週刊READING LIFE vol,113

沼深きSTAUBのほとり《週刊READING LIFE vol.113「やめてよ、バカ」》


2021/02/01/公開
記事:toko(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)
 
 
私がこの記事で言いたいことはただ一つ。
そこの1Kやワンルームに一人暮らしをしている若者よ、STAUBの鍋は絶対に買うな。
買ったら最後、沼に落ちて這いあがれなくなるぞーーー。

 

 

 

まず初めに私の話をさせて頂きたい。
1990年生まれ、ちょうど30歳の一人暮らし5年目女性。
社会人4年目で転勤するまでずっと実家住まいで、美味しいごはんは大好きだが料理は好きじゃない。けれど、お惣菜の濃い味付けが苦手で、普段の食事は簡単なものを自炊している。
そして、SATUBの鍋を2つ持っている。
 
STAUBとは、フランス生まれの鋳物鍋メーカーだ。ル・クルーゼと並ぶ人気のブランド鍋で、料理好きのInstagramなどでよく見かける。
専業主婦のセレブマダムがホームパーティーを開くときに、お鍋ごと食卓に出してお客様を喜ばせる、そんなイメージのあるブランド品だ。
見た目もおしゃれで憧れるものの、値段も決してお安くはなく、料理上級者のアイテムだとかつては私も思っていた。
料理を楽しいと思えない、なるべく負担が少なく手軽なメニューで済ませたいタイプの私には無縁のアイテムだと。

 

 

 

ところが、我が家にSTAUBはやってきた。
 
夏休み、祖父母に会いに帰省していた京都で、たまたまSTAUBの直営店の前を通りかかった。控えめな店構えで、ともすれば気づかず通り過ぎてしまいそうなこじんまりした店舗だったが、店先のワゴンにSTAUB鍋を沢山出して、セールを行っていたのが目についた。
一緒に歩いていた母親の携帯電話に着信があったため、母の通話が終わるのを待ちがてらぶらぶらと店内を見て回り、母親が電話を終えて店内に入ってきたときには、グレーのラ・ココット De GOHANを抱えてdレジに向かっていた。
 
その型はよくある平たい蓋つきの両手鍋とは異なり、お米を炊く羽釜のように高さのある鍋で、フランス産にも関わらず炊飯に特化した形のものだった。
私はたまたま数日前にInstagramで料理好きがそのGOHAN鍋を買った投稿を目にしていて、ごはんを鍋で炊く、ということに魅力を感じたばかりだった。
 
一人暮らしを始めた時に家電量販店で買った「家電5点で5万円ぽっきりセット」に入っていた一人暮らし向けの小さい炊飯器で炊くごはんより、火加減を気にしながら厚手の鍋で炊くごはんの方がおいしそうだし、その頃まさに流行していた憧れの、「丁寧な暮らし」そのもののように感じた。
もちろん、鍋でごはんを炊くなんて料理に関しては特にめんどくさがりな私にとってハードルが高いかもしれない。でも、なんとその時店内のSTAUBは40%オフになっていた。
定価19,000円の鍋は、11,400円にまで割り引かれていたのだ。
これくらいの値段であれば、試しに買ってみてもいいかも……。
 
そうしてその重たい鍋は、一人暮らしの我が家にやってきた。

 

 

 

鋳物の調理器具を使う際には、必ず初めにシーズニングを行わなくてはならない。
シーズニングとは、鉄製の鍋を使う前に、表面を油でコーティングすること。詳しいやり方はここでは省略するが、これを行わないとせっかくの鍋が錆びてしまうこともある(ちなみに私は、これまたかつて流行っていたスキレットをニトリで購入し、シーズニングをしなかったばかりか洗剤を使って洗ってしまい、一回で錆びを発生させたことがある)。
 
このひと手間。正直言ってめんどくさい。
まだSTAUBの恩恵を知らない私にとって、お米を炊くこと自体めんどくさいのに、その前にさらに手間をかけないといけないなんて……。
しばらく買ったままになっていたSATUBだったが、休日についに重い腰をあげてシーズニングをしてみた。めんどくさいことの大半がそうだが、やってみれば大した時間もかからずあっという間に終わった。鍋はまんべんなく油が馴染み、鈍い艶を放っていた。
 
そしていよいよ、米を炊く。
まずザルとボウルに米を入れ、研いだら15分ほど浸水させ、水を切ってさらに5分置く。鍋に米を入れたら炊く合数分の水を入れ、火にかける。沸騰し大きい泡がぼこぼこ出てきたら、しゃもじでざっくりかき混ぜて蓋をする。極弱火にし、10分たったら火を止め、更に10分蒸らす。
以上。
 
火をかけっぱなしにするのでキッチンから目を離すことはできないものの、時間も手間もそこまでかからず、他のおかずを調理している間にあっという間にごはんは炊けた。
 
10分蒸らし終わった鍋の蓋を、布巾で掴んで開けてみると……。そこにはつやつや光るごはんの粒が……!
美味しく炊けた証のかに穴もできており、なんとも美味しそうに湯気が立っていた。軽くごはんを混ぜるとおこげもできている。
お茶碗によそって、いざ一口。
 
衝撃だった。
 
大げさでなく、炊き方で同じ米がこんなに変わるのか、と目を見張る。
特別グルメというわけでもない私でもわかるくらい、一粒ひとつぶがしっかりふっくらと立っていて、堅すぎず柔らかすぎず、しっかり米本来の甘さが出ている。
おこげもパリッとした食感とほくほくした熱さが楽しい。
これまで一人暮らし用炊飯器で炊いていたごはんは何だったのか……!
 
私はその日以降毎回SATUB鍋でご飯を炊くようになり、半年後には炊飯器を手放した。

 

 

 

STAUBは予想以上に大活躍してくれた。
週に1~2回の炊飯はもちろん、スープに煮物、スパゲッティソースも作れるし、おでんもできた。厚手の鍋はじわじわと熱が全体にいきわたり、具が煮崩れすることなく味が染み込む。また蓋には独特の突起が付いていて、素材から出た水が水蒸気となって蓋の裏につき、また雨のように鍋の中に降り注ぐようになっている。そのレインシャワーがますます味を深くし、料理を美味しく仕上げてくれるのだ。
材料を切って鍋に放り込み蓋をして火にかけるだけで、素材そのものから水分が出るので水を入れる必要がなく、どんな料理も自然な味付けで美味しく仕上げてくれた。
子どもの頃から大好きだけど家では一度も作ったことの無かった唐揚げも、SATUBへの絶大な信頼の元挑戦してみた。GOHAN鍋は深さがあるため油跳ねも少なく、揚げ物とはこんなに簡単だったのか……と拍子抜けするほど簡単に揚げ物の高いハードルを越えることができた。
 
1年ほどすると、米を炊いている間に作るおかずもSTAUBで作りたい! と思うようになり、新たにWANABEというシリーズの鍋を購入した。こちらはマットな黒の本体に、蓋のつまみのゴールドが映えるおしゃれなヤツだ。
こうして私はSTAUB2台体制となった。そのおかげで今日もなんとかstay homeしながらあれこれと自炊をし、日々を乗り切っている。
 
そう、STAUBはどうやら私のような料理に手間をかけたくないけど美味しいものが食べたい! という欲張りな料理不精にこそありがたい存在の鍋だった。
決してキラキラと日々の料理を華やかに楽しむセレブマダムのためだけの高級鍋ではなかった。ほぼ毎日使用し、材料を入れて蓋をするだけで美味しいものを作り出してくれる、コスパ最強の鍋だ。
 
でも、私は手狭な家に暮らす一人暮らしの若者には、SATUBを買うことを勧めない。

 

 

 

SATUBは、沼だ。
調理器具でありながら、料理嫌いさえも引きずり込む深い深い沼なのだ。
 
SATUB2台体制で向かうところ敵なしに見える私だが、本当のところもっともっとSATUBを買い足したい。
今持っているのはそれぞれ一品料理を作るには小さめの鍋だ。本当はもっと大きいサイズでタネの種類が多いおでんを作ってみたい。逆に小さいサイズの鍋でアヒージョを作るのも良さそうだ。
オーバル型の鍋なら、魚を一尾丸ごと調理ができるし、タジン鍋で蒸し野菜のサラダを作っても美味しいだろう。
ココットと呼ばれる形の鍋なら、一人分のグラタンをそのままサーブするのも食卓が楽しくなりそうだ。
STAUBで作る料理の美味しさを知ってしまうと、食べたいものは全てSTAUBで調理したくなる。そしてせっかくなら一番美味しくでき上がりそうな、適したサイズ・形の鍋を買い足したくなってしまう。
 
豊富なサイズ展開に加え、カラーバリエーションも憎らしいほど豊かだ。艶のある色、マットな色、限定職にバイカラー……。なんとか形を決めても、そこからどの色にするか迷ってしまう。
STAUBはその見た目から、テーブルセッティングの一員どころか主役も張れる実力を持っており、自分の持っている食器の色味とどのカラーが合いそうかな、などとイメージしながら色を選ぶのも楽しい。
料理と鍋の相性という観点もある。
カラフルなパエリアだったら黒い鍋が似合うだろうし、ビーフシチューの温かさを深いブルーなら上手く引き立ててくれるだろう。
同じ形の鍋でも、作る料理によって似合う色がまた変わってくるのだ。色と形の組み合わせは無限大だし、見た目にも楽しい食卓にするなら様々な種類のSATUBを揃えたいという欲はどんどん深まっていってしまう。
 
さらに罪なことに、鍋を自分好みにカスタマイズする楽しみまでSTAUBには存在している。
なんと、蓋のつまみを付け替えることができるのだ。
最初に付いているつまみはシンプルな形をしているが、そのつまみを動物などの形を模したつまみに付け替えることができる。豚や鶏、カボチャの形をしたつまみは、けしからんほどに可愛らしい。
形・色に加えて、蓋のつまみをどうするか問題まで発生する。
 
こうなってくると、完全に沼だ。
STAUB沼に首まで浸かってしまい、すっかり虜になってしまう。新色が出れば店舗に見に行ってしまうし、大鍋で作ったメイン料理と一人ずつにサーブできる小鍋で作ったスープの食卓をイメージして人数分の小鍋を買いに走ってしまうなんてことも起こりうる。
 
それでも良いのだ。
スペースとお金に無限の余裕がある人は。
 
ただし、残念ながらそう上手くはいかない。
特に、私のような手狭な1Kに住む者は。

 

 

 

STAUBはまず、冒頭で述べた通りコスパは良いものの、決してお安いお値段ではない。私が最初に買ったGOHAN鍋だって、2合炊くサイズで定価は19,000円だった。
一人暮らしの若者にとって、ぽんぽん買えるものではないのだ。しかもその鍋使う人数も基本は一人きり。
自分のお財布とよくよくよくよく相談しながら、家に迎えるべき鍋を絞りに絞り込む必要がある。
 
そして、なんと言ってもこの鍋は場所をとる。
蓋の形状からして重ねて置けるものでもなく、かつ鋳物なのでとても重い。キッチンに吊り戸があったとしても、持ちあげて収納するのは難しいし危険だ。もし吊り戸に仕舞うのなら、使うたびに毎回台を用意する必要があるだろう。毎日使う鍋なのに。つまり、仕舞える場所が限られる。
そうすると、狭い部屋の中ではSATUBを沢山所持することは難しい(部屋の一部分をSTAUBに捧げてもいいと思うほど沼に深く浸かっている場合を除く)。
 
ただ、ありがたいことにデザイン性はとても良いので、出しっぱなしにしていてもなんとなくキッチンはおしゃれに見える。使い込まれた品のいい佇まいのキッチンアイテムは、置かれているだけであたかも丁寧に毎日を暮らしているかのような雰囲気を醸し出してくれる。
その嬉しい特性を活かしても、私の所持できるSTAUBは2台が限度だった。
年始に発売されるSATUB福袋がどんなに破格で誘惑に満ちていても、4万円で鍋が3つに器が3つ、5万円の福袋に10万円以上の商品が入っていても購入することはできないのだ……。悲しい。沼に浸かっているのに色々な条件が邪魔をして、愛しいSTAUBを迎えることができない。
 
たかだか鍋に、いくら安くなっていても5万円も出す? と思ったそこのあなた。
あなたが正しいです。私はもうとっくに沼に落ちてしまっていて、這い上がることができないのです。
一人暮らしの若者で、STAUBあると料理楽しくなるかも、いいかも、と思っているそこのあなた。私は止めましたからね。沼のほとりにいるあなたを……。
 
そしてまた、新しい限定色がそろそろ発表される頃だ。
また沼深く沈んでしまうじゃない。やめてよ、バカ。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
toko(READING LIFE編集部ライターズ倶楽部)

京都生まれ、スイス・東京育ち。
不動産デベロッパーとして勤務する傍ら、ライターとしても活動中。
フランスをこよなく愛する刺繍家でもある。

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2021-02-01 | Posted in 週刊READING LIFE vol,113

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