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週刊READING LIFE vol.90

「いつでもいちばん!」《週刊READING LIFE Vol,90 今、この作家が面白い》


記事:山口畝誉(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
それは今から48年前だ。この作家と出会ったのは。
もうかれこれ半世紀になる。
その作家の処女作は『20歳の微熱』
彼が20歳の時の作品だ。作家の自叙伝。日記、小説、詩が散りばめられ、少年から青年になる心の動きを丁寧に描写していた。
晴れやかな表の姿と反比例して、その若者の心は常に揺れ動いていた。
『20歳の微熱』では作家の苦悩も描かれていた。
 
ガラス細工のような少年の心。まっすぐで不器用で繊細な少年。
全くの「素人」でその世界に突如としてデビューすることになった少年。
 
「このまま引かれたレールを人形のように動いていていいのか? 自分の道は自分の汗と志で切り開いていかなければいけないのではないだろうか?」
 
あまりにも華々しい表の顔とは裏腹に苦悩していた少年。
デビューして3年で、彼は独立を考える。お世話になった事務所を離れる決意をする。
少年の劣等感を払拭するには目の前にひかれたレールから外れる必要があった。
 
だが、その当時、彼の心の中を知らずに多くのマスコミや週刊誌は彼をバッシングし、根も葉もないことを書き上げ、彼を中傷した。
彼の笑顔が哀しかった。とびっきりの弾けるような無邪気な笑顔が消え失せていた。
18歳の笑顔にはいつも影があった。
少年は傷つき「死」をも考えていたのだ。
当時の曲は『よろしく哀愁』
 
まっすぐで不器用な少年。彼は精神的に自立できる場を求め、事務所を移籍する決意をした。
 
高校を卒業するのには4年3ヶ月がかかった。忙しさの極みから授業に出席することもままならなかったのだ。
外部からは隔絶された特殊な世界。ごく「一般的な」青春時代を過ごすことができなかった彼。この特殊な世界の中だけで、いつも同じ顔ぶれに囲まれて十代の多感な成長期を過ごした。
彼は不安だった。
 
「自分の感覚がズレているのではないか? 人間としておかしくならないか?」
 
そう恐れを抱き一般の学生と同じ経験を求めた。分刻みの忙しいスケジュールの中、睡眠時間も削る日々。仕事をしながら、点滴を打ちながら大学受験にも臨んだ。見事に不合格。
だが、彼は、同年代の若者と同じような「経験」をしたかったのだ。
負けず嫌いの彼は翌年には見事に大学受験に合格する。一度も大学には出席できなかったが、彼には「受験」という「経験」に意味があったのだ。
 
独立して初めての夏のコンサートでは舞台から落下し、骨折をする。当時二部構成だったコンサート。一部で骨折をするも二部でも通常通りにコンサートを遂行した。
一切休まずにコンサートツアーを終えた。
 
順風満帆だった彼の芸能人生で、初めての挫折。それが『レコード大賞』の落選だった。
ライバルがステージでスポットライトを浴びる中、残酷にも彼にマイクが向けられた。
 
「秀樹くん(西城秀樹)、五郎くん(野口五郎)が今ステージ上にいて、君だけが残されました。今の気持ちを聞かせてください」
 
「自分の力が及ばず……来年こそはここに戻ってきます」
 
そう唇を噛み締めて、関係者に頭を下げた。
 
光と陰。たった5年の間に一般の若者には想像もつかないような喜びと苦悩を味わった少年。だが、常に客観的に自分を見つめ、周りに気を遣い、愚直に一生懸命に青春を生きていた。
外見から誤解されがちな彼。
私は当時涙ながらに『20歳の微熱』を読んだ。信じた通りのまっすぐな人だった。
 
嘘のない純粋さをそのままに作家は25歳の時には2作目『たったひとり』を出版した。
「口述筆記」で出版された作家の自叙伝。
『たったひとり』では経験を積んでひと回りもふた回りも大きくなった青年の姿があった。
特殊な世界に15歳で飛び込み、一般の若者が経験できない「独立」にまつわる苦労。彼の中には少年の部分と、若くして老成した部分があった。
 
『たったひとり』では『20歳の微熱』では言語化されていなかった心の襞が言語化されていた。大人の世界で揉まれながら、バランス感覚を見失わないように常に客観的に自身を捉えていた。
 
作家は当時から既に「努力こそが生きがい」と言っていた。
彼は一般的な青春時代を過ごすことはできなかった。それゆえに彼はどんなに忙しい中でも読書をした。そこから知識を蓄え想像力を膨らませた。
 
その後、結婚し、ニューヨークに住むと34歳では『郷ひろみの紐育(ニューヨーク)日記』を。40歳では『不惑』を出版する。
最初の離婚を経験した42歳では『ダディ』を、45歳では『大丈夫か、こいつ?』を。53歳では『NEXT〜明日の僕がいちばん!』を出版する。
いずれも本人が書き綴ったエッセイである。
 
そして、今年65歳になる彼の最新作が『黄金の60代』
 
円熟味を増しながらも、今なお、輝きを増す郷ひろみ。少年のような笑顔で周りを元気に輝かせてくれる。
彼のコアは変わらない。変わり続ける強さと変わらない強さ。
 
『黄金の60代』ではこんなことを言っている。
 
「僕は特別な仕事をしていると思われているだけに、普段はできるだけ普通でいられるよう行動する……つま、普通のことをコツコツやっていれば、人は勝手に特別と判断するのでは、と思うようになった……ステージに上がれば郷ひろみとしてのスイッチが自然に入るのだろう」
 
彼は40年以上にわたりコツコツと努力をし続けてきた。60代が自身の人生最高の時期と考えて、準備を整えてきた。
愚直に自らの心と体を鍛えあげ、常に時代の流れに対応して自分自身を進化させ続けている。客観的に頑固に細部まで緻密にこだわるショーは彼のプロフェッショナリズムを見せつける。
 
あとがきにはこんな言葉が添えられている。
 
「今の時代を僕たちがどう生きていくか、これはとても大きな問題なのかもしれない。僕たちはこれから『リタイアのない時代』を生きていかなければならない気がする……歳を重ねていくほど自身を奮い立たせなければならないと思っている」
 
この本は自己啓発本であり人生哲学と言っていい類のものかもしれない。
これから『リタイアのない時代』にどのような心構えでのぞむのか。大きなヒントを与えてくれる一冊だろう。
 
60代が最高と言っているが、70代になった時には、「今が一番」と言っている彼がいるような気がする。
 
いつでも彼がいちばん面白い!
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
山口畝誉(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

東京都出身。新卒で外資系に入社。国際ロータリー財団の奨学金で米国に渡りMBA取得。
アップル、マイクロソフトを含む外資系IT業界7社。転職回数8回。従業員数18,000人の純日本企業で唯一の女性役員で自己不一致。国家資格キャリアコンサルタント。ライフ・キャリアコーチ。生涯現役を目指して芸能界入り。郷ひろみファン歴48年。

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2020-08-03 | Posted in 週刊READING LIFE vol.90

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