週刊READING LIFE vol.121

あなたのパフォーマンスが一瞬で数倍になる超簡単な方法!!《週刊READING LIFE vol.121「たとえ話で説明します」》


2021/03/29/公開
記事:佐藤謙介(天狼院ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)
 
 
もしあなたが「幸せ」になりたいのであれば、まず試してほしいことがある。
 
それは「笑顔」を見せることだ。
 
「笑顔!?」
「何だ、精神論か……」
 
そう思われた方もいるかもしれない。
ただ、ちょっと待ってほしい。
 
これは単に「笑顔でいれば気持ちも明るくなり、ポジティブになれるよ」ということを言いたいわけではない。「笑顔」でいると、リアルにあなたの仕事のパフォーマンスが変わってくることが分かってきているのだ。
 
まず私が学生の時に経験した実例からお話ししたい。
私は大学生の時に2年間、新宿にあるBARでアルバイトをしていたことがある。
私が働いていたお店はカウンターとホールに別れていて、カウンターにはバーテンダーと彼をサポートするスタッフが1名入り、お客様からドリンクのオーダーが入るとサポートスタッフが後ろにある棚からお酒を取り出しバーテンダーに渡すという流れだった。
 
カクテルだけでも数十種類あり、お酒も100種類以上揃えているお店だったので、お酒の名前とレシピを覚えるだけでも最初はかなり苦労した。
それでも何とかバーテンダーのサポートを行うように懸命に努力していた。
 
ある日、いつも以上にお客様が多く、お店全体が大変な慌ただしさになった。私もカウンターに入り、目の前に座っているお客様の接客と、バーテンダーのサポートで慌てふためいていた。
 
カウンター内にはグラスを洗う食洗器があり、下げられたグラスは即座に洗って、棚に戻さなければ、グラスが足りなくなってしまう。そのためドリンクを作ることと、飲み終わったグラスを洗って次に備えることを同時にしなければいけなかった。
 
その間も、カウンターのお客様のオーダーを聞いたり、時にはお酒の説明をしたりしなければならず、私はかなりテンパっていた。目の前には飲み終わったグラスの山がどんどん大きくなり、カウンターはお客様から見えないところでありえないほど混乱した状態になっていた。
 
そしてオーダーが入っているにも関わらず、バーテンダーに棚にあるお酒を出せず「早く出せよ」と小さな声で怒られるようになった。私は余計に焦り、いつもなら棚のどこにお酒が置いてあるか分かるはずなのに、慌ててしまい、結局バーテンダーが自分で棚から出してカクテルを作り始めた。
 
そしてようやく閉店になり、最後のお客様をお見送りした。
その瞬間、
 
「お前何やってんだよ。全く仕事にならなかったじゃないか。
アルバイトだからって仕事なめてんじゃねえよ。出来ねえなら辞めろ!!」
 
バーテンダーの怒声が店内に響いた。
 
私は言葉を返すことができなかった。
今日の自分の手際の悪さは自分でもよく分かっていた。申し訳ないという気持ちも当然あった。しかし、あれだけ混雑した中で自分だって一生懸命やっていたのに、一方的に怒られたことに対して私の中にもバーテンダーに対しての怒りの気持ちが湧いた。
 
「だったら辞めてやる」
 
その言葉が喉まで出かかったが「申し訳ありませんでした」と謝罪し、その日は終わった。しかし翌日も私はそのバーテンダーと一緒のシフトで仕事に入ることが決まっていたため、帰りの電車の中で「明日行きたくないなあ」と憂鬱な気持ちになった。
 
翌日お店に向かう途中、自分の気持ちの整理がつかず頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。とてもではないがこんな気持ちでまともに仕事なんてできないし、そもそもあのバーテンダーの顔を見るのも正直嫌だった。
 
しかし、お店の前まで来たときに私の中で一つの結論を出した。
 
「このイライラした状態で仕事なんてできない。だったら今日は作り笑いで良いから、せめて笑顔で仕事をしよう」
 
もうシンプルにそれだけを心がけようと思い、お店に入るときにもあえて明るく「おはようございます!!」と挨拶して入っていった。
 
開店の時間になりカウンターには昨日と同じバーテンダーと私が並んだ。バーテンダーはまだ昨日の怒りが収まっていない様子で、私と目を合わせず無言でいた。それでも私は笑顔でカウンターに立った。
 
開店して1時間もすると店内は満席になった。
あっという間に昨日以上に忙しい状況になってしまった。
ドリンクのオーダーが次から次へと入り、飲み終わったグラスがどんどん下げられてきた。私は「ごちゃごちゃ考えるな。笑顔を出せ」と心の中で呟いていた。
 
すると昨日とは全く違うことが起きた。
ドリンクのオーダーが見えた瞬間にレシピを全て思い出すことができ、すかさず棚からお酒を取り出すことができた。
目の前に溜まったグラスを洗いながら、次にやることが頭の中に浮かび、カウンターのお客様のグラスが空になるのが見えると「次のお酒はいかがですか?」と提案することができた。バーテンダーが使い終わったシェイカーも置いた瞬間に下げて次のシェイカーを用意した。
 
そして時間はあっという間に過ぎ閉店の時間となりお客様のお見送りが終わった。
店長の「お疲れ様した!! 今日も大変だったね」という声が聞こえたときに、バーテンダーが私のところに近づいてきた。
 
そして
 
「お前、今日スゴイ良かったよ。昨日の100倍良かった」
 
と笑顔で声をかけてくれた。
私も笑顔で「ありがとうございます!!」と返事をすることができた。
 
昨日は何もできず、ただただテンパっていた自分が、今日は全く別人のように頭が冴え、動くことができたことに自分自身が一番驚いていた。
変えたことはただ一つだけ。
 
「笑顔を出すこと」
 
たったこれだけのことが自分のパフォーマンスを全く変えてしまったことにただただ驚くしかなかった。
 
いかがだろうか、これは私が体験した「笑顔」の効力である。
「たまたまでしょ」
「やはり気の持ちようってこと?」
と思われたかもしれない。
 
しかし、私に起こったこの出来事は実は理論的に説明することができる。
実はこれはコーチングで使う「コンフォートゾーン」という考え方で簡単に説明することができる。
 
私は現在プロコーチとして活動しているが、この事例はまさにスポーツ選手が自分のパフォーマンスを最大限に発揮するときと同じことが起こっていたのだ。
 
「コンフォートゾーン」とは「自分にとって居心地の良い空間」という意味である。
また「コンフォートゾーン」は「緊張」と密接な関係性があることが分かっている。
 
例えばあなたにとって自分の家はコンフォートゾーンである。
家に帰って自分の部屋に入るとホッとするということを、あなたは何度も体験しているはずだ。よほどのことが無い限り、あなたの部屋はあなたにとって「リラックス」できる場所のはずである。
 
ところが、営業で初めて行くお客様先の応接室はどうだろうか?
おそらく座っているだけで、そわそわして居心地の悪さを感じるのではないだろうか。つまり「緊張」しているのである。
 
人は自分にとってコンフォートゾーンでは「リラックス」することができるが、コンフォートゾーンを外れた場所では「緊張」するようになっている。
 
そしてこの緊張状態があなたのパフォーマンスを大きく変えてしまうのだ。
 
例えばサッカーの試合では「ホームゲーム」と「アウェイゲーム」がある。自分たちのチームが普段使っているスタジアムで試合するときが「ホーム」。相手チームのスタジアムに行って試合をすることを「アウェイ」という。
 
そしてこのホームとアウェイでは勝率が全く異なっているのだ。実際にJリーグの全試合においてホームゲームの勝率は42.3%。アウェイでは33.7%となっていて、ホームで試合をする方が勝率で10%も高い。
 
これはホームスタジアムが選手にとって慣れ親しんだ場所(コンフォートゾーン)のため、選手は緊張せずに、自分たちのパフォーマンスを十分に発揮することができるのに対して、アウェイは普段とは違う環境で試合をするため、緊張状態になりいつものように動けなくなってしまうのである。
 
実はこの仕組みと全く同じことがBARのアルバイトでも起こっていたのだ。
私が上手く仕事をすることができなかった最初の日は、いつも以上にお客様が入ったため、普段働いているお店にも関わらずコンフォートゾーンから外れてしまい「緊張状態」になっていた。
 
そのため、私の頭はパニックを起こし、いつもならできることができなくなり、パフォーマンスを極端に下げたのである。
 
しかし翌日私は「笑顔」で仕事をするとだけ決めた。
すると、「笑顔」にしたことで、顔の表情筋が緩みそれが脳に「リラックスしている」と伝わり、緊張状態を緩和し、混雑した状態を「いつもの慣れ親しんだ場所(コンフォートゾーン)」にしたため、私は高いパフォーマンスを出すことができたというわけだ。
 
ここから分かることは、「緊張」は「コンフォートゾーン」から外れたときに起こる状態であり、「笑顔」を作ることで「リラックス」した状態を作ることができるため、その場を「コンフォートゾーン」に戻す効果があるということだ。
 
つまり、無理をしてでも「笑顔」を作ることによって脳に「自分はコンフォートゾーンにいる」と錯覚させることができるということなのだ。
 
そして実際私はこの経験から、仕事中にあえて笑顔を作ることを意識的に行うようになった。例えば営業の仕事でお客様と接しているときには常に笑顔でいるように意識した。そうすることでお客様の課題が見つけやすくなり、いいアイデアも浮かぶので提案内容も作りやすくなった。
 
また「笑顔」は実は声でも伝えることができる。
電話でお客様に訪問のアポイントを取る「テレアポ」においても、私は笑顔で行う時と、笑顔を出さずに行う時でアポイントの獲得率が異なることが分かった。
 
あの大経営者の「松下幸之助」も「心に笑顔、声にも笑顔」という名言を残されている。
 
「暗く沈んだ心、活気のない声や振る舞いは人を遠ざける。いつも笑顔を絶やさずにいたい。明るい笑顔は周囲との穏やかな関係を築き、新たなものを生み出す原動力となる。」
 
そういえば松下幸之助さんをネットで検索すると、ほとんどの写真が満面の笑顔だ。この笑顔が戦後の暗い時代に社員を明るく照らし、世の中をポジティブに変えていく原動力になっていたのではないかと思う。
 
他にも笑顔の効用は枚挙にいとまがない。
自己啓発の大家であるデールカーネギーは名著「人を動かす」で、この「笑顔」だけで一章を使っているほどである。
 
その中で「笑顔を見せる気にならないときはどうすれば良いか?」という一節がある。
そこでデールカーネギーは
 
「まずは無理にでも笑ってみることだ。動作は感情に従って起こるように見えるが、実際には連動している。したがって快活さを失ったときの最善の方法は、いかにも快活そうに振る舞い、快活そうにしゃべることだ」
 
と言っている。
まさにその通り!!
 
私たちが普段暮らしていて、どんな人に心惹かれるだろうか。
暗い顔をしている人、怒った表情をしている人に魅力を感じるだろうか。
その人の近づいていきたいと思うだろうか。
 
私たちが魅力を感じ、近づきたいと思う人は笑顔でいる人だ。
赤ちゃんの笑顔を見て、こっちも笑顔になってしまうのは、笑顔が人に幸せな気持ちにする力があるからだ。
 
地球上にいる全動物の中で、意識的に笑顔を作ることができる生物は人間だけである。これは人類が円滑なコミュニティを作るために表情筋が進化したからだと言われている。つまり「笑顔を作る」ことは人間が社会生活を行う上で最も重要なスキルなのかもしれない。
 
ちなみにネットで笑顔が似合う女優ランキングというものがあったので見てみたら、一位は「新垣結衣」だった。
 
分かる!!
あの笑顔は誰をも幸せにする笑顔だ!!
(断っておくが私は新垣結衣さんのファンではない。本当に……)
 
もしあなたが幸せを手にしたいのであれば、何はともあれまずは笑顔を出すことだ。
もしかしたら鏡の前で練習する必要もあるかもしれない。
 
しかし、いつでも笑顔が出せるようになれば、あなたの仕事でのパフォーマンスは上がり、そして人を惹きつけることができるようになるはずだ。
 
元手は何もいらない。しかし利益は莫大だ。
騙されたと思って、この記事を読み終えたら「笑顔」を作ってみてほしい。
 
 
 
 

□ライターズプロフィール
佐藤謙介(天狼院ライターズ倶楽部 READING LIFE公認ライター)

静岡県生まれ。鎌倉市在住。
大手人材ビジネス会社でマネジメントの仕事に就いた後、独立起業。しかし大失敗し無一文に。その後友人から誘われた障害者支援の仕事をする中で、今の社会にある不平等さに疑問を持ち、自ら「日本の障害者雇用の成功モデルを作る」ために特例子会社に転職。350名以上の障害者の雇用を創出する中でマネジメント手法の開発やテクノロジーを使った仕事の創出を行う。現在は企業に対して障害者雇用のコンサルティングや講演を行いながらコーチとして個人の自己変革のためにコーチングを行っている。

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2021-03-29 | Posted in 週刊READING LIFE vol.121

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