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週刊READING LIFE vol.15

A5ノートに詰まった私の世界≪週刊READING LIFE「文具FANATIC!」≫


記事:中川文香(READING LIFE公認ライター)

 
 

「それ、手帳ですか?」

 

かばんからいつものノートを取り出すと、そう尋ねられた。
おそらく「ずいぶん大きいですね」の意味が込められた質問だったのだろうと思う。
手帳ではない。
ただのノート。
ネットで頼んだバインダーに、文具店で売っている書き心地なめらかなルーズリーフを挟んで使っている、ただのノートだ。
中身を見せると「あ、なんだ、ノートか」という顔をされた。
このノートスタイルに行き着くまでに色々と試行錯誤して、今、この形に落ち着いている。

 

数年前、私は今とは違う仕事をしていた。
その仕事は出張が多く、しかも入り組んだ建物の奥にあるネットの届かない隔離された場所で作業することもよくあった。
この時代に、ネット環境の無い場所で作業するのはなかなかツライ。
メールがリアルタイムで確認できないし、会社で利用しているグループスケジュールも更新できない。
そんな理由から、当時私は紙の手帳を使っていた。
打ち合わせの予定や作業スケジュール、プライベートな予定まですべて紙の手帳にその場で書き込み、色分けしたりして自分なりに管理していた。
その手帳の中に、その時に思ったことや思い出や、仕事で思いついたアイデアなどを自由に書き込んでいた。
必然的に手帳としては少し大きめサイズで、A5版やB5版を使っていた。

 

ところが。
転職した次の仕事は、とにかくスピード重視の目まぐるしい展開の会社だった。
数々の〆切に追われ、だんだんと紙の手帳に予定を書く余裕が無くなって、それでも自分のスケジュール管理はしないと色々な〆切を把握できない! どうしよう……と半ばパニックになっていた時に出会ったのが、Googleカレンダーだった。
当時、スマホをSIMフリーに変更するためにGoogleアカウントを作ったばかりというタイミングも重なり、「Googleカレンダーって結構使ってる人いるみたいだけど、正直どうなのかなぁ……」と紙の手帳信者だった私は半信半疑で使い始めた。
……のだけれど。

 

Googleカレンダーめっちゃいいじゃん!

 

使い始めると、それまでの疑いの気持ちはどこ吹く風、Googleカレンダーの魅力に取り憑かれてしまった。
これまで紙の手帳に書き込んでいたことが、すべて実現できる!
予定の種類ごとに色分け出来るし、時間の量を目で見たかった私にとってバーチカル式で予定を見ることが出来るのはありがい。
しかも予定の1時間前とかにご丁寧にお知らせまでしてくれるし、タップ一つで一ヶ月の予定と一日の予定の切り替え表示もできる!
なにより、リスケした時に書き直すのがすごくラク!
紙の手帳だと、変更前の予定を二重線で消したりして「なんかきたなくなったなぁ……」とちょっと悲しくなったりしていた。
これまでやっていたことがしっかり実現できる上に追加機能まで……とりあえずネット環境の無い場所に仕事で行くこともほぼ無くなったし、スケジュール、Googleカレンダーにして良かったぁ。

 

そんな、今やすっかりGoogleカレンダー信者で、紙の手帳はほぼ使っていない私だけれど、Googleカレンダーでは対応できないことが一つだけあった。

 

その時の自分の感情や、思い。空気感。
そういうのが、どうしてもデジタル文字からは伝わってこないのだ。

 

予定の管理はGoogleカレンダーを使って、スムーズに出来るようになった。
「明日はこれとこれとあるから、文章を書くのに使える時間はこのくらいだ」
「今週末は出掛けるから、この作業は今日明日中に済ませておかないと厳しいな」
というタスク管理は紙の手帳でなくても出来る。

 

けれど、
明日あの人に会うからこんな話したいな、
とか、
誰かと話してなるほど、と思ったあの言葉
とか、
これは仕事に使えるかも! と思ったアイデア

 

そういう、これまで手帳の余白に書き込んでいた色々が、Googleカレンダーには書き込む場所が無かった。
スマホのメモ帳も使ってみたりした。
でも、なんだかしっくりこないのだ。
その理由がようやく最近わかった気がした。

 

自分の手を動かして書く、ということに意味があるのだ。

 

学生時代のノートを思い出してみて欲しい。
きっと誰にでも経験あるのではないだろうか。
ものすごーく眠かった授業のノートは、「あの時の自分、どうやって書いたんだろう……?」と思わず疑問に思ってしまうような、ミミズがのたくっているような字が並んでいたはず。
ノートを見返してみると、「あ、この日、すっごい眠かった日だ」とか「ここ、めちゃくちゃ分かって面白かったんだよなぁ。すごい筆圧で書いてるなぁ」とか、その日の自分のコンディションまで伝わってくる。
自分の手によって書かれた文字たちは、その時の自分の気持ちまで保存してくれるのだ。

 

思ったことや感じたこと、学んだことを手書きで残していくことは、自分の履歴を書き残していくことだ。
そのノートの中には、これまでの自分が詰まっている。
そして、それを後々見返すことで「あのときこうだったなぁ……」という感慨にふけることも出来るし、過去の考えから今また違う思いが湧き上がることもある。
ノートを見返すことで、その時の自分のコンディションを感じながらまた新しく感情を生み出すことが出来るのだ。

 

そのことに気づいて、私は紙のノートを持ち歩くことにした。
紙の手帳を使っていた頃は、手帳の余白に書き込んでいたことたち。
それをノートに書くようにした。

 

はじめは、仕事用とそれ以外の活動やプライベートの日記みたいなものを分けていた。
そうしたら、書くたびに違うノートをとりだすのが面倒になってきた。
分けると数が増えて、重いし。
そこで、バインダーにルーズリーフ入れて使う形式にして、一つのノートにまとめることにした。
「あ、このノートじゃなかった!」という “持っていくノート間違い” も心配なくなった。

 

そして、ノートを一つにまとめることによって、棚ぼた的なラッキーが生まれた。

 

仕事で考えていたことに、文章を書く上で勉強していた記録が役立った。
心理学の勉強に使ったメモが、別の活動のヒントになった。

 

これまでばらばらに動いていたものが、少しずつ少しずつだけどつながってひろがりをみせてくるような、そんな現象が起こるようになってきた。
こんなことを言うとちょっとあぶない人だけれど、私のノートの中で、私が書いた文章たちが会話して結託して、私に新しい考え方を提示してくれているような、そんな気さえする。
そんな、ちょっとオカルトちっくな考えさえ持たせてしまうくらい、紙に書き出す、という作業は私の想像以上に私の脳みそを働かせてくれるのだ。

 

何か考える。
手を動かす。
“書いて手を動かす”という行為が、頭を使うことと直結して、手が動きながら考えてくれる、という感覚が分かるような気がする。

 

だから、私はいつもノートを持ち歩く。

 

今愛用しているかばんは、A4サイズの紙がちょうど収まるくらいの小さめのリュック。
その中で迷子にならないくらいの大きさで、なおかつかばんから取り出す時にひっかかったりじゃまにならないサイズ。

 

A5サイズのノート。
それが私のたどり着いた先。

 

使っているカバーはネットで探して使っているもの。
A5ノートを使おうかなと思った時、どこまでそれが私に合うか分からなかったのでお試しで、正直そんなに高いものではない。
けれど、使っていくうちにだんだんと愛着が湧いてきた。

 

そうやって、色々と試行錯誤してみた結果、みんなお気に入りのものを見つけていくのだと思う。

 

まっさらなノートに自分の文字を書きつけていく。
白かった紙の上には、自分の頭の中が写されていく。
紙の上に書き出された文字を見てまた新しく考える。
手を動かしてみたぶん、脳みそが働きはじめる。
この感覚、きっと普段のノート使いを始めたら、分かっていただけるのではないかと思う。
スケジュールは可能でも、“ノートに書く” という行為はデジタルに移行できなかった。

 

A5ノートには私の小さな世界が詰まっている。
今年はその中にどんな文字が踊るのだろう。
今からわくわくしている。

 
 

ライタープロフィール
中川 文香(READING LIFE公認ライター)
鹿児島県生まれ。大学進学で宮崎県、就職にて福岡県に住む。
システムエンジニアとして働く間に九州各県を仕事でまわり、2017年Uターン。

Uターン後、地元コミュニティFM局でのパーソナリティー、地域情報発信の記事執筆などの活動を経て、まちづくりに興味を持つようになる。
現在は事務職として働きながら文章を書いている。
NLP(神経言語プログラミング)勉強中。
NLPマスタープラクティショナー、LABプロファイルプラクティショナー。

興味のある分野は まちづくり・心理学。

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2019-01-14 | Posted in 週刊READING LIFE vol.15

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