簿記3級に落ちた大学生が、税理士になるまで
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記事:桑原(ライティング・ゼミ特講)
「日商簿記3級……不合格」
不幸はこの一通の通知書から始まった。
いや、いやいや。
思い返せば、もっと前から始まっていたかもしれない。中学でやった軟式テニス。漫画スラムダンクに影響されて高校から始めたバスケ。どちらも部活の中で一番下手くそだった。なぜ苦手なスポーツを6年間も続けたのか自分でも分からないほど、多くの時間を割いた。今じゃ考えられない時間の使い方だ。
勉強だけは少しできた。しかし、唯一得意な勉強も学区で一番の公立高校に入ってからはまったく通用しなかった。一生懸命やってようやく、半分よりちょっと下くらいの成績だった。
志望校の国立大に落ち、後期試験で滑り込んだ県外の大学。一年目は単位もそれなりに取れたが、二年目からはボロボロ。親元を離れて、自分の怠惰な性格に改めて気づいた。
同じ学部に佐藤という男友達がいた。佐藤と俺は入学して2年くらいはかなり仲が良く、男女7人くらいのグループでよく遊んだりした。俺のほうが授業に顔を出さなくなり、3年の頃には必須の授業でたまに顔を合わせる程度になっていた。
ほとんど生産的な活動をしていなかった俺は、周りが就職活動をする頃になって、さすがに将来に焦りを感じだした。
もともと、自分が何者かすごい奴になれるという自信だけはあったものの、今の生活のままではTOTOビッグに当たりでもしない限り、何者にもなれない、ということは感じていた。
「人生を、変えたい」
そんな想いが21歳の自分に湧き上がってきた。人生で初めてまともに本を読み始めた。時期もあり、就活の本に手を伸ばしたら「受けたい企業を調べる前に、自分が何をしたいか明らかにせよ」とあった。考えて出した結論は、
「就活なんてしたくない。人に雇われたくない。起業したい」
今考えてもトチ狂ってる。バイトもろくにしたことない奴が何を言ってる。しかし、当の本人は真剣である。
経営者になるための本を読むと、商売をするには「簿記」の知識が必須であると書いていた。はじめて、具体的な行動目標ができた。
(ちなみに、経営者になるのに簿記から始める必要なんてない。経営者になりたいなら何でも良いから、労働以外で「稼ぐ」手段を考え、実行するべきだ)
ちょうど、3週間後に日商簿記3級のテストがあった。
自己啓発本を読んで泣き、
人生を変えたいと一念発起し、
大学の勉強とは関係のない勉強を3週間続けた。
その結果が、冒頭の通知書。不合格だった。
大学の授業の関係で、ひさしぶりに佐藤に連絡をするきっかけがあったので、自虐まじりに「俺、日商簿記3級って資格受けたんだけど落ちたわ(笑)」とメールを入れると、
「お前、まじか?おれの高校生の妹でも2級持ってるよw大学生辞めたらwww」
佐藤とは、別に仲が悪くなったわけでもなかったので、その返信に正直驚いた。
疎遠な関係の人からのたった2行の文章がここまで心に突き刺さるものかと驚いた。
めちゃくちゃ悔しかった。
でも、佐藤に腹を立てても仕方がない。すべて今までの怠惰な自分が招いた結果だ。
自己啓発本を読み漁っていた当時の自分には、簿記3級の不合格と、友人からの思いがけぬ冷たい言葉は、格好のガソリンになった。
「逆境はバネだ。絶対に人生を変えてやる」
それからは、経営者という目標を忘れ、ひたすら簿記に打ち込んだ。その先に何があるか分からない。しかし、簿記2級、1級と駆り立てられるように勉強を続けていると、新しい世界が見えてきた。
日商簿記1級を取れば、経営者の右腕として活躍する「税理士」という資格にチャレンジできるということを知った。経営者を目指していた俺は、その職業に憧れた。
(税理士試験は全11科目のうち、5つの科目で合格すれば税理士になれる)
そして、おなじ時期に簿記学校の壁紙に貼り出されていた「国税専門官募集」の文字が目にとびこんだ。国税専門官とは税務署の職員、つまり税理士と正反対の立場の職業である。
将来、税理士になると決めた俺は、税務署で一度働くのも悪くないと思った。ついに目標は定まった。
そこからの1年間、これまでの人生ではじめて、目標に向かって全力を尽くした。
まず半年後に日商簿記1級に合格し、残りの半年は国税専門官採用試験と税理士の2つの科目に合格した。
しかし、ここで一定の成果に慢心したのか、大学時代の怠惰な自分がまた顔を出す。
税務署で働きながら税理士試験を受け続けるも、3年間合格科目はゼロだった。
このとき、俺は真剣に考えた。このまま税理士にすらなれず、自分が何者か分からないまま終わるのは嫌だと。
怠惰な性格を理解したうえで、どうすれば税理士に合格できるのか。
すべて合格して上手くいった年にできて、合格できなかった3年間にできなかったことは何か。真剣に考えた。
そして、無理やり結論を出した。この結論が合っているかどうかは死ぬまで分からない。でもこう考えるしかないと思った。
税理士に受かるために自分に必要な要素は3つある。3層のピラミッド型をしている。
一番下の土台になるのが「人生へのエネルギー」。
これが無ければ何をどうやったって上手くいかない。そして、自分の性格上、常に高い状態は保てない。「人生を変えたい」というエネルギーが溜まりに溜まって爆発するような時がある。
しかし、ただ待つよりは本を読んだほうがいい。他人の言葉や他人の人生が刺激になって、エネルギーが溜まる感覚はある。
そのひとつ上の中間層にあるのが「実行力」。
人生へのエネルギーが高い場合、実行力も発揮されやすいが、実行力は環境の影響をかなり受ける。
たとえば、税理士の資格学校に定期的に通ったり、職場の近くに自習室を借りるなど、環境を整えることで、雑音による実行力の低下を避けることができる。
最後が「目標達成のテクニック」。
これは税理士試験というゴールに対して、ただ漫然と勉強するのではなく目標達成のためにどうすべきか考えながら勉強することだ。
具体的には、計算も暗記も意味をしっかり理解するようにした。的外れな回答だけはしないように注意した。間違えた問題は、何をどう勘違いして間違えたかを必ず検証した。
この3層のピラミッドが成り立ち、努力を続けた先に目標達成があるのではないかと仮説を立てた。
なので逆に、人生へのエネルギーが税理士試験に向かない年は、仕事に力を注いだ。自分がやりたい事を大事にして、無理やり勉強することをやめた。
その結果、翌年に2つの科目に合格できた。
その後、最後の1科目を合格するまでにさらに2年間空いたが、焦りはまったくなかった。その2年は仕事のほうにエネルギーが向いていると感じたし、実際、試験はダメでも仕事は順調に覚えられた。
21歳の当時の自分の溜まりに溜まった人生へのエネルギーが、無事、俺を税理士へと導いてくれた。
税務署を辞め、税理士事務所で働きだして3年が経ったときに、税理士の資格が取れたわけだが、このタイミングがちょうど良かった。この仕事を3年経ってめちゃくちゃ感じたことがある。それは
「税理士の仕事、おもしれー!」
ってことだ。ひたすれ頭が切れる経営者、とにかく行動量の多い経営者、オーラをまったく感じない経営者。
そんな経営者と毎日、商売について話ができるのだ。そういえば、資格学校の講師も言ってた。
「税理士は合格してからがスタートです!」
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