返しだが、それが大人の世界なのかもしれない。
そこには、完璧なカタチはなく、日々一生懸命な姿があるだけ。
悩みながら、落ち込みながらも、あきらめずに前に進んでゆくのが大人なのかもしれない。
 
そうね、私の手は今でも黒くてぽちゃぽちゃしているけれど、ネイルという美しくなれる手段は手に入れられた。
 
ネイルを施術してもらった手を眺めると、
 
「うん、悪くないかもね」
 
そう思えるようになって、私も少しは大人になれたのかもしれない。

 
 
 
 

◻︎ライタープロフィール
丸山ゆり(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

関西初のやましたひでこ<公認>断捨離トレーナー。
カルチャーセンター10か所以上、延べ100回以上断捨離講座で講師を務める。
地元の公共団体での断捨離講座、国内外の企業の研修でセミナーを行う。
1963年兵庫県西宮市生まれ。短大卒業後、商社に勤務した後、結婚。ごく普通の主婦として家事に専念している時に、断捨離に出会う。自分とモノとの今の関係性を問う発想に感銘を受けて、断捨離を通して、身近な人から笑顔にしていくことを開始。片づけの苦手な人を片づけ好きにさせるレッスンに定評あり。部屋を片づけるだけでなく、心地よく暮らせて、機能的な収納術を提案している。モットーは、断捨離で「エレガントな女性に」。
2013年1月断捨離提唱者やましたひでこより第1期公認トレーナーと認定される。
整理・収納アドバイザー1級。

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2019-11-18 | Posted in 週刊READING LIFE vol.58

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