未知との遭遇
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:いしやま なおみ(ライティング・ゼミ平日コース)
8月の後半、私は毎晩恐怖と戦っていた。
私の家の隣は空き地で、家の敷地と空き地との境目に大きな木が何本か生えており
その緑が素敵だったので、今の家に引っ越しを決めた。
窓から、風に揺れる木々を眺められるのはとても心地が良い瞬間だった。
やっぱりこの家にしてよかった。
しぶしぶ決めた家だったから、自分に言い聞かすように木を見て心のざわつきを抑えていた。
だけども、こんなにも毎日恐怖と戦うことになるとは思ってもみなかった。
7日間しか生きないセミがこんなにも怖いものだとは……
ある晩、家に帰ってきて
階段を登ろうとしたところ
「ジジジッ」
目の前を黒い物体が勢いよく右から左へと横切り、壁に激突した。
激突してもなお、ジタバタ、ジタバタ。
「ジジ、ジジジジジ」
もう鳴き声でピンときているかもしれないが、
その物体とは、あの、終わりかけのセミである。
単なるセミではなく、終わりかけというところが重要なポイントだ。
数年間長い間土の中で養分を蓄え
成虫になるためにやっと外に出てきたかと思いきや
甲高く泣き叫び、1週間ぐらいしたら生き絶える。
人間からしたら儚い生き物でもあり、
1週間しか地上で命がないというととても尊い生き物にも感じる。
まさに、夏の風物詩とでも言えよう。
だけども、実際問題そんなに美しいものでは済まされない。
セミの存在は地球の生態系にとって、なくてはならない存在かもしれないが
私にとっては恐怖でしかなかった。
「存在意味が全く理解できない!」
毎晩毎晩、目の前に現れては、階段を上るのを邪魔したり、
玄関前でジタバタ右往左往して家に入らせてもらえない。
そんな仕打ちを受けていたら、
いつからか、この世から消えて欲しいと心の底から思うようになっていた。
くたばる前のセミは暗闇を予想不可能なルートで動く、スペースマウンテンのようなものである。
前見えてる? と問いたくなるくらい起き上がっては、壁にぶつかり、扉にぶつかり
ぐるぐるジタバタ、どこかに進んでいるつもりかもしれないが、
同じところをぐるぐる回っていて、どこにも行けていない。
酔っぱらいとでもいった方がわかりやすいかもしれない。
もう帰る場所もわからない、家を失った酔っ払い。
どこへ誘導してあげると幸せになれるのだろうか……私は知らない。
ナウシカの虫笛でもならせば一斉に森へ帰ってくれるだろうか?
でも、彼らの森とは一体どこなのか……すぐ隣の空き地? あり得る。
毎晩現れるセミ。
黙って見守っていてはいつまでたっても部屋に入れないので
私はセミを追いやるように壁やら床をドンドンした。
「こっちじゃないよ、あっちだよ。」
心の中で囁きながら、優しくトントンとセミを誘導する。
5分ほどやり取りを行なったのち、セミは酔っ払いながらも階段下へと転げ落ちていった。
いつも決まって終わりは突然にやってくる。
「もう、泣きたいのはこっちの方だよ!」
何も攻略法をつかめないまま、
玄関前でのこのやり取りは9月に入るまで毎日続いた。
重苦しい夏の暑さに追い打ちをかけるようなセミ問題。
来年はこの家にいないでおこうと心に決めたのは言うまでもない。
虫とやり取りするようになったのはセミだけではない。
今の家に引っ越してから何かと虫に好かれている。
普段から、窓を開けっ放しということもあるが、
外出先で虫ついているよ! と頻繁に指摘されたり、部屋の中にカメムシがひょっこり現れたりしている。この歳で初めてミツバチにも刺された。
人間の友達が減った代わりに、虫が慰めに来てくれたのだろか?
いい虫ならいいが、今のところ嬉しいお知らせはない。
アリとか飛ばない小さい虫なら結構平気で払いのけられるのだけれども
1cm以上もある、飛んだり鳴いたりする虫はどうもこうも対応に困ってしまう。
こちらの意に反して、あらぬ方向に飛び立つこともあるので
できる限り出会いたくない。
ふと、思った。
「なぜ人間より小さい生き物にこんなにも恐怖を感じているのだろうか?」
気になったので、早速グーグル先生に質問してみた
虫が怖い 理由
な、る、ほ、ど、
なんとなく予想はついていたが、少し解決した
人は自分に近いものには親近感を覚え、自分と異なるものほど嫌悪感を感じるよう本能が働いているという。
やっぱりな。
私たちヒトとは違う形をしていて、言葉も交わせない。
何を考えているのか全く読めない相手を好きになれるわけがない。
だとすると、誰かを嫌っていたりするとなんとなく嫌いな雰囲気が伝わってしまうときがあるように、それと同じで虫にも私たちが嫌っていることが伝わってしまっているのかもしれない。
虫は過敏に反応して、人に出会ったらパニックを起こしてしまっているのだろうか。
そう考えると、かわいそうになってくる。
人間の前に出てこなければ死なずに済んだ虫たちはたくさんいるであろう。
もし虫が言葉を話せたら、私たちは仲良くやっていけることができるのだろうか?
終わりかけのセミに「お疲れ様でした」と声をかけてあげることができたら
セミはすんなり成仏してくれたのだろうか?
あんなに、死ぬ間際に恐怖と戦いもがき苦しまずに済んだかもしれない。
虫と人、仲良く生きる道なはいのか?
***
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