おもてなしのギャップ
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記事:CHACO(ライティング・ゼミ平日コース)
日本もここ10年ほどで急速に国際化が進んでいる。
とは言っても一般市民の私からすると、見かける外国人の数が増えるに従い、行政や周りの人々がそのスピードについていけてない感がある。
街中での案内板に関していえば、数か国語表示がずいぶん増えてはきたが、役所での手続きや医療・教育の場面など、日本に「住む」上で必要なコミュニケーションがスムーズに運ぶよう、まだまだ個人レベルで改善できるところがあるように思う。
本当の国際化は、来日する外国人の人数ではなく、案内板の表記でもなく、彼らを受け入れる側の心構えにあると私は考える。
私が初めて海外に「暮らして」みたとき、同僚のイタリア人の言葉がとても印象的だった経験をした。彼女は、ロンドンにやってきたばかりの私にとても親切に接してくれたのを覚えている。そして、
「あなたはどうしたい?」
「私が~した方がいい? それともあなたが自分でやりたい?」
などと、必ず私の意向を聞いてくれて必要な分だけ、手助けしてくれた。
日本から来たばかりの私にとって、その質問はとても新鮮だったし、親切の程度を自分で選べることに感動すら覚えたものだ。海外でひとりでやっていけるかどうか、試すつもりで意気込んでいた私は、そもそも誰かに何かをやってもらおうという気すらなかったのだから、この「選べる親切」はそんな私にぴったりだった。
一方、私が家族を連れてドイツから日本に帰ってきた当初、ドイツ人の夫が日本人の親切さに多少とまどっている場面によく遭遇した。そもそも、何か必要なことがあればそれをはっきりと伝えるのになんら躊躇しないドイツ人だ。私からすれば、あれこれ察して、あれもこれもと与える必要はない。日本人独特の「おもてなし」の心からだろうというのはわかるが、どうにもその心が一方通行に見えた。どうもギャップがあるのだ。
良かれと思って、たくさんのご当地名産品やお土産スイーツなどを紙袋3つほどいただいたこともあったが、これはさすがに荷物になるし、実は、日本のいわゆるお土産品のお菓子がヨーロッパ人には不向きであることはあまり知られていない。無難なのはチョコレート。チョコレートなら老若男女みんなに喜ばれる。ただ、一般的に彼らは日本人ほどグルメや食に興味もない。
こういった一方通行のコミュニケーションを見ていると、ここで提供しているのはこちらが良しとするおもてなしであって、相手によっては押し付けにすらなってしまうものだ。観光客であればそれも日本での興味深い体験だと思えるだろうが、日本にはたくさんの外国人が住み、社会の一部を構成している。彼らはもはや「お客様」ではなく、日本人と同じように「普通に」暮らす人々だ。だから社会の一員として「普通に」接してほしいと思っている外国人は少なくない。一方通行の「おもてなし」はかえって彼らをがっかりさせると思う。
私自身の経験からも言えることだが、外国に住んでいて一番嬉しく感じるのは、現地に少しでも溶け込めたと思える時である。外国人だからといって(いずれ国に帰っていく)お客さんとしてではなく、地域住民として認められることが何より嬉しいし、これまで慣れない環境で頑張ってやってきて本当によかったと思える時だ。
そして彼らは少しでも日本の社会になじめるようにと、日本語も学んでいる。だから、ちょっと日本語を話したくらいで安易に「おじょうずですね」とコメントするのも彼らにとっては違和感がある。どうせあなたたちはペラペラしゃべれるようになれるはずがない、と思われてるのだという印象を与えてしまうことがあるからだ。本当に日本語が上手な人には「おじょうずですね」でよいだろうが(ただ、本当に上手な人はそういうことをさんざん言われてきているので、少々うんざり気味かもしれない)、まだ習得中の人には「日本語勉強してるんですか?」などと話題を振り、話し相手になるほうがよっぽど本人のためになると思う。まあ、それも本人の意向を聞いた方がよいと思う。日本語を学んでいる外国人がいつも日本語を話したいとは限らないからだ。
おもてなしはつまり、双方向のコミュニケーションがベースにあってはじめて受け取ってもらえるものであると思う。磨くべきはコミュニケーション力!
来年は東京オリンピックとパラリンピックが開催されるが、海外からたくさんの人が訪れるだろう。開催期間中、実際にどのくらいの外国人を目にするのかは想像できないが、もし私も機会があれば、受け取る側に心地よいおもてなしを提供したいと思う。それでこそ、おもてなしの国、日本だと思う。
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